2020年11月16日

タイ経済:20年7-9月期の成長率は前年同期比6.4%減~コロナ禍からの回復が遅れて3期連続のマイナス成長

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2020年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比6.4%減1と、前期の同12.2%減からマイナス幅が縮小したが、3期連続のマイナス成長となった。なお、Bloomberg調査の市場予想(同9.1%減)と比べて、成長率の減少幅は小幅に止まった(図表1)。

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に外需の大幅な落ち込みがマイナス成長に繋がった。

民間消費は前年同期比0.6%減(前期:同6.8%減)と小幅に減少した。費目別に見ると、食料・飲料(同2.9%増)や住宅・水道・電気・燃料(同3.7%増)、通信(同2.0%増)は底堅く推移したが、レストラン・ホテル(同49.6%減)や衣類・靴(同20.4%減)、交通(同15.8%減)、娯楽・文化(同15.7%減)の大幅な減少が続いた。

政府消費は同3.4%増と、プラスに転じた前期の同1.3%増から上昇した。

総固定資本形成は同2.4%減(前期:同8.0%減)と、3期連続で減少した。投資の内訳を見ると、まず民間投資が同10.7%減(前期:同15.0%減)と低迷した。民間設備投資(同14.0%減)が振るわなかったものの、民間建設投資(同0.3%増)が若干のプラスとなった。一方、公共投資は同18.5%増(前期:同12.5%増)と大幅な増加が続いた。公共設備投資(同18.4%増)と公共建設投資(同18.6%増)が揃って二桁増となった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲4.0%ポイントと、前期の▲4.3%ポイントに続いて大幅なマイナスとなった。まず財・サービス輸出が同23.5%減(前期:同27.8%減)と減少した。うち財貨輸出は同7.7%減(前期:同15.9%減)と減少幅が縮小したが、サービス輸出は同73.3%減(前期:同68.0%減)と大幅な減少が続いた。一方、財・サービス輸入は同20.3%減(前期:同23.2%減)だった。財貨輸入(同17.0%減)とサービス輸入(同32.8%減)が揃って二桁マイナスとなった。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
7-9月期の実質GDPを供給項目別に見ると、主に製造業とサービス業の継続的な落ち込みがマイナス成長に繋がった(図表2)。

農林水産業は前年同期比0.9%減(前期:3.3%減)と減少、雨不足や干ばつの影響を受けてコメや天然ゴム、アブラヤシ、キャッサバの収穫量の減少が響いた。

鉱工業は同5.8%減(前期:同14.2%減)と低迷した。まず主力の製造業が外需の悪化により同5.3%減(前期:同14.6%減)と減少幅が縮小したものの、5期連続のマイナスとなった。製造業の内訳を見ると、自動車やコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同11.6%減)をはじめとして、石油化学製品、ゴム・プラスチック製品などの素材関連(同3.7%減)、食料・飲料や繊維、家具などの軽工業(同1.7%減)がそれぞれ減少した。また電気・ガス業が同9.4%減(前期:同13.3%減)、鉱業が同7.4%減(前期:同14.0%減)も減少した。

全体の6割弱を占めるサービス業は同7.3%減(前期:同14.6%減)と低迷した。サービス業の内訳を見ると、ホテル・レストラン業(同39.6%減)をはじめとして芸術・娯楽等(同5.9%減)、運輸・倉庫業(同23.6%減)、管理及び支援サービス(同20.6%減)、小売・卸売業(同5.5%減)、が低迷した。一方、建設業(同10.5%増)をはじめとして、情報・通信業(同3.1%増)や金融・保険業(同1.6%増)、不動産業(同1.5%増)が継続的に増加したほか、保健衛生・社会事業(同1.0%増)と教育(同0.7%増)が小幅ながらプラスに転じた。
 
1 11月16日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2020年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。

7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は昨年輸出の低迷が続く中でも概ね+2%台の緩やかな成長が続いていたが、今年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大を背景に景気が悪化、4-6月期は国内外で実施された活動制限措置の影響が経済を直撃して成長率が▲12.2%と急減した。7-9月期の成長率は▲6.4%となり、景気回復の遅れが目立つ結果となった。

 7-9月期は政府部門と民間消費が持ち直しに向かう一方で、民間投資と外需の落ち込みが続いた。タイ政府は、新型コロナ感染拡大を受けて3月下旬に非常事態宣言を発令して外出・移動制限を強化したが、早期に感染状況が落ち着くと5月に活動制限措置の段階的緩和に舵を切り、7月にはほぼ全ての商業施設が再開されるまでになった。7-9月期はこうした経済活動の再開が進むなかでも、感染予防策が奏功して国内感染の封じ込めに成功しており、現在まで感染の第二波は生じていない。また景気刺激策などの政府支出の拡大(政府消費:+3.4%、公共投資:+18.5%)がサポートとなり、民間消費(▲0.6%)は持ち直しつつある。一方、財貨・サービス輸出(▲23.5%)と民間投資(▲10.7%)は2期連続の二桁減少となった。

特に外需の落ち込みは大きい。財貨輸出(▲7.7%)については、タピオカ(+27.9%)や魚の缶詰(+10.1%)などの食料品、電子レンジ・オーブン(+71.8%)や冷蔵庫(+21.9%)などの家電製品、価格が高騰した非貨幣用金の出荷が増えて持ち直しつつあるものの、主力の乗用車(▲22.9%)や自動車部品・付属品(▲16.0%)、石油化学製品(▲6.7%)の出荷減少の影響が大きかった。またサービス輸出(▲73.3%)については、大幅な落ち込みが続いた。世界各国が感染防止のために実施した出入国規制によって外国人旅行者数がゼロで推移し(図表4)、GDPの約1割を占めるインバウンド需要が失われたままとなっている。
(図表3)タイの新規感染者数の推移/(図表4)タイの外国人観光客数
タイ経済は既に最悪期を脱したものの、年内までマイナス成長が続くと予想される。タイは新型コロナの新規感染者数を概ね一桁台で抑え込んでいるが、感染の第二波を警戒して感染防止の取り組みは継続されるため、内需は抑制された状況が続く。また世界では新型コロナの第二波、第三波の感染拡大が続いており、輸出の回復の遅れやインバウンド需要の消失が続くものとみられる。タイ政府は観光業を下支えるため、入国規制の緩和や国内観光支援策などを実施しているが、期待される効果は小さい。外需の落ち込みが続くなかで消費や投資に悪影響が広がるものとみられる。さらに今年7月以降、若者による反政府抗議行動が勢いを増すなか、警察がデモ隊の排除に乗り出すなど不確実性は高まっている。こうした政情不安はコロナ禍で弱まった投資家のマインドが一段と悪化する恐れがある。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2020年11月16日「経済・金融フラッシュ」)

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