コラム
2023年01月31日

マンションと大規模修繕(1)~大規模修繕の概略と長期修繕計画の重要性

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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大規模修繕とは何か

建物はどのような建物であっても、時間の経過とともに、物理的(老朽化や事故・災害による破損など)、機能的(旧式化・設備性能の低下など)、経済的(地域の衰退、売却価格の低下など)に劣化していく。このような建物について、所有者は「適切に維持管理する義務」を1負う。そして、建物の快適な利用や適切な維持管理のためには、定期的な建物の修繕は欠かすことができない。

修繕は、電球などの日常的な備品の交換や軽微な破損を回復する「修繕」と、十数年に一度、大規模な工事を行って建物自体の修復や設備を交換し、あるいは時代遅れの性能を改修して現在の新築建物に求められる標準的な性能に近づける「大規模修繕」に大別される(図表1)。
図表1 大規模修繕のイメージ
 
1 建築基準法第8条、民法第717条などに規定されている。

鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造の建物の寿命は長い

マンションを中心に話を進めると、国税庁によると、税法上のマンションの耐用年数(鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造)は47年であるが、税法上の耐用年数が経過した後も使用されているマンションも多い。国内で最も古い鉄筋コンクリート造2のマンションは、長崎県にある端島(軍艦島)のマンション群で、竣工は1916年から1959年、築年は64年から107年である。築年の古さに加えて、端島のマンション群は、建物にとっては過酷な環境に建っている。塩害による鉄部の腐食は建物を劣化させる大きな原因の一つであるが、大波をかぶり、強風にさらされている。それでも、いくつかの建物の躯体などの主要な部分は健在であり、現在でも観光ツアーなどで一般の人も立ち入ることができる3

全国に存在するほとんどのマンションは、端島よりも環境がよい場所に建っている。現在は、初めてマンションが建築された頃と比べ、建物の躯体を構成する建築資材の製造技術や建築技術は高度に発達している。つまり、鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造の建物は、よほどの事故等がなければ100年以上存続できる可能性がある。これを前提に、徐々に劣化する建物を快適に使うにはどうしたらよいかを考える必要がある。
 
2 渡邊布味子『建築費高騰と不動産開発プロジェクト(後編)-建築費の高騰と建物の躯体別・用途別の影響』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2022年10月27日)
3 木造と鉄骨造は相対的に耐久力が弱く、端島にかつて存在した木造、鉄骨造の建物も既に倒壊している。

大規模修繕は、事前の計画が重要である

一方、マンションの外壁タイル、配管、エレベーター、消防設備などの建物の付属的な構成要素や設備の耐用年数は様々で、10年以下ものもあれば、数十年のものもある。こうした設備を壊れてから取り換える場合は、業者を選んだり費用を精査したりする時間が取れず、早急に使用できるよう、簡易的な工事になりがちで費用もかさむ。そもそも大規模修繕には多額の費用がかかる。建物の存続期間において大規模修繕にかかる費用の合計をできるだけ抑えるためには、「何を」、「いつ」、「いくらの費用をかけて」行うかをあらかじめ考え、壊れる前に計画的に適宜実行していかなければならない。

そのためには、建物と設備の修復・改修と、設備の交換時期についての長期的包括的な計画(以下、長期修繕計画)が重要となる。また、分譲マンションの所有者の多くは、住宅ローンを抱えており、急な多額の費用負担は難しい。マンションの大規模修繕は、プロの不動産投資家が投資する商用不動産の大規模修繕よりも、さらに慎重かつ計画的に少しずつ資金を準備していかなければ、実現することができないことは念頭に置いておいた方がよいだろう。

長期修繕計画のないマンションは相当数存在する

国土交通省が2021年9月に改訂した長期修繕計画作成ガイドラインによると、長期修繕計画は30年以上で計画し、5年毎に見直す必要があるとしている。

ただし、長期修繕計画の作成は義務ではない。国土交通省が2018年11月から12月に行った調査によると、「25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金を設定するマンションの割合」は全体で53.6%であった。築年別では1969年以前に建築されたマンションで33.3%、1970年から1974年に建築されたマンションで23.3%と低い水準であったが、2015年以降に建築されたマンションでも44.9%と低かった。

この調査時の状況に比べて、ガイドラインの改訂以降の長期修繕計画の作成状況は改善していると推定される。しかし、最近のマンションであっても、長期修繕計画を作成していないマンションが意外に多いことは知っておく必要がある。
図表2 25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金を設定するマンションの割合(築年別、2018年11月‐12月調査)

購入する前に長期修繕計画の有無を確認するべき

住む場所としては身近な不動産である分譲マンションだが、住人の数が多く、権利などの面では複雑な構造である。長期修繕計画の作成はもちろん、簡易的な合意形成であっても膨大な手間と時間を要する。このため、分譲マンションの購入する際には事前に「30年以上の長期修繕計画があるかどうか」は必ず確認したほうがよい。また、修繕積立金が当初安くても、何年後かに高くなるとか、修繕積立金が大規模修繕をするのに十分なのかなどについても十分確認すべきだ。

長期修繕計画がなく、適切な維持管理ができていない場合、そのマンションは同じ築年のマンションより劣化が早く、価値が落ちやすい。もし購入した後に、長期修繕計画がないことに気づいた場合は、大規模修繕が必要になる時期が来る前に管理会社や管理組合等に長期修繕計画の作成を促すべきだろう。状況が全く改善しそうにもない場合は、売却を真剣に検討すべきなのかもしれない。

また、長期修繕計画があったとしても、購入時には十分に計画内容を確認していないケースもあるかもしれない。そうした場合は、計画と実際に差異が生じて、思わぬ追加の工事や多額の追加費用が必要になる可能性がある。一方で、技術革新によって以前の工法が変わって当初計画よりも長く使える設備に交換できる場合などラッキーなケースもあるかもしれない。いずれにせよ、長期修繕計画と実際の進捗状況は、所有者となってからも管理会社や管理組合に定期的にきちんと確認する必要がある。

分譲マンションは買って終わりではない。大規模修繕費は多額の出費ではあるが、快適に暮らし、資産を守るためには必要なことであり、マンションに住む人全員が、適切な長期修繕計画と実行、加えて十分な資金の積立が必須であるとの認識を持つことが重要ではないだろうか。
 
 

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(2023年01月31日「研究員の眼」)

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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