コラム
2016年02月15日

CSR/CSVとして見た健康配慮経営~健康配慮の社員食堂と一般向け食堂開業のT社を事例として~

川村 雅彦

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10年ほど前になるが、米国では企業の肥満対策はCSRとして議論されていると聞いた。米国では肥満が社会問題化していたからであるが、当時の筆者には「ほう、そこまで!?」という印象であった。なぜならば、肥満やメタボは基本的に従業員個人の問題と考えていたからである。しかし、近年、日本でも生活習慣病などによる医療費増大を契機として、従業員の健康に配慮することは雇用者の責任という考え方が広がりつつある。

従来、日本では内部ステークホルダーたる従業員の価値を高める企業の取組(労働CSR)として、長時間労働の抑制、女性活躍を含む人材ダイバーシティ、教育訓練、労働現場の安全が主たる論点であった。これらに加え、最近では、うつ病休業者の増加を踏まえたメンタルヘルス対策(セクハラ・パワハラを含む)も、CSR課題と位置付けられている。また、労働における人権・差別問題や社会的格差の拡大を背景に、同一価値労働・同一賃金も議論されるようになってきた。

さてここで、従業員の健康増進に焦点を絞ると、社員食堂のレシピを改善し話題となっているのが、健康計量器の製造・販売を手掛けるタニタである。同社では、生活習慣病の予備軍であるメタボリックシンドロームを企業経営の新たなリスク要因と認識し、2009年から「健康プログラム」を導入している。そのめざすところは、社員のメタボゼロの達成である。

実は、このプログラムのなかに社員食堂での食事・食育サポートが位置付けられている。健康ビジネスを展開する同社にとって、社員の健康管理は重要な経営課題であり、社員の生活を豊かにするだけでなく、企業のポテンシャルも高めるものである。2012年にはビジネス中心街の東京丸の内へ進出し、一般のサラリーマンやOL向けの食堂を開業した(メニューは社員食堂と同じ)。

労働コンプライアンスは当然ながら、自社事業による従業員へのネガティブ・インパクトの改善を図ることは最低限のCSRであるが、従業員にポジティブなインパクトをもたらすこともまたCSRである。つまり、従業員の健康に配慮し増進することは、もはや優れて労働CSRである。他方、自社のノウハウや強みを活かした製品・サービスにより社会的課題の解決を図るビジネスはCSV(共有価値の創造)と呼ばれるが、健康増進ビジネスはその範疇に入る。

このように見てくると、タニタの社員食堂と一般向け食堂は、労働におけるCSRとCSVに他ならず、いずれも本業で社会的課題の解決をめざす、新しいビジネスモデルを構築したということができる。

(注) 「CSR/CSV」の表記は、オルタナ編集長の森摂氏の提唱に基づく。
 
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川村 雅彦

研究・専門分野

(2016年02月15日「研究員の眼」)

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