2024年03月28日

女性にとって「育児と管理職の両立」は可能か~中高年の女性管理職のうち、子がいる割合は4割弱

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

文字サイズ

2-2│子がいる女性管理職の割合が小さい要因
2-1|でみてきたように、女性管理職のうち、子がいる割合、特に小学生以下の子がいる割合が小さい背景としては、育児中の女性には、残業や転勤に制約があること、子の病気などで休暇を取得する機会が多いこと、職場や職務で起きる不測の事態に対して、夜間休日の対応ができないことなどが考えられる。それ以外にも、人事側が、小さい子がいる社員への「配慮」として、負荷が大きい管理職を割り当てないという可能性もある。このうち、残業の問題に関連して、共同研究のアンケート結果に戻って、管理職と非管理職の1日の平均労働時間をみておきたい。

図表5に記した通り、「管理職」は「7~8時間」が約6割、「9~10時間」の割合が約3割、「11時間以上」が約4%である。所定労働時間は企業によって異なるため、「時間外労働」をしている人の割合は特定できないが、管理職は、労働基準法が定める原則「1日8時間」を上回る長時間労働をしている割合が、非管理職に比べて大きい。このことが、育児中の女性が管理職に就くハードルを上げている可能性がある。ただし、逆の見方をすると、「7~8時間」が約6割と多数派であることから、おおよそ所定内労働時間内で管理職業務を終えている女性も多いと言うことができる。
図表5 管理職を務める中高年女性の1日の平均労働時間
2-3│裾野の女性から見た状況
次に、女性管理職の家族の状況に関して、裾野の女性たちの見方を確認する。同じく共同研究より、非管理職を含めた中高年女性会社員全体の意識をみると、「職場に女性管理職がいる」と回答した女性のうち、その効果について、「登用されるのは独身や子どものいない女性ばかりで、育児との両立を希望する女性のロールモデルにはならない」と回答した人が9.5%いた5

職場で女性管理職が増えたとしても、実際には未婚や子がいない女性ばかりであれば、裾野の女性から見ると、「やっぱり育児をしながら管理職の仕事をするのは無理だ」という印象を与えてしまう。従って、女性活躍を推進する企業にとっては、育児という事情を抱えた女性であっても、管理職に登用するためには、どのような体制や取組が求められるのかを、考える必要があるだろう。

3――「育児と管理職の両立」を実現するために

3――「育児と管理職の両立」を実現するために~一般社団法人定年後研究所・ニッセイ基礎研究所「ダイバーシティ・中高年女性社員活躍に関する大企業取組インタビュー調査」より~

3-1│企業側に求められる制度・取組
今後は、小さい子どもがいても、意欲がある人は、組織の中で中心的な職務を経験し、適切な時期に管理職として働けるように、企業や女性側(または男性側)にとって必要な制度や取り組みについて考察したい。

まず、企業側にとって必要なことは、育児中の社員も働きやすく、また成果を出しやすいように、適切な「ダイバーシティ経営」が必要になる。佐藤ほか(2020)が提唱する具体的なポイントは、(1)「理念共有経営」、(2) 多様な「人材像」を想定した人事管理システムの構築、(3) 多様な人材が活躍できる土台としての「働き方改革」の実現、(4) 多様な部下をマネジメントできる管理職と職場の「心理的安全性」、(5) 働く一人ひとりの多様性の実現、という6点である6。詳しくは、筆者の別稿「企業は女性を管理職に「登用」すれば良いのか~ダイバーシティ経営を生産性向上につなげるために~」(基礎研レポート)で説明しているので、参照して頂きたい。
 
6 佐藤博樹・武石恵美子・坂爪洋美(2022)『多様な人材のマネジメント』(中央経済社)
3-2│管理職に就く女性自身にできる工夫
(1) “権限移譲”と“タイムコントロール”
企業側がダイバーシティ経営に取り組んでいたとしても、現時点では「育児中の女性管理職」のロールモデルが少ないため、子がいる女性から見ると「小さい子がいるのに、本当に管理職などの重要な職務を引き受けられるのか」と疑問や不安を抱くことが多いだろう。そこで本稿では、一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年9~11月にアンケートと同時並行して行った「ダイバーシティ・中高年女性社員活躍に関する大企業取組インタビュー調査」の結果を基に、女性自身ができる工夫について紹介したい。

1点目は、「タイムコントロール」だ。ある企業で、管理職の女性に良かったことを尋ねると、「管理職になった方が、自分の家庭の都合も考慮して、仕事のスケジュールを決められるので、コントロールがしやすくなる」という回答があった。部下の立場だと、仕事の量も範囲も、締め切りも、上司から決められたものであるため、こなしていくのが大変だが、管理職になると、それらを自分自身で決定できるので、反って、仕事と家庭との両立がしやすくなる、という見方である。

2点目は、「権限移譲」である。これは、別の企業の管理職経験がある女性から、育児と管理職を両立するための工夫として聞いたキーワードである。管理職であっても、仕事の内容に応じて、部下に任せられるものは、任せるということだ。もちろん、仕事をサポートしてくれた部下を、適切に評価することも、同時に必要となるだろう。管理職の仕事を部下に任せることに抵抗を感じる人もいるかもしれないが、一人で仕事を抱えて、自分が急に休むことになった時に、チーム全体の業務が停止してしまうよりは、ずっと良いのではないだろうか。

共同研究のアンケートでも、管理職経験者167人に、自らの管理職経験を通じて感じたことを聞いたところ、「管理職でも、できないことは誰かに助けてもらえば良い」に「そう思う」または「ややそう思う」と回答した人が66.5%に上った(図表6)。これは、上級管理職や部下など、周りらの力を借りることで、管理職業務を全うすることができた、という当事者の貴重な経験談だと言えるだろう。
図表6 管理職を経験した中高年女性の総括
(2) 50歳代からの挑戦
そうは言っても、子どもが小さいのは一時期だけなのだから、なるべく子どもと一緒に過ごしたい、仕事の優先順位は家庭の次、と考える女性は多いだろう(もちろん男性も)。そのような女性にとっても、管理職は他人事ということではなく、子育てがひと段落してから挑戦する、という選択肢が残されている。図表6に示したように、管理職経験のある女性167人への設問で、「何歳からでも管理職に挑戦できる」に「そう思う」または「ややそう思う」と回答した人は54.5%となり、過半数に上った。インタビュー調査でも、実際に、50歳代になってから管理職に昇進した、という女性もいた。

国の高齢者雇用政策により、就業人生は延びている。例えば50歳代になっても、定年までをカウントダウンして過ごすのではなく、育児から卒業し、もう一度、自分のやりたい仕事が存分にできる時期、キャリアアップにチャレンジできる時期、と捉えても良いのではないだろうか。就業人生の最後に管理職として働くことで、その経験値を、定年後、別の活動に生かせる可能性もあるだろう。

50歳代になると、ほどなく親の介護が発生する人もいるかもしれないが、将来、介護の可能性があるから、目の前の高度な仕事やキャリアアップに消極的になるのではなく、自由に動けるうちにやりたい仕事に打ち込み、介護事情が発生してから対応していけば良いのではないだろうか。

4――終わりに

4――終わりに

本稿では、筆者らの共同研究や先行研究の結果から、現状では、「管理職と育児の両立」は厳しいという実態を報告した。実際に、子どもが小さいうちは手がかかり、しょっちゅう休みを取らないといけないことは事実であり、育児と管理職等のタフな仕事との両立はハードルが高いことは間違いない。ただし、共同研究の結果を見れば、45~49歳の女性管理職では、子どもがいる割合が、上の世代に比べて増えており、様々な工夫を取り入れながら、育児と管理職の両立に取り組んでいる女性は、徐々に、増えてきているのではないだろうか。

今後、「育児と管理職の両立」のハードルをより下げていくためには、本稿で述べたように、まずは、企業側がダイバーシティ経営に取り組むことが必要だろう。まだロールモデルが少ないため、各職場における両立の仕方は実験的だと思うが、チャレンジする女性(または男性側)自身は、組織の垣根を越えて、管理職経験者の工夫を参考にして頂きたい。そしてもう一つ、筆者がこだわっている点を付け加えるなら、50歳代など、育児がひと段落してからでも、キャリアアップを目指すことは可能だということである。いずれ定年を迎えて、自身の活動の場が“職場”から“地域”に移ったときに、仕事として様々な職務経験を積んでおいたことが、役に立つこともあるのではないだろうか。

また、本稿では詳しく述べなかったが、育児と管理職の両立のためには、家庭でも男女役割分業の見直しが必要となるだろう7。男女役割分業に関して言えば、若者の意識は近年、急速に変化しており、例えば男性にとって第一子の誕生後は夫婦ともに育児休業を取りたいという考え方が主流となりつつある8。したがって、育児と管理職を両立できる「ダイバーシティ経営」を構築することが、近い将来、男性管理職の人材を確保する上でも、企業の持続可能性を高めるためにも、必要なことと言えるのではないだろうか。
 
7 家庭における男女役割分業の適性化が、職場における女性活躍の鍵となっていることについては、筆者の別稿「企業や家庭の状況が変われば、管理職を希望する中高年女性は「4人に1人」まで増える~女性登用の数値目標を達成する鍵は企業と家庭にあり~」(基礎研レポート)を参照されたい。
8 内閣府委託調査「令和3年度 人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査報告書」によると、第一子が生まれた後の自分と配偶者の仕事の理想について、「男性40~69歳」では「夫婦ともに育児休業等を取得、復帰後に夫婦ともに原則フルタイムで勤務」は12.4%だったが、「男性20~39歳」では33.1%で、すべての選択肢の中で割合が最大だった。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2024年03月28日「基礎研レポート」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【女性にとって「育児と管理職の両立」は可能か~中高年の女性管理職のうち、子がいる割合は4割弱】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

女性にとって「育児と管理職の両立」は可能か~中高年の女性管理職のうち、子がいる割合は4割弱のレポート Topへ