2022年08月09日

ASEANの貿易統計(8月号)~6月の輸出は域内向けを中心に好調持続、今後も供給制約の緩和により増加基調が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

文字サイズ

22年6月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比21.5%増となり、伸びは前月の同17.1%増)から加速した(図表1)。輸出は20年に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が本格化して一時的に大きく落ち込んだ後、経済活動の再開や半導体需要の増加、商品市況の高騰を受けて増加傾向が続いている。ロシアのウクライナ侵攻を背景とする世界的なインフレ高進や金融引き締め、欧米の景気減速懸念など外需の悪化懸念はあるが、当面は中国経済の正常化が進むことで供給制約が緩和して輸出の増加基調が続くものとみられる。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、6月は都市封鎖の影響で落ち込んだ中国向けを中心に東アジア向け(中国を含む)が同9.0%増(前月:同12.6%増)と鈍化した。またEU向けが同10.9%増(前月:同12.0%増)と鈍化した一方、北米向けが同21.9%増(前月:同19.6%増)と伸びが加速した(図表2)。このほか、経済活動の活性化が進む東南アジア向けが同37.5%増(前月:同35.0%増)と大幅な増加が続いた。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの22年6月の輸出額(通関ベース)は前年同月比20.7%増(前月:同18.1%増)の328億ドルと伸びが加速した(図表3)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて一時的に落ち込んだ後、世界的な経済活動の再開や電子機器の需要拡大により増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比15.8%増(前月:同14.3%増)の322億ドルとなり二桁増で推移した。結果として、貿易収支が6.1億ドルの黒字となり、前月から23.1億ドル改善した。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比33.3%増(前月:同15.2%増)、電気製品・同部品が同24.8%増(前月:同25.1%増)となり、それぞれ好調だった(図表4)。アパレル関連では、履物が同19.1%増(前月:同12.0%増)、織物・衣類が同16.8%増(前月:同22.7%増)と二桁増が続いた。農林水産物を見ると、コメ(同46.8%増)やコーヒー(同26.9%増)、水産物(同18.8%増)、天然ゴム(同12.8%増)が増加する一方、カシューナッツ(同23.4%減)や野菜(同18.9%減)が落ち込むなど、品目毎にばらつきがみられた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同23.9%増(前月:同19.0%増)、地場企業が同12.9%増(前月:同15.7%増)となり、それぞれ二桁増で推移した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの22年6月の輸出額(通関ベース)は前年同月比11.8%(前月:同10.5%増)の265億ドルとなり、伸びが小幅に加速した(図表5)。輸出の基調は新型コロナ感染拡大の影響が直撃した2020年に急減した後、世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いている。6月はロシアのウクライナ侵攻を背景に値上がりが続く農産物・同加工品の輸出が大きく伸びた。また輸入額も前年同月比24.5%増(前月:同24.1%増)の280億ドルとなり、伸びが小幅に加速した。結果として、貿易収支が15.3億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から3.4億ドルが縮小した。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同17.7%増(前月:同16.0%増)と伸びが加速し、16カ月連続の二桁増となった(図表6)。製造品の内訳を見ると、電子機器(同26.8%増)が回復したほか、金属・鉄鋼(同26.0%増)や機械・装置(同18.5%増)、石油化学製品(同12.6%増)、家電製品(同8.6%増)、自動車・部品(同3.7%増)などの主要輸出品が増加した。他方、鉱業・燃料が同86.9%増(前月:同78.439.0%増)と好調を維持、石油製品(同12.6%増)を中心に大幅な増加が続いた。農産物・同加工品は同27.7%増(前月:同28.9%増)と引き続き好調だった。コメ(同84.5%増)やドリアン(同70.2%増)、加工食品(同49.2%増)、天然ゴム(同27.4%増)が二桁増となるなど、総じて増加した品目が多かった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの22年6月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比30.4%増(前月:同22.9%増)の332億ドルとなり、伸びが加速した(図表7)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して一時約3割の減少を記録した後、世界経済の回復や商品市況の高騰、電気電子製品の需要拡大を追い風に増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比40.3%増(前月:同29.3%増)の282億ドルとなり、伸びが加速した。結果として、貿易収支が+49.9億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から20.9億ドル拡大した。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同32.1%増(前月:同32.7%増)となり、主力の電気・電子製品(同32.3%増)を中心に9カ月連続の二桁増となった(図表8)。また鉱物性燃料は同95.8%増(前月:同66.6%増)と伸びが加速した。石油製品(同119.5%増)と天然ガス(同137.8%増)、原油(同71.2%増)の大幅な増加が続いた。このほか、動植物性油脂(同95.8%増)の好調が続く一方、化学製品(同2.4%増)が鈍化、ゴム手袋(同6.9%減)は昨年好調だった反動で減少が続いている。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの22年6月の輸出額(通関ベース)は前年同月比40.7%増(前月:同27.0%増)の260億ドルとなり、伸びが加速した(図表9)。輸出の基調は20年に新型コロナの感染拡大の影響が直撃して最大約3割減まで落ち込んだ後、経済活動の再開や国際商品市況の上昇により増加傾向が続いた。今年は1月に石炭、4月に食用油の輸出禁止措置が実施され、輸出が一時押し下げられたが、コモディティブームを背景に総じて好調が続いている。一方、輸入額は前年同月比22.0%増(前月:同30.7%増)の210億ドルと、伸びが鈍化した。結果として、貿易収支が+50.9億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から21.9億ドル拡大した。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同41.9%増(前月:同25.4%増)と伸びが加速した一方、石油ガス輸出が同23.7%増(前月:同54.5%増)と鈍化した(図表10)。品目別にみると、まず動植物性油脂(同78.7%増)はインドネシア政府が5月下旬に食用油の禁輸措置を解除した影響で急伸した。また鉱産物(同76.3%増)は国際商品市況の高騰により大幅な増加が続いた。このほか、化学製品(同40.9%増)や自動車・同部品(同32.4%増)、電気機械(同20.0%増)、鉄・鉄鋼(同12.3%増)なども好調に推移した。機械類(同5.1%増)やゴム製品(同1.7%増)は緩やかな伸びに止まった。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの22年6月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比5.0%増(前月:同7.7%増)の128億ドルとなり、伸びが鈍化した(図表11)。輸出は昨年から世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いているが、今年に入って増勢が弱まってきている。なお、総輸出額が同24.8%増(前月:同21.5%増)の464億ドル、総輸入額が同27.7%増(前月:同33.3%増)の431億ドルとなり、それぞれ大幅な増加が続いた。結果として、貿易収支が+33.0億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から16.8億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約2割を占める電子製品は同0.3%増(前月:同8.5%増)となり、伸びが大きく鈍化した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同21.4%増)こそ好調だったが、ディスクメディア(同14.1%減)やPC(同47.2%減)、通信機器(同2.1%減)が減少した。一方、全体の約3割を占める化学品は同1.8%増(前月:同0.8%減)と持ち直したが、小幅の増加に止まった。化学品の内訳を見ると、医薬品(同23.6%減)が落ち込んだ一方、石油化学製品(同16.7%増)がプラスの伸びに転じた。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの22年6月の輸出額(通関ベース)は前年同月比1.0%増(前月:同6.4%増)の66億ドルとなり、小幅の伸びに止まった(図表13)。輸出の基調は2020年に新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて急減した後、世界経済の再開を受けて増加傾向が続いているが、足元の輸出の勢いは緩やかなものとなっている。一方、輸入額は前年同月比26.0%増(前月:同30.2%増)の124億ドルと大幅な伸びが続いた。結果として、貿易収支が▲58.4億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から2.9億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電気製品が同5.2%減(前月:同1.3%増)と減少した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同2.4%減)と電子データ処理機(同25.0%減)がそれぞれ落ち込んだ。その他9品目については、製錬銅(同50.1%減)と金属部品(同20.7%減)、イグニッションワイヤーセット(同11.0%減)、電子機器・同部品(同1.8%減)がそれぞれ減少した一方、その他鉱業品(同75.8%増)とココナッツオイル(同63.2%増)、化学品(同31.4%増)、その他製造品(同7.0%増)、機械・輸送用機器(同3.6%増)がそれぞれ増加した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年08月09日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【ASEANの貿易統計(8月号)~6月の輸出は域内向けを中心に好調持続、今後も供給制約の緩和により増加基調が続く】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ASEANの貿易統計(8月号)~6月の輸出は域内向けを中心に好調持続、今後も供給制約の緩和により増加基調が続くのレポート Topへ