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- インドの持続的成長に向けたモディ政権2期目の課題
2019年09月04日
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経済面の公約では、2030年までに「世界第3位の経済大国になる」という目標を掲げている。(図表1)今後5年間で100兆ルピー(約160兆円)相当のインフラ投資を柱に据え、中小零細企業・スタートアップ支援、税制改革(税率引下げと課税ベース拡大)、デジタル化の促進等を進める模様だ。またビジネス環境は世界ランキングの上位50位入りを目指し、会社法改正や新産業政策の展開、産業のクラスター形成とネットワークの構築を図るとしている。
農民支援策も数多くの公約が盛り込まれた。農民所得倍増の公約を堅持し、小規模農家に限定していた現金給付制度の対象拡大や年金制度の整備、農業生産性向上に向けた25兆ルピーの投資、無利子の農業ローンの提供など、農業予算を重視する姿勢が見て取れる。
しかし、インドは財政健全化の途上にあり、インフラと農業支援のための予算を十分に積み増すことができるかは疑問だ。現在インド政府は法律に基づき、2020年度までに財政赤字(GDP比)を3%まで縮小することを計画しているが、足元の景気減速を背景に税収が鈍化して財政赤字目標の達成が危ぶまれると予想される。IMFが7月に公表した世界経済見通しにおいて、インド経済は2019年に7.0%成長、2020年は7.2%に上向く見通しだが、内需の見通し悪化を反映して両年とも前回から0.3%ポイントずつ下方修正されている。仮にインド政府が財政赤字縮小のペースを緩めたとしても財政再建の方針は堅持するものとみられ、大幅な歳出拡大は望めないだろう。
財政余力が限られるなか、インド経済の高成長を持続させるには国内外から資金を引き出して雇用を創出することが不可欠であり、そのためには政権1期目で積み残した改革を進める必要がある。現在、政府は複雑な労働法制の合理化に着手しているが、労働市場の柔軟化に繋がるかは明らかになっていない。大胆な改革は労働者の抗議デモに繋がる恐れがある。またインフラや工業の用地取得を促す土地収用法は野党が多数派を形成する上院の反対が予想される。さらに、不良債権に苦しむ国営銀行や経営不振が続く国営航空エアインディアなど非効率な経営を続ける国営企業の存在は財政赤字の増大に繋がっており、民営化を含めた国営企業改革も求められる。
最近では米中貿易戦争をきっかけに人件費の高騰した中国から工場を移転する企業の動きが加速しているが、これはインドにとって漁夫の利を得る好機だ。既にベトナムはポスト中国としての評価が高く、海外から投資を集めている。アジア各国の輸出は昨年後半から減速傾向にあるが、ベトナムだけは輸出の増加ペースに衰えが見られない(図表2)。ベトナムが有望視される理由としては(1)現地マーケットの成長性、(2)若くて優秀な人材、(3)太平洋に面している地理的特徴などが挙げられる。インドはベトナムと比べて最終消費地であるアメリカや中国から離れているものの、国内マーケットの成長性は格別に大きく、また中国の生産能力をカバーできるだけの若者人口を抱えており、決してインドの魅力が劣っている訳ではない。実現のハードルが高い改革に踏み込むことができれば、中国に代わる生産拠点としてアピールとなる。現在モディ政権は政治手腕が試される段階にあると言えるだろう。
農民支援策も数多くの公約が盛り込まれた。農民所得倍増の公約を堅持し、小規模農家に限定していた現金給付制度の対象拡大や年金制度の整備、農業生産性向上に向けた25兆ルピーの投資、無利子の農業ローンの提供など、農業予算を重視する姿勢が見て取れる。
しかし、インドは財政健全化の途上にあり、インフラと農業支援のための予算を十分に積み増すことができるかは疑問だ。現在インド政府は法律に基づき、2020年度までに財政赤字(GDP比)を3%まで縮小することを計画しているが、足元の景気減速を背景に税収が鈍化して財政赤字目標の達成が危ぶまれると予想される。IMFが7月に公表した世界経済見通しにおいて、インド経済は2019年に7.0%成長、2020年は7.2%に上向く見通しだが、内需の見通し悪化を反映して両年とも前回から0.3%ポイントずつ下方修正されている。仮にインド政府が財政赤字縮小のペースを緩めたとしても財政再建の方針は堅持するものとみられ、大幅な歳出拡大は望めないだろう。
財政余力が限られるなか、インド経済の高成長を持続させるには国内外から資金を引き出して雇用を創出することが不可欠であり、そのためには政権1期目で積み残した改革を進める必要がある。現在、政府は複雑な労働法制の合理化に着手しているが、労働市場の柔軟化に繋がるかは明らかになっていない。大胆な改革は労働者の抗議デモに繋がる恐れがある。またインフラや工業の用地取得を促す土地収用法は野党が多数派を形成する上院の反対が予想される。さらに、不良債権に苦しむ国営銀行や経営不振が続く国営航空エアインディアなど非効率な経営を続ける国営企業の存在は財政赤字の増大に繋がっており、民営化を含めた国営企業改革も求められる。
最近では米中貿易戦争をきっかけに人件費の高騰した中国から工場を移転する企業の動きが加速しているが、これはインドにとって漁夫の利を得る好機だ。既にベトナムはポスト中国としての評価が高く、海外から投資を集めている。アジア各国の輸出は昨年後半から減速傾向にあるが、ベトナムだけは輸出の増加ペースに衰えが見られない(図表2)。ベトナムが有望視される理由としては(1)現地マーケットの成長性、(2)若くて優秀な人材、(3)太平洋に面している地理的特徴などが挙げられる。インドはベトナムと比べて最終消費地であるアメリカや中国から離れているものの、国内マーケットの成長性は格別に大きく、また中国の生産能力をカバーできるだけの若者人口を抱えており、決してインドの魅力が劣っている訳ではない。実現のハードルが高い改革に踏み込むことができれば、中国に代わる生産拠点としてアピールとなる。現在モディ政権は政治手腕が試される段階にあると言えるだろう。
(2019年09月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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