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企業における「メンタルヘルス対策」~健康経営における柱の1つ

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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3――企業における「メンタルヘルス対策」に対する取組みは徐々に浸透している

対象企業4,138社を対象に、従業員の健康保持・増進のために実施している取組み(保険者と共同で行っているものも含める)を複数回答で尋ねた結果、「健康診断受診の推奨」が8割弱と圧倒的に高かった。「メンタルヘルス対策」は40.3%11と、「健康診断受診の推奨」(79.0%)、「健康相談や情報提供(社内、外部機関のいずれかによるもの)」(42.7%)に続くが、半数に満たない(図表4A)。
続いて、今後重視したい取組みについても複数回答で尋ねた。その結果、現在は実施していないが、今後重視したい取組みとして「メンタルヘルス対策」をあげている企業は12.9%であり、他の取組みと比べて最も高い(図表4B)。今後重視したいと考えている企業をあわせると、「メンタルヘルス対策」は全体の53.2%が実施することになる。
「メンタルヘルス対策」について、今後重視したいと考えている企業をあわせた割合を、企業規模別12にみると、規模が大きい順に高く、大企業や中堅企業においてはおよそ7割が実施することになる。保険者種別にみると、単一型や総合型で実施する割合が高かった。

既に「メンタルヘルス対策」を行っている企業は、改善効果を認識しつつあるようだ。
現在、「メンタルヘルス対策」を行っている企業1,669社と、「メンタルヘルス対策」を行っていない企業2,079社13とで、「メンタルヘルス不調者数」の改善があったかどうかを比較した(図表5)。その結果、「メンタルヘルス不調者数」の改善を認識していた割合は、「メンタルヘルス対策」を行っている企業では12.5%だったのに対し、行っていない企業では3.5%だった。「メンタルヘルス対策」を行っている企業では改善を認識している割合が9ポイント高い。
10 対象企業の内訳は、大企業577社、中堅企業1,059社、中小企業2,477社、無回答・不明25社。調査結果の全容は、「従業員の健康保持・増進に向けた企業の取組み~保険者種別に着目して(2014年度下期 ニッセイ景況アンケートより)」をご参照ください。
11 厚生労働省「労働者健康状況調査」(2012年)と比べると実施している企業の割合は低い。これは、対象とする企業の特性等によるものと考えられる。
12 企業規模の区分は、従業員1000名以上を「大企業」、300名超を「中堅企業」、300名以下を「中小企業」としている。
13 残る390社は何の取組みも行っていないため、改善があったかどうかは尋ねていない。
4――今後は取組みによる改善事例の報告に期待したい
企業においては、メンタルヘルスケアを含む従業員の健康保持・増進への取組みが活発になってきている。しかし、企業を対象に行った調査から、取組みの実施状況は、企業規模によって異なることがわかった。
規模の大きい企業では、従業員数が多いことからメンタルヘルス不調による休職や退職を既に経験していることが多く14、課題が認識しやすいと考えられる。さらに、産業医が常駐しているなど、規模の小さい企業と比べると対策を取りやすい環境にあると思われる。また、今回の調査のとおり、大企業の半数が単一型の健康保険組合を設立しており、従業員の健康保持・増進に向けての事業主の関与は高い。その場合、従業員の健康状態の改善効果を、事業主も保険者も実感しやすい環境にあると考えられる。また、今回導入された「ストレスチェック制度」の義務化も後押しとなっているだろう。
一方で、中小企業では、メンタルヘルス不調を感じる従業員を抱えている割合が低く、対策への意識が低い可能性がある。しかし、規模が小さい企業では、規模の大きい企業と比べて従業員一人が欠けることがより深刻な経営問題となり得ることが指摘されていることから、事前の対策が重要だろう。
現時点では、先行的に取組みを行っている企業から、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ取組み事例や、いったん体調を崩した従業員が職場復帰する際の取組み事例が数多く公表されている。今後は、取組みによる改善事例も数多く出てくることを期待したい。
14 厚生労働省「労働者健康状況調査」(2012年)によると、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業又は退職した労働者がいる割合は、事業所規模が1000人以上で9割以上、300~499人で65%、100~299人で39%であり、規模が大きいほど高い。規模の小さい企業では、現時点でメンタルヘルスが課題となっていない企業もあると推察できる。
(2016年02月22日「基礎研レター」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
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