2024年04月12日

2024年度の年金増額は6月支給分から-知っておきたい 年金ミニ知識

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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3 ―― 実際の年金額改定:2024年度は+2.7%の増額(実質的には0.4%分の目減り)

以上の仕組みにより、2024年度の年金額は前年度と比べて+2.7%の増額となった(図表7の右端)。本来の改定率で考慮される物価変動率(2023年(暦年)の消費者物価上昇率(総合))が+3.2%となった一方で、賃金変動率は+3.1%にとどまったため、本来の改定率は年齢を問わず+3.1%となった。少子化や長寿化に対応するための調整率(マクロ経済スライド)は、変動要素である加入者の減少率が高齢就労の進展で-0.1%にとどまり、これに固定値である受給者の余命の伸び率分の-0.3%を加えて-0.4%となった。この結果、2024年度の改定率は、本来の改定率である+3.1%から少子化や長寿化に対応するための調整率(マクロ経済スライド)の-0.4%を差し引いた+2.7%で増額改定されることになった。
図表7 近年の年金改定率の実績
図表8 年金月額の例 (単身の場合、収入別)
図表9 年金月額の例 (夫婦の場合(夫婦合計)、世帯収入別)
2024年度の年金額は、2023年の物価上昇を反映して2年連続の増額改定となる。インフレが続く中での増額は受給者にとって朗報ではあるが、実質的な価値が低下する点には注意が必要である。実質的な目減りは受給者に厳しい内容だが、現役世代の賃金の伸びが物価の伸びに追いついていないことや、調整率(マクロ経済スライド)という形で少子化や長寿化の影響を吸収して将来世代の給付水準のさらなる低下を抑えることで世代間の不公平をなるべく縮小するという制度の意義を、理解する必要があるだろう。他方で現役世代は、少子化や長寿化が進む中で負担する保険料(率)が固定されていることや、高齢世代が物価や賃金の伸びを下回る年金の伸びを受け入れることで将来の給付水準の低下が抑えられることに、思いをはせる必要があるだろう。両者の相互理解が進むことを期待したい。

4 ―― (補論)受給開始後の年金額

4 ―― (補論)受給開始後の年金額

厚生労働省が公表した「令和6年度の年金額改定について」では、基礎年金の満額(月額)として、2024年度から受け取り始める場合の68,000円(前年度+1,750円)に加えて、昭和31年(1956年)4月1日以前生まれ(すなわち2024年度に69歳以降に到達する場合)の67,808円(前年度+1,758円)が記載された(図表10の※1)。

両者とも2023年度から2024年度にかけての増加率は+約2.7%で同じだが、2023年度は前者(2023年度から受け取り始める場合)が66,250円、後者(2023年度に68歳以降に到達する場合)が66,050円と異なる。これは、2023年度の改定率の計算において賃金変動率が物価変動率を上回り、前述した図表4の仕組みによって67歳以下と68歳以上で改定率が異なったためである6(図表7の2023年度の枠)。

これまでのところ、このように67歳以下と68歳以上で改定率が異なったのは2023年度だけだが、賃金と物価の好循環が実現して賃金変動率が物価変動率を上回り続ければ、受給開始後の基礎年金の満額は(わずかな違いではあるが)多様化していくことになる7
図表10 厚生労働省「令和6年度の年金額改定について」の抜粋
 
6 厚生労働省「令和5年度の年金額改定について」には、2023年度から受け取り始める場合の基礎年金の満額(月額)と2023年度の68歳以上(すなわち1956年4月1日以前生まれ)の基礎年金の満額(月額)が記載されている。
7 厚生年金でも同様の仕組みで多様化するが、厚生年金(2階部分)の年金額は現役時代の給与水準や加入期間によって決まるため、そもそも多様化している。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2024年04月12日「基礎研レポート」)

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