コラム
2020年07月14日

インドにバッタの大群侵入、蝗害がコロナに続く新たなリスクに

経済研究部 准主任研究員   斉藤 誠

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1―バッタの大群がインドに侵入

(図表1)サバクトビバッタの状況 インドは新型コロナ感染の封じ込めに失敗し、ワクチンが出るまで収束の見通しが立たない状況にあるなか、現在「アフリカの角」(アフリカ大陸東部)で大発生しているサバクトビバッタがイラン-パキスタン間で増殖して国内に侵入してきている(図表1)。バッタの食害(蝗害(こうがい))がコロナ禍で深刻な打撃を受けたインド経済に追い打ちをかける恐れが高まってきている。

サバクトビバッタは生息地である乾燥地域に大雨が降ることにより、餌となる植物が増えて繁殖が加速する。今回のバッタ騒動は18年5月と10月にアラビア半島、19年12月にアフリカ東部をサイクロンが襲うなど、同地域でサバクトビバッタの繁殖に適した環境が続いたことが爆発的増加のきっかけとなった。

バッタの大量繁殖を未然に防ぐには、発生地域を監視して卵や幼虫の時期から防除することが有効とされる。しかし、アラビア半島ではイエメンが内戦状態にあるなど監視が行き届かず、またバッタの群れが紅海を渡った先の東アフリカでは予算不足などから防除システムが十分に機能せず、手の打ちようがないほどに繁殖が進んでしまった。バッタが大量発生した東アフリカ地域では食料安全保障と農民の生活が脅かされており、国連食糧農業機関(FAO)によると、今年東アフリカで2500万人以上が食糧危機に直面すると予測されている1

インドでは19年5月、西部ラジャスタン州にサバクトビバッタの群れが侵入した。バッタの大群が確認されたのは1993年以来となる。当局が防除を続けて大発生を食い止め、20年3月に事態は一旦落ち着きを取り戻したが、4月にはイラン南部とパキスタン南西部で繁殖したとみられるバッタの大群が再び侵入した。6月にはサバクトビバッタの群れが砂漠地帯のあるラジャスタン州、グジャラート州だけでなく、中部のマディヤプラデシュ州、北部のハリヤナ州、ウッタルプラデシュシュ州の5州に広がった。6月末には首都デリー郊外の衛星都市グルグラムにバッタの群れが侵入して空が薄暗くなり、高層マンションに大量のバッタが張り付く様子が報道され、注目を集めた。

FAOが公表する「Locust Watch」の最新情報(7月3日)によると、「モンスーンの雨が降る前にインド-パキスタンの国境沿いにバッタ大群が移動したため、一部の群れはインド西部から東や北へ移動、一部はネパールに達した」と報告されている。
 
1 またFAOは、20年1月以降に東アフリカとイエメンで行われた防除活動により推定5000億匹のバッタを排除し、100万トンの作物を救ったと明らかにしている。

2―サバクトビバッタの脅威とは

サバクトビバッタは通常、単独で行動する「孤独相」と呼ばれる体であり、人類の脅威ではない。しかし、個体数が増すと、群れとなって集団行動する「群生相」と呼ばれる体に変異する。群生相となったサバクトビバッタは食欲が旺盛となって繁殖力が増すほか、体色が黒くなり、翅が長くなるなど見た目も変貌する。

サバクトビバッタの群れは1日に最大130~150km以上も飛行し、自身の体重(成虫は約2グラム)に相当する植物を食べる。米国農務省(USDA)によると、1平方キロメートルほどの小さな群れ(4000万匹以上を含む)でも、1日に約3.5万人分の食料と同量を食べると推定されている。当然、野生の植物のみならず、あらゆる農作物が食べられ、その地域の食料問題に甚大な影響をもたらす。

また増殖スピードが速いことも脅威だ。サバクトビバッタは3ヵ月ごとに繁殖し、適切な生態学的条件(植生や産卵のための土壌水分など)が整えば1世代で20倍に増殖することができる。従って、2世代目の繁殖する6ヵ月後には約400倍、1年後には16万倍に増える可能性があり、このように指数関数的に増加すると、すぐに手の負えない事態となってしまう。

3―インド政府はバッタとの闘いに打ち勝てるか

サバクトビバッタが集中するラジャスタン州とグジャラート州は、乾季作(11月~4月)で小麦や菜種、クミンシードなどの作物を中心に被害を受けたが、幸いバッタの大群が侵入した今年4月には既に収穫が進んでいたことから致命的な被害には至らなかった。むしろ乾季作は天候に恵まれたため、インドの小麦生産量は過去最高の1億700万トンを記録したと推定されている。

しかし、問題は雨季作(6~10月)だ。FAOは、現在のインド-パキスタン地域へのバッタの侵入は7月中旬まで続くと予測しているほか、域内では既に繁殖が始まっており、7月に孵化したバッタの幼虫が8月中旬には成虫となって群れが形成されると警告している。またインド気象局(IMD)によると、今年の南西モンスーンによる降雨量(年間の約70%以上を占める)は平年並み(長期平均降雨量を2%上回る)と予測されている。適度な雨量が得られれば、作物が良く育つ一方、バッタの繁殖環境も良くなる。つまり、雨季を迎えたインドにおいて、今後サバクトビバッタが大量繁殖し、雨季作の収穫を迎えるまでに甚大な作物被害が出る恐れがあるのだ2
(図表2)サバクトビバッタの生息域 サバクトビバッタは通常、西アフリカからインドの間の約30カ国の乾燥・半乾燥地帯(約1,600万平方キロメートル)に生息しており、インドでは西部のタール砂漠とその周辺に限られる。しかし、大発生した場合の活動範囲は最大で約2,900万平方キロメール(地球の地表面の20%以上)、インドでは国土の大半(南部と北東部の一部を除く)に広がる(図表2)。インドにおいて農業は労働者の約4割余りが従事する重要な産業であるだけに、サバクトビバッタの食害は食料問題だけでなく、経済問題にも影響が及ぶことになる。

インド農業省のバッタ警告機構(LWO)によると、バッタ対策チームは4~6月にかけて既に12.8万ヘクタール(東京都の面積の約6割)の土地に対し、トラクターや消防車、ドローンを使って農薬を散布するなど防除措置を講じているほか、農家には爆竹を鳴らし、太鼓を叩くなど大きな音でバッタを散らすよう要請している。また農業省は5月27日に、イギリスに60台の噴霧器を注文したほか、空中散布3用のヘリコプター配備計画を進めるなどバッタ対策の強化を明らかにしている。

モディ首相は5月31日、ラジオ番組でバッタ被害を受けた農民に必要な支援を与えると述べた。農民の間でバッタ被害の不安が強まっていることを受けて言及せざるを得なかったのだろう。コロナ禍で経済が最悪期にあるなか、インド政府はバッタ禍(蝗害(こうがい))への備えも求められている。インド西部の繁殖地で効果的な防除ができなければ、食糧不足や食品価格の高騰、農業支援策による政府財政の悪化などを通じてインド経済は一段と厳しい状況に追い込まれる恐れがある一方、防除に成功できれば、好天による豊作で農村部を中心にコロナ禍で傷んだ経済の回復が期待できる。
 
2 隣国のパキスタンでは、作物被害が1年間で最大2.4兆パキスタン・ルピー(主要穀物の75%に相当)もの経済的損失が発生するとも予測されている。
3 殺虫剤の空中散布は大発生した場合の最も効果的な防除策だが、他の生物に悪影響を与えることから理想的な方法ではないと言われている。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2020年07月14日「研究員の眼」)

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