2020年11月10日

フィリピンGDP(7-9月期)-前年同期比11.5%減、3期連続のマイナス成長に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2020年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比11.5%減1と、前期の同16.9%減からマイナス幅が縮小し、市場予想2(同9.6%減)を下回る結果となった(図表1)。

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の悪化がマイナス成長に繋がった。

民間消費は前年同期比9.3%減(前期:同15.3%減)とマイナス幅が縮小した。民間消費の内訳を見ると、交通(同33.4%減)とレストラン・ホテル(同49.9%減)、衣服・履物(同13.9%減)、家具・住宅設備(同9.1%減)、保健(同2.3%減)などが引き続き減少した。一方、食料・飲料(同4.6%増)と住宅・水道光熱(同6.7%増)、通信(同5.7%増)は増加傾向を維持した。

政府消費は同5.8%増となり、前期の同21.8%増から低下した。

総固定資本形成は同37.1%減と、前期の同36.5%減に続いて大幅に減少した。建設投資が同43.5%減(前期:同31.4%減)、設備投資が同34.4%減(前期:同61.1%減)と、それぞれ大幅に減少した。なお、設備投資の内訳を見ると、全体の半分を占める輸送用機器(同40.1%減)や一般工業機械(同32.1%減)、特定産業機械(同25.0%減)などが軒並み大幅減となった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が前期から横ばいの+4.4%ポイントとなった。まず財・サービス輸出は同14.7%減(前期:同35.8%減)と二桁減少となった。輸出の内訳を見ると、財輸出(同2.2%減)とサービス輸出(同32.8%減)がそれぞれ低迷した。また財・サービス輸入も同21.7%減(前期:同37.9%減)と大幅に減少した。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、第二次産業と第三次産業が前期に続いてマイナス成長となった(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同10.6%減(前期: 同17.0%減)と二桁減少となった。宿泊・飲食業(同52.7%減)をはじめとして、運輸・倉庫業(同28.1%減)や不動産業(同22.5%減)、専門・ビジネスサービス業(同9.4%減)、卸売・小売(同5.4%減)、保健衛生・社会活動(同4.0%減)がそれぞれ減少した。一方、金融・保険業(同6.2%増)と行政・国防(同4.5%増)、情報・通信業(同0.8%増)は増加傾向を維持した。

第二次産業は同17.2%減(前期: 同21.8%減)と低迷した。まず製造業(同9.7%減)は主力のコンピュータ・電子機器や化学製品、食品加工など幅広い産業が減少した。また建設業(同39.8%減)と鉱業・採石業(同15.6%減)は二桁減少となった。一方、電気・ガス・水道(同0.2%増)は小幅ながら増加に転じた。

第一次産業は前年同期比1.2%増(前期:同1.6%増)と2期連続で増加した。コメ(同15.4%増)やトウモロコシ(同4.1%増)の収穫量が増加したほか、漁業・養殖業(同2.1%増)はクロマグロなどの漁獲が増加した。一方、家畜(同7.7%減)はアフリカ豚熱の影響で減少した。
 
1 2020年11月10日、フィリピン統計庁(PSA)が2020年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表。
2 Bloomberg調査

7-9月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は昨年まで概ね+6%前後の高成長が続いていたが、今年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大を背景に景気が悪化、4-6月期は新型コロナの封じ込めを目的に国内外で実施された活動制限措置の影響が本格的に現れて成長率が▲16.5%と落ち込んだ。7-9月期の成長率は▲11.5%となり、景気は最悪期を脱したとみられるが、回復の遅れが目立つ結果となった。

7-9月期の景気低迷は、国内で実施された活動制限に伴う内需の落ち込みが続いている影響が大きい。フィリピン政府が3月中旬にマニラ首都圏を含むルソン島全域で実施した広域隔離措置(ECQ)は、コロナ感染の収束の兆しがみられない状況が続くなか、経済的な影響を考慮して制限措置を段階的に解除3、6月からマニラ首都圏に比較的制限の少ない一般的隔離措置(GCQ)を適用したことにより大半の企業活動が認められることとなった。しかし、その後も新型コロナの感染拡大が続いたことから(図表3)、政府は医療体制の崩壊を防ぐべく、8月4日に首都圏・近郊で修正広域隔離措置(MECQ)へと外出・移動制限を強化した。政府は医療体制の改善を受けて同措置を2週間で終了してGCQへと制限を再び緩和した一方、マスクやフェースシールドの着用義務付けを開始するなど感染対策を強化した。このように7-9月期は新型コロナの感染拡大によって更なる制限緩和が遅れたため、消費者と企業の経済活動は低調に推移して民間消費(同▲9.3%)と投資(同▲37.1%)が落ち込んだ。

また海外送金の減少も7-9月期の民間消費の落ち込みに繋がった。コロナ禍でフィリピン人海外出稼ぎ労働者の失業や帰国が増えるなか、7-8月の在外フィリピン人からの送金額は前年比2.9%減(4-6月:同12.7%減)と減少傾向が続いている(図表4)。フィリピンは海外出稼ぎ労働者による送金がGDPの10%弱の規模に相当し、本国で暮らす家族の食料品や衣類、医療、教育など基本的な需要を満たす役割を果たしているだけに、海外送金の減少によって消費市場の回復が遅れている。
(図表3)フィリピンの新規感染者数の推移/(図表4)フィリピン 海外労働者送金額
10-12月期は4期連続のマイナス成長が予想されるものの、持ち直しの動きは続くだろう。フィリピンでは厳しい感染防止策が奏功し、新型コロナの新規感染者は9月頃から鈍化して直近では1日当たり2000人前後で推移している。また政府は失業者の急増を受けて経済を再開させる姿勢を示しており、10月には公共交通機関の社会的距離の規制が緩和されたほか、緩やかな隔離措置が適用されている地域において観光客の受け入れが可能となった。このように現在フィリピンは7-9月期と比べて感染動向と経済再開の状況が改善してきており、10-12月期は景気回復が進展しそうだ。

もっとも行動制限の緩和によって人の移動が増えれば、感染のリスクは高まる。感染が再拡大した場合には活動制限が再び厳格化される展開が予想される。マスクとフェースシールドの着用義務付けにより、経済再開と感染防止の両立を図ることができるか、コロナ禍の社会・経済活動の変化に対するフィリピンの適応力が試されている。
 
3 フィリピン政府は5月から段階的に隔離緩和地域の操業の許可や隔離地域を縮小するなど限定的な制限措置の緩和を実施している。
 
 

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(2020年11月10日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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