2020年08月17日

タイGDP(20年4-6月期)-新型コロナで前年同期比12.2%減、アジア通貨危機以来の二桁マイナス成長

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2020年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比12.2%減1と、前期の同2.0%減から大幅に低下した一方、Bloomberg調査の市場予想(同13.0%減)を上回った(図表1)。
 
実質GDPを需要項目別に見ると、主に内外需の縮小が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比6.6%減と、前期の同2.7%増から減少した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同45.8%減)や交通(同35.4%減)、娯楽・文化(同35.8%減)、衣類・靴(同21.4%減)が前期から更に悪化した。一方、食料・飲料(同3.1%増)や住宅・水道・電気・燃料(同3.8%増)、通信(同2.6%増)は底堅く推移した。

政府消費は同1.4%増と、前期の同2.8%減から上昇した。

投資は同8.0%減と、前期の同6.5%減から減少幅が拡大した。投資の内訳を見ると、まず民間投資が同15.0%減(前期:同5.4%減)と一段と下落した。民間設備投資(同18.4%減)と民間建設投資(同2.1%減)が前期に続いて減少した。一方、公共投資は同12.5%増(前期:同9.3%減)と3期ぶりに増加した。公共設備投資(同4.1%増)に加えて公共建設投資(同15.6%増)がプラスに転じた。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲4.6%ポイントと、前期の▲3.2%ポイントから悪化した。まず財・サービス輸出が同23.3%減(前期:同3.1%減)と大幅に減少した。うち財貨輸出が同15.9%減(前期:同2.0%増)、サービス輸出が同70.4%減(前期:同32.2%減)となり、それぞれ大幅に悪化した。一方、財・サービス輸入についても同23.3%減(前期:同3.1%減)と二桁減となった。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、幅広い産業で成長率が減少した(図表2)。

農林水産業は前年同期比3.2%減(前期:同9.8%減)と低迷、干ばつを背景にコメやトウモロコシ、キャッサバ、パイナップルなどの収穫が減少した。

鉱工業は同14.0%減となり、前期の同1.9%減から一段と減少した。まず主力の製造業が内外需の悪化により同14.4%減(前期:同2.6%減)と悪化し、4期連続のマイナスとなった。製造業の内訳を見ると、自動車やコンピューター・部品などの資本・技術関連産業(同28.6%減)をはじめとして、石油化学製品、ゴム・プラスチック製品などの素材関連(同8.6%減)、食料・飲料や繊維、家具などの軽工業(同8.5%減)が揃って落ち込んだ。また電気・ガス業が同13.3%減(前期:同1.1%増)、鉱業が同14.0%減(前期:同2.2%増)とそれぞれ減少した。

全体の6割弱を占めるサービス業は同12.3%減(前期:同0.9%減)と急落した。サービス業の内訳を見ると、ホテル・レストラン業(同50.2%減)をはじめとして芸術・娯楽等(同46.0%減)、運輸・倉庫業(同38.9%減)、管理及び支援サービス(同25.0%減)、小売・卸売業(同9.8%減)、保健衛生・社会事業(同6.0%減)が大幅なマイナス、不動産業(同0.4%増)と教育(同0.2%増)がゼロ成長に陥った。一方、建設業(同7.4%増)がプラスに転じたほか、金融・保険業(同1.7%増)、情報・通信業(同1.7%増)が小幅ながら増加を維持した。
 
1 8月17日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2020年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。

4-6月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は昨年こそ輸出の低迷が続く中でも概ね+2%台の緩やかな成長が続いていたが、今年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大を背景に景気が悪化、4-6月期はコロナ封じ込めを目的に国内外で実施された活動制限措置の影響により経済が打撃を受け、成長率が▲12.2%と急減した。アジアの金融危機以来(1998年4-6月期:▲12.5%)の低水準だった。

4-6月期の景気悪化は、国内外で実施された活動制限措置に伴う内外需の悪化による影響が大きい。タイ政府は新型コロナ感染拡大を受けて、3月18日から学校と娯楽施設を閉鎖、26日から非常事態宣言を発令して外出・移動制限を強化するなど、経済活動が著しく抑制されることなった。その後は、5月3日から活動制限措置の段階的な緩和が始まり、7月1日の第5フェーズでほぼ全ての商業施設が再開されるまでになったが、4-6月期は経済活動が厳しく制限される状況が続いたため、民間消費(同▲6.6%)と民間投資(同▲15.0%)が落ち込んだ。

外需も前期に増して悪化した。財輸出(▲15.9%)については、果物(+47.4%)や魚の缶詰・保存食品(+17.9%)などの食料品、価格が高騰した非貨幣用金の輸出が増加したものの、主力の乗用車(▲45.2%)と自動車部品(▲45.0%)がアセアンおよびオーストラリアなどの工場の一時操業停止、機械・装置(▲23.4%)や電子機器(▲6.6%)、石油化学製品(▲18.9%)などが海外需要縮小の影響を受けるなど、幅広い品目で減少した。また世界各国が感染防止のために実施した出入国規制によって外国人旅行者数がゼロとなり、インバウンド需要を失った結果、サービス輸出(▲70.4%)が大幅に減少した。

一方、公共部門は2020年度予算の支出が拡大して公共投資(+12.5%)と政府消費(+1.4%)がプラスに転じた。公共投資の改善は、運輸物流開発計画や水資源管理計画などのプロジェクトに対する政府の支出拡大が寄与した。

タイ経済は既に最悪期を脱しており、景気底打ちの兆候が見られるものの、年内はマイナス成長が予想される。タイ国内の新型コロナの市中感染は過去2ヵ月半以上の間、ゼロで推移しており、タイ政府はコロナ封じ込めに成功しているが、感染防止の取り組みは継続されるため、内需の抑制された状況が続く。また最近では若者による反政府抗議行動が勢いを増しており、不確実性が高まっている。こうした不安は投資家のマインドを一層弱める可能性がある。

また世界では新型コロナの第2波、第3波の感染拡大が続いており、タイ政府のトラベルバブル構想は実現する見通しが立たず、年内のインバウンド需要はほぼゼロで推移しそうだ。タイ政府は7月に開始した国内観光振興パッケージ(224億バーツ)の実施期間を当初の10月末から今年末まで延長する方針を示すなど、コロナで最も大きな打撃を受けた観光関連産業の下支えを図る公算だが、国内の家計の購買力は弱く、観光部門が今後も厳しい環境に置かれることに変わりない。財輸出の低迷も確実視され、内外需の圧迫される状況は続くものと予想される。

タイ政府は、新型コロナの第2波が生じないことを前提としても、今年の成長率見通しを従来の▲5~6%から、▲7.3~7.8%に下方修正している。
 
 

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(2020年08月17日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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