コラム
2022年10月27日

建築費高騰と不動産開発プロジェクト(後編)~建築費の高騰と建物の躯体別・用途別の影響

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1――建築費は建物の躯体によって異なる

建物建築に必要な建築費1は、建物の躯体(建物の柱、梁、壁など)の構造により必要な部材が異なり、躯体の構造が違うと建築費も異なる。

主な躯体には、「鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造 :Steel Reinforced Concrete):H型鋼と鉄筋(異形棒鋼)とコンクリートによる躯体」、「鉄筋コンクリート造(RC造 :Reinforced Concrete):鉄筋(異形棒鋼)とコンクリートによる躯体」、「鉄骨造(S 造:Steel):鋼材による躯体」、「木造(W造 :Wood):木材による躯体」がある。建築費の単価は、鉄骨鉄筋コンクリート造が最も高く、鉄筋コンクリート造、鉄骨造の順に低下し、木造が最も安いのが一般的である(図表1)。
図表1 図解: 躯体の構造 (鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造)
 
1 渡邊布味子『建築費高騰と不動産開発プロジェクト(前編)~不動産開発プロジェクトの収支の考え方と資金フロー』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2022年09月30日)

2――全用途・構造で建築費は上昇している

建築物価調査会によると、用途別・躯体の構造別の建築費指数(2011年平均=100)は、2018年初頭は各用途・構造の指数は115前後であったが、2020年初めから2021年4月頃まで120前後で推移しており、既に建築費水準は高まっていた。

その後のサプライチェーンの寸断、資源高や円安から、さらに1割程度が上昇し、2022年9月の住宅(木造) 139.8、倉庫(鉄骨造)139.7、集合住宅(鉄骨鉄筋コンクリート造)138.5となり、他の用途・構造でも、全て130を超えている。バブル景気(1986年12月から1991年3月、用途別・構造別の建築費指数の最高値は、店舗(鉄筋コンクリート造)の132.6)や、ファンドバブル期(2006年から2008年8月、最高値は倉庫(鉄骨造)の112.5)の水準を上回り、現在も上昇傾向である(図表2)。
図表2 建築費指数の推移(用途別、躯体の構造別)

3――用途別の建築工事の科目割合と、部材の価格変化に対する反応は

また、建物の建築工事は、「仮設」、「土木・地業」、「躯体」、「仕上」、「設備」の各科目に大別できる2。用途別・躯体別の建築費指数(建築費)を建築工事の内容で分けると、躯体の構造別の区分よりも、用途別の区分のほうが、内訳の類似性が高い。

具体的には、マンションは、「SRC造が躯体30%、仕上29%、設備25%」、「RC造が躯体25%、仕上34%、設備22%」と躯体と仕上の割合が比較的大きく、事務所(オフィス)は、「SRC造が躯体23%、仕上31%、設備30%」、「RC造が躯体23%、仕上31%、設備32%」と仕上と設備の割合が大きい。一方、倉庫は、「RC造(大規模)が躯体40%、仕上23%、設備9%」、S造が「躯体38%、仕上25%、設備15%」と躯体の割合が大きいという特徴がある(図表3)。
図表3 建築工事の各科目費が総工事費に占める割合(用途別、躯体の構造別)
着工済みである「既存の不動産開発プロジェクト」の場合は、建築請負契約時など建設設計・工事の初期の段階において建設資材を確保するため、建築資材の値上がりの不動産開発プロジェクトへの影響は相対的に小さいと考えられる。一方で、「新たな不動産開発プロジェクト」の場合は、躯体の部材は、H形鋼、鉄筋、平鋼、木材など資源価格の変化に反応しやすいため、建築資材の値上がりの収支計画への影響は大きいと思われる。

また、仕上材については、仕上材の製造・販売メーカーの製造過程を経るため、建設資材に比べて価格上昇は緩やかであるものの、建設資材の価格上昇が一服した後も留意が必要である。
 
2 「仮設」は一時的な施設や設備(足場、仮設トイレなど)の設置工事、「土木・地業」は杭などの建物の基礎(土台)の工事、「躯体」は建物の主要構造部(壁・梁・床・柱・屋根などの骨組み)を作る工事、「仕上」は壁・床・窓などの内外装の工事、「設備」は電気・通信・空調・給排水設備・昇降機などの工事である。

4――今後の不動産開発プロジェクトの見通し

建築費は不動産開発プロジェクトの必要な費用のうち一定の割合を占めるが、計画当初は建築費が確定していない。このため収支計算では将来の費用増額を想定して予備費を計上し、ある程度の余裕を持たせるのが通常である。

一方で、計画に余裕を持たせすぎると、他の項目の残額として算出される開発用地の取得費の予算が減少し、入札競争などで開発用地を取得することが難しくなる。ここ数年のように完成した土地建物の売り出し物件が少ない状態では、今後の開発プロジェクトのための優良な開発用地は取り合いになっている。そのため、より多くの開発用地取得の予算を確保するため、他の費用項目を抑制して収支が成り立つぎりぎりのラインとなっている場合などもあると思われる。このような場合、予定外の支出に弱いプロジェクトとなるが、実際にこうしたプロジェクトが相当数あるのではないかと思われる。通常は、開発事業者は複数のプロジェクトを抱えているが、そのうちから赤字プロジェクトが数多く発生した場合、今後の開発プロジェクトの着手には、かなり慎重になるであろう。このような形で、将来の不動産市場を悲観的に考える開発業者や投資家が増え、新たなプロジェクトの着手が難しくなれば、買い手不足で売買市場で開発用地の売買が成立しづらくなるだろう。

また、このような時期には、「開発用地の取得予算を積み増して長期的には十分収益が見込める良いロケーション(駅至近、眺望良好など)の開発用地を取得する」か「ロケーションのグレードを落として開発用地の取得価格が相対的に安いエリアを検討する」といった行動が選択されやすい。

勿論、建築資材や仕上材の価格、資源価格などの動向には、当面注意を払う必要があるだろうが、経営体力のある開発業者の場合は市況の回復を待つこともできるため、不動産開発としては、より良いロケ―ションに最適な建物を建築し、長期的には優良物件になるような良い開発プロジェクトを計画、実行することが、より本質的に重要なのではないだろうか。
 
 

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2022年10月27日「研究員の眼」)

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