2021年01月08日

ASEANの貿易統計(1月号)~11月の輸出は商品市況改善で3カ月連続のプラスに

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

文字サイズ

20年11月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比4.2%増(前月:同1.0%増)と上昇、3カ月連続でプラスとなった(図表1)。輸出の伸び率は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と商品価格の下落、国内外で実施された活動制限措置の影響が4月に本格化して急減したが、6月から経済活動の再開を反映して持ち直しの動きが続いている。新型コロナ感染対策によるテレワーク需要の増加を受けて電気・電子製品の出荷が順調に推移するなか、11月は商品市況の改善を受けて鉱産物の出荷増が輸出全体を押し上げた。しかし、足元の輸出は経済再開後の反動増が一巡しつつあり、今後は感染が再拡大している欧州向けの落ち込みが懸念される。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、11月は北米向け(同20.8%増)が若干鈍化したものの、高水準を維持したほか、東アジア向け(同5.5%増)が2ヵ月ぶりに増加した(図表2)。一方、EU向け(同8.8%減)がロックダウンの影響を受けた再び減少したほか、回復の遅れる東南アジア向け(同10.3%減)が感染対策強化に伴う内需鈍化を受けて低迷した。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン6ヵ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの20年11月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比10.7%増となり、前月の同12.2%増から低下したが、3ヵ月連続の二桁増となった。輸出は昨年4~5月に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響により落ち込んだが、6月から経済活動の再開を反映して持ち直しが続いている。また輸入額も前年同月比15.7%増(前月:同9.2%増)と上昇した結果、貿易収支は+5.5億ドルとなり、前月から23.9億ドル縮小した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比では2.1%減(前月:同3.5%増)とマイナスとなったものの、電気製品・同部品が同17.8%増(前月:同20.7%増)と10ヵ月連続の二桁増となった(図表4)。またアパレル関連では、織物・衣類が同13.2%減(前月:同4.7%減)、履物が同10.9%減(前月:同12.3%減)と、それぞれ減少した。農林水産物を見ると、コメ(同12.8%増)が増加したものの、コーヒー(同17.8%減)や野菜(同12.9%減)、カシューナッツ(同3.2%増)、水産物(同2.9%減)が減少するなど、総じて低調だった。

輸出を資本別に見ると、地場企業が同16.8%減(前月:同7.2%減)が落ち込んだが、全体の7割を占める外資系企業が同24.6%増(前月:同21.5%増)と大幅に増加した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの20年11月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.6%減(前月:同6.7%減)と7カ月連続で減少した。輸出は今年3月から新型コロナ感染拡大の影響が現れて4~6月に大きく減少した後、経済活動の再開を反映して7-8月にやや持ち直したが、足元では頭打ち感がみられる。また輸入額が前年同月比1.0%減(前月:同14.3%減)と8カ月連続で減少した結果、貿易収支は+0.5億ドルとなり、前月から19.9億ドル縮小した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同3.0%減(前月:同5.5%減)と8カ月連続の減少となった(図表6)。製造品の内訳を見ると、石油化学製品(同2.7%減)、電子機器(同3.9%減)など減少した品目があるものの、外出自粛の影響で家電製品(同8.9%増)の増加傾向が続くほか、機械・装置(同5.9%増)や自動車・部品(同10.3%増)など幾つかの品目が増加した。また鉱業・燃料は同20.2%減(前月:同36.9%減)となり、石油製品(同19.0%減)を中心に9ヵ月連続で減少した。農産物・同加工品は同0.7%増(前月:同3.5%減)と2ヵ月ぶりに増加した。加工食品(同14.5%減)や加工食品(同1.1%減)など減少した品目もあるが、ゴム製品(同25.5%増)やコメ(同16.7%増)、天然ゴム(同32.5%増)、果物(同3.1%増)が増加するなど、総じて改善傾向がみられた。なお、非貨幣用金(同50.0%減)は2ヵ月連続で減少した。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの20年11月の輸出額(ドル建て換算、通関ベース)の伸び率は前年同月比5.4%増(前月:同1.1%増)と上昇した。輸出は今年4~5月に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して約3割の減少を記録した後、経済活動の再開に伴う反動増を受けて持ち直しの動きが続いている。また輸入額が前年同月比8.0%減(前月:同5.1%減)と低迷した結果、貿易収支は+40.9億ドルとなり、前月から12.4億ドル縮小した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同19.2%増(前月:同3.2%増)となり、主力の電気・電子製品(同4.0%増)を中心に5カ月連続で増加した(図表8)。また鉱物性燃料は同33.9%減(前月:同40.3%減)と低迷した。天然ガス(同43.0%減)と石油製品(同28.4%減)、原油(同35.8%減)がそれぞれ減少した。このほか、ゴム手袋(同189.4%増)や動植物性油脂(同12.6%増)の大幅な増加が続いた一方、化学製品(同4.3%減)(前月:同14.4%減)と低迷した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの20年11月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比9.4%増(前月:同3.5%減)と上昇し、5ヵ月ぶりのプラスとなった。輸出は今年3~5月にかけて新型コロナの感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて最大約3割減まで落ち込んだが、6月以降は経済活動の再開を反映して持ち直してきている。11月の輸出は商品市況の改善を受けて大きく上昇した。また輸入額が前年同月比17.5%減(前月:同26.9%減)とマイナス幅が縮小した結果、貿易収支は+26.0億ドルとなり、前月から9.8億ドル縮小した(図表9)。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同12.4%増(前月:同1.9%減)が大きく増加した一方、石油ガス輸出が同26.3%減(前月:同28.7%減)と低迷した(図表10)。品目別にみると、動植物性油脂(同43.4%増)とプラスチック・ゴム製品(同12.0%増)、機械類(同12.7%増)、電気機械(同12.4%増)、自動車・同部品(同4.8%増)が増加した一方、織物類(同18.8%減)や鉱産物(同8.6%減)が低迷した。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの20年11月の輸出額(石油と再輸出除く、ドル建て換算、通関ベース)は前年同月比3.9%減(前月:同2.4%減)と低下した。輸出はコロナ禍でも増加傾向で推移してきたが、足元では電子製品が停滞しているほか、石油化学製品の低迷が続くなど勢いを欠いている。なお、総輸出額は同7.1%減(前月:同8.0%減)、総輸入額は同8.5%減(前月:同8.6%減)となり、それぞれ減少した。結果として、貿易収支が+26.8億ドルとなり、前月から5.7億ドル縮小した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品が同2.8%減(前月:同0.3%増)となり、9カ月ぶりに減少した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、PC(同3.5%増)が増加したものの、主力のIC(同6.9%減)をはじめとしてPC部品(同11.2%減)やディスクメディア(同8.7%減)が減少した。また電子製品と並び全体の約3割を占める化学品は同8.4%減(前月:同1.1%減)と7カ月連続で減少した。化学品の内訳を見ると、医薬品(同12.6%減)が2ヵ月ぶりに減少したほか、石油化学製品(同17.7%減)が低迷した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの20年11月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.0%増(前月:同1.2%減)と上昇して2カ月ぶりのプラスとなった。輸出の基調は、今年3月から新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて幅広い品目で落ち込んだ後、5月から経済活動の再開を反映して概ね持ち直しの動きが続いている。また輸入額が前年同月比18.9%減(前月:同18.8%減)と大幅な落ち込みが続いた結果、貿易収支は▲17.3億ドルとなり、前月から0.6億ドル改善した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同4.6%増(前月:同0.2%増)と上昇した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同20.2%増)と消費者向け電子製品(同42.0%増)が増加した一方、主力の半導体デバイス(同0.1%減)が停滞、オフィス機器(同21.3%減)の大幅な落ち込みが続いた。その他9品目については増加した品目が多かった。製錬銅(同83.2%増)と金(同59.5%増)、ココナッツオイル(同40.4%増)、イグニッションワイヤーセット(同27.2%増)、金属部品(同15.6%増)、化学品(同11.9%増)は増加した一方、その他鉱物製品(同14.4%減)とその他製造品(同14.4%減)、機械・輸送用機器(同5.9%減)が減少した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2021年01月08日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【ASEANの貿易統計(1月号)~11月の輸出は商品市況改善で3カ月連続のプラスに】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ASEANの貿易統計(1月号)~11月の輸出は商品市況改善で3カ月連続のプラスにのレポート Topへ