2020年08月14日

マレーシアGDP(20年4-6月期)-新型コロナの影響が本格化、前年同期比▲17.1%の二桁マイナス成長に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2020年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比17.1%減1(前期:同0.7%増)と落ち込み、Bloomberg調査の市場予想(同10.7%減)を下回る結果となった。
 

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の縮小が成長率低下に繋がった(図表1)。

GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比18.5%減(前期:同6.7%増)と急低下した。政府消費は前年同期比2.3%増(前期:同5.0%増)と低下したものの、増加傾向を維持した。

総固定資本形成は同28.9%減(前期:同4.6%減)と減少幅が大幅に拡大した。建設投資が同41.2%減(前期:同4.0%減)、設備投資が同11.1%減(前期:同6.2%減)と、それぞれ悪化した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の7割を占める民間部門が同26.4%減(前期:同2.3%減)、公共部門が同38.7%減(前期:同11.3%減)とそれぞれ二桁のマイナス成長となった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲2.7%ポイントとなり、前期の▲3.2%ポイントからマイナス幅が縮小した。輸出が同21.7%減(前期:同7.1%減)、輸入が同19.7%減(前期:同2.5%減)とそれぞれ縮小した。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
供給側を見ると、主に第二次、第三次産業を中心に成長率が低下したことが分かる(図表2)。

第一次産業は同1.0%増(前期:同8.7%減)と悪化した。天然ゴム(同22.1%減)と林業(同22.3%減)、漁業・養殖業(同10.1%減)が前期に続いて大幅に減少したものの、パーム油(同7.5%増)がプラスに転じたほか、畜産(同1.3%増)とその他農業(同4.5%)が増加傾向を維持した。

第二次産業をみると、まず製造業は同18.3%減(前期:同1.5%増)と急低下した。内訳を見ると、食品加工(同4.3%増)と動植物性油脂(同15.6%増)こそ増加したものの、主力の電気電子機器(同8.9%減)をはじめとして石油製品(同26.5%減)や化学製品(同14.0%減)、金属製品(同42.3%減)、輸送用機器(同30.0%減)など幅広い産業が落ち込んだ。また建設業が同44.5%減(前期:同7.9%減)、鉱業が同20.0%減(前期:同2.0%減)となり、それぞれ一段と減少した。

GDPの6割弱を占める第三次産は前年同期比16.2%減(前期:同3.1%増)と大幅に減少した。情報・通信(同4.9%増)や政府サービス(同3.5%増)など成長を支えた業種もあるが、宿泊・飲食業(同40.9%減)や卸売・小売(同23.3%減)、運輸・倉庫(同44.8%減)、金融・保険(同5.3%減)、不動産・ビジネスサービス(同25.4%減)など多くの業種が落ち込んだ。
 
1 2020年8月14日、マレーシア中央銀行が2020年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。

4-6月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済は昨年半ばまで+4%台の堅調な成長が続いていたが、今年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大を背景に景気が減速、4-6月期はコロナ封じ込めを目的に国内外で実施された活動制限措置の影響により経済が大打撃を受けて成長率が前年比▲17.1%と急減した。二桁のマイナス成長は、アジア通貨危機後の1998年10-12月期(▲11.2%)以来となる。

4-6月期の景気悪化は、国内で実施された活動制限に伴う内需の落ち込みによる影響が大きい。新型コロナの感染拡大を受けて、マレーシア政府は3月18日に活動制限令(MCO)を発令して全土の移動制限を開始、生活必需品の購入を除く外出を禁止するなど様々な経済活動が停止した。その後は、5月4日から条件付き活動制限令(CMCO)に切り替えて感染対策の順守を条件に大部分の経済活動・社会活動を許可し、更には6月10日から回復活動制限令(RMCO)を実施して州間移動や国内観光を許可、学校・宗教施設を段階的に再開するなど活動制限措置は一段と緩和されることとなった。4-6月期は、このように活動制限が続いたため、民間消費(同▲18.5%)と投資(同▲28.9%)は大きく落ち込んだ。

また輸出の落ち込みも深刻だ。新型コロナの世界的な感染拡大を背景に世界需要が減退すると共に、世界各国が水際対策として実施する出入国規制によって外国人旅行者数が大幅に減少した結果、財・サービス輸出が前年比21.7%減と落ち込んだ。
(図表3)マレーシア雇用統計/(図表4)マレーシアの新規感染者数の推移
もっともマレーシア政府は新型コロナの感染拡大による影響から経済を回復させるため、国家経済回復計画(PENJANA)を含む総額2,950リンギ規模の景気刺激策を打ち出し、医療機器の調達や低所得者層や中小企業を中心に支援などを実施してきた。またマレーシア中銀は今年に入って4回の利下げ(累計▲1.25%)を実施しており、政策金利を1.75%の過去最低の水準まで引き下げている。実際、4-6月平均の就業者数は前年同期比▲1.2%の1488万人となり、経済成長率と比べて雇用情勢の悪化は限定的となっている。政府による様々なイニシアティブの実施、なかでも従業員の雇用を守るための賃金補助金プログラムが奏功したものと考えられる。

新型コロナの新規感染者数は7月から1日平均10人前後で推移しており(図表4)、現在のところ封じ込めに成功していると言えるが、国民の気の緩みなどから第2波がいつ襲来するか分からない。マレーシア政府は新規感染者数が3桁に上昇した場合には活動制限令を再導入する方針を示しているほか、8月から公共の場でのマスク着用を義務化するなど警戒を強化している。

マレーシア経済は既に最悪期を脱しており、景気持ち直しに向かっているが、感染拡大を食い止めるための感染対策は引き続き必要であり、また油価下落による交易条件の悪化や海外経済の低迷の影響も見込まれる。4-6月期ほどではないにしろ、今後も内外需の圧迫される状況は続くものと予想され、7-9月期もマイナス成長となる可能性が高そうだ。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2020年08月14日「経済・金融フラッシュ」)

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