2017年03月31日

製造業を支える高度部材産業の国際競争力強化に向けて(後編)-我が国の高度部材産業の今後の目指すべき方向

社会研究部 上席研究員 百嶋 徹

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■要旨
前編の前稿では、エレクトロニクス系製品分野を中心に、競争力等の視点から我が国の高度部材産業の現状と課題について考察した。後編の本稿では、前編での考察を受けて、我が国の高度部材産業の競争力強化に向けた今後の在り方について、エレクトロニクス系高度部材産業を中心に、6つの視点から検討・考察を行った。そのポイントをまとめると、以下のようになる。

<(1) 先端分野での技術優位性を磨き続ける不断の努力>
  • 日本企業が依然として強みを持つ、技術難易度が高い製品群の競争力を支える技術優位性を磨き続ける不断の努力が、部材メーカーにとって不可欠であるとともに、先端分野の研究開発助成など行政の支援も強く求められる。国レベルの技術ポートフォリオ上、フル活用すべき既存技術とともに、「テクノロジードライバー」となる先端技術を併せ持つことが重要。企業体力の強い業界大手や起業家精神旺盛な企業などが先端技術分野のイノベーションを主導することが求められる。

<(2) 戦略的パートナーとしての「ソリューションプロバイダー」への脱皮>
  • 部材メーカーが「ソリューションプロバイダー」へ脱皮するためには、顧客の川下メーカーのニーズ把握力、提案力・コンサルティング力、製品開発力・生産技術力・財務力などに裏打ちされた部材開発・生産の実効力を獲得し磨かなければならない。

<(3) サポーティングインダストリーにおける企業間連携の推進>
  • サポーティングインダストリーを担う中小企業にとって、企業間連携による共同受注・共同開発の体制構築が有用であり、大企業との連携のチャンスや技能伝承・事業承継問題の解決につながる可能性もある。このような中小企業の企業間連携の推進では、中小企業の技術シーズの掘り起こしや中小企業の情報発信能力向上の促進とともに、行政・公的機関による支援が期待される。

<(4) 川下のエレクトロニクス産業の復権>
  • 高度部材産業とマザー工場に進化した比較優位を持つ川下産業が国内にバランスの取れた形で集積し、濃密かつ迅速な擦り合わせにより互いに技術を磨き合うことが、製造業の国際競争力の源泉となるため、川下の電機産業の復権が望まれる。2000年代以降、アップルが日本の電機メーカーに代わって、優れた日本の部材メーカーをいち早く見い出してきたが、優れたサプライヤーをきめ細かく厳選するスタンスは、社会的ミッションの実現が起点となっている。「社会変革への高い志・思い」を経営の原動力とする視点は、川下メーカーだけでなく部材メーカーにおいても、組織風土として醸成しなければならない

<(5) オープンイノベーションの場の形成>
  • 社会を変える革新的な製品・サービスの開発には、外部の叡智や技術も積極的に取り入れる「オープンイノベーション」が必要となっている。多様な企業や大学・研究機関の研究者・エンジニアが連携を図れる「場」として産業支援機関の役割が重要だ。我が国では、科学的で高度なイノベーション創出を本格的に支援する産業支援機関の整備が遅れている。成功事例のベルギーIMECのように、産業支援機関が研究企画力や技術サービス力を磨くことで、異質で多様な叡智を世界中から引き寄せ、適正なサービス使用料の徴収により結果として組織の自立化を図る必要がある。高度部材産業についても、産学官連携を促進するオープンイノベーションの場が求められ、三重県が先駆的取組を展開している

<(6) 造業の重要性が高まる第4次産業革命での積極的な貢献>
  • AIやIoTの重要な要素技術は半導体であること、AIによるビッグデータ解析が活かされるのは、インターネットにつながったモノが存在するフィジカル空間であることから、第4次産業革命では製造業の重要性が高まる。高度部材産業と川下産業には、製造や研究開発のスマート化の推進により、業務効率化や新技術・新事業の創出が望まれる。危機意識の強いサポーティングインダストリーでは、「つながる工場」の実現に向けた取組が進む。新たな成長フェーズに入る半導体に加え、自動運転に用いるEV用リチウムイオン電池やHMD型VR用薄型パネルなども、IoT時代のキーデバイスに位置付けられ、機能性部材メーカーは、第4次産業革命の実現に貢献すべく、これらのキーデバイス向け材料の需要拡大にしっかりと応えていくことが望まれる。


以上の6つの視点を踏まえて、産学官での取組を加速させることにより、我が国のエレクトロニクス産業の復権と高度部材産業の競争力強化を図ることが求められる。
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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営

経歴
  • 【職歴】
     1985年 株式会社野村総合研究所入社
     1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
     1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
     2001年 社会研究部門
     2013年7月より現職
     ・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
     
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
     ・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
     ・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
     ・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)

    【受賞】
     ・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
      (1994年発表)
     ・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)

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