コラム
2023年06月30日

首都圏中古マンション市場の動向(2023年5月)~成約価格上昇も在庫は過去最高水準、売却時は価格の減額を視野に

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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首都圏中古マンションの価格は上昇しているが、成約件数は減っている

長らく活況を呈していた首都圏中古マンション市場はようやく踊り場に来たようだ。東日本レインズによると、2023年5月の中古マンション成約件数は2,737戸(前年同月比▲4.9%)となった。

マンションの平均価格や売れ行きを月次で見ると、その数値を構成する物件の立地やグレードによりぶれが大きくなる。そこで成約価格と成約件数それぞれを直近12ヶ月の移動平均に変換してみると、2023年5月の価格は4,383万円(前年同月比+8.9%)と前年比で強い上昇傾向である一方で、件数は2,925戸(前年同月比▲5.3%)と減少傾向である(図表1)。
図表1 首都圏中古マンションの成約価格と成約件数(月次、12ヶ月移動平均)

新たに売り出された中古マンションの価格が停滞

中古マンション市況を述べる際、良く用いられる価格は「成約価格」であることには注意したい。「成約価格」は売り出されたマンションが売買契約に至った際の取引額のことをいう。これに対し、「新規登録価格」は当月に新たに売り出したマンションの価格のことをいい、「在庫価格」は当月末時点で売り出し中のマンション1の売り希望価格のことをいう。

注目すべきは、成約価格よりも新規登録価格が一段と低くなってきた点である。2023年5月の成約価格は4,569万円(前年同月比+9.5%)で上昇傾向となった。しかし、新規登録価格は4,035万円(前年同月比+4.2%)、在庫価格は4,087万円(前年同月比+4.0%)といずれも上昇幅は成約価格の上昇幅の半分以下であり、直近は停滞傾向となっている(図表2)。
図表2 首都圏中古マンションの価格 (成約価格、新規登録価格、在庫価格)
個人の不動産の売買成立時の価格は基本的には売り出し価格である。売れ行きによっては価格が割引かれることもあるが、逆に売り出し価格よりも高い価格で売買が成立することはほとんどない。また、ここでいう「成約価格」、「新規登録価格」、「在庫価格」は定義に該当する物件の平均値のことをいう。つまり、成約価格が新規登録価格よりも高いということは、売り出し価格の水準が高い「築年が浅い」・「より都心に近く立地が良い」といった性質のマンションの売買が成立し、相対的に競争力がなく売り出し価格が安いマンションが売れ残っていることを示す。
 
1 当月の新規登録分のうち、月末までに売買が成立しなかった案件を含む

首都圏中古マンションの在庫は過去最高水準に

在庫は増加傾向が続いている。2023年5月の中古マンションの在庫件数は約4万5,799戸(前年同月比+23.6%)と過去最高水準で、当月の中古マンションの成約件数の16.7倍になった。

ここで、売り出したマンションの成約率を求めてみたい。不動産を売却する場合、売り出しから売買契約までは最短でも2カ月程度の期間が必要となる。当月の成約件数は、すべてが最短で売買が成立したと仮定すると、「成約件数÷2カ月前の新規登録件数」で新規登録したマンションの成約率の最大値2を推定することができる。冒頭の成約件数と同様に、月次の数値のぶれが大きいため12ヶ月移動平均の値を取ると、2023年5月は首都圏で19.5%(前年同月から▲3.7%)となった(図表3)。また、同様に在庫件数全体の成約率は、「月次成約件数÷(2カ月前の在庫件数)」で求めることができ、12ヶ月移動平均は7.3%(前年同月から▲1.5%)となった2。成約率のピークは2021年末ごろであり、以降は徐々に低下している。
図表3 首都圏中古マンションの在庫件数と成約率
実際は売り出しから売買契約締結まで2カ月以上の時間がかかる場合もあるし、同じ都県内でもそれぞれのマンションのグレードや都心までの距離などが異なるため、都県別に値を算出するのはやや乱暴ではある。それでも数値の上では、中古マンション3を売り出した人のうち最短の2カ月程度での成約率は20%程度を下回り、それ以上の長期になると成約率は7%程度を下回ると概算できる。

現在マンションを売りに出している人の中には、長期間にわたり売り出しを続けていてもなかなか買い手を見つけることができない人が相当数おり、そのような人は今後も増加すると考える。
 
2 成約件数には、当月登録のマンションと前月の在庫件数に含まれていたマンションが混在し、その内訳は不明である。
 上記の成約率は最大値として求めるものであり、実際の各成約率はこれより下がると考える。
3 新築マンションは築後1年以内で人が居住したことのないマンションであり、購入時が新築でも、売却時は中古となる。

今後の中古マンション売却は売り出し価格からの減額も視野に入れたほうが良い

コロナ禍の在宅需要などで盛り上がった中古住宅好調のピークは、既に過ぎ去ったと考えることができる。今後の中古マンション市場では、新築と競争できるグレードや立地などの条件が良い中古マンションがこれまで通りに売れる一方で、長期間売れ残る競争力のない中古マンションの数は増加していくことになるだろう。また競争力のある中古マンションは相対的に高級で価格が高いことが多く、高くなってきた中古マンションの成約価格がさらに高くなる可能性がある。

報道等で中古マンションの成約価格が高くなっているというニュースを聞くと、現在保有しているマンションや、これから購入するマンションの価格が将来も上がっていくという期待が高まるのは仕方がないのかもしれない。しかし、成約価格が上昇というニュースがあったとしても、すべての中古マンションの成約価格が上がるわけではない。競争力のない中古マンションの価格は、今後はあまり上がらないと考えられる。さらに言うと、今後、中古マンションの在庫がさらに増え続けるとすれば、売れ行き状況は一層悪くなり、価格が下がっていく可能性があるだろう。

もし今保有しているマンションを売却したいと考えているなら、成約価格の見込みをある程度は柔軟に考える必要がある。具体的には、仲介業者と定期的に連絡を取り、「売り出しから数カ月たっても買い希望の問い合わせが何もない」など当初想定していた売れ行きと異なる場合には、価格の減額を検討した方が良いかもしれない。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2023年06月30日「研究員の眼」)

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