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コラム
2024年04月02日
1――今年議論が高まるエネルギー基本計画の改定
日本の中長期的なエネルギー政策「エネルギー基本計画(以下、エネ基)」の見直し議論が、今年、本格化する。安全保障と気候変動対策を両立するため、再生エネルギー(以下、再エネ)と原子力を増やし、火力を減らして電力供給の安定を確保しながら脱炭素化を推進する。
エネ基の改定は3年に1度。2021年10月に閣議決定されたエネ基では、太陽光や風力など再エネ電源を倍増し、主力電源化へ「最優先の原則で取り組む」としたが、大きく前進したとは言い難い。2030年計画は絵に描いた餅となっている[図表1]。
今回の大きなポイントは2つある。1つは、原発の再稼働と再エネの拡大に向けて、具体的な策が出て来るか否か。日本全体の出力問題からすれば、設置変更許可を受けた原発5基のうち、出力の大きな新潟柏崎の再稼働に目途が立つかは大きなポイントである。経済産業大臣が地元の同意を取り付けるため、再稼働について発言を始めている。新潟柏崎の再稼働が今年決まれば、2012年3月以来、約12年ぶりの稼働となる。
今回の大きなポイントは2つある。1つは、原発の再稼働と再エネの拡大に向けて、具体的な策が出て来るか否か。日本全体の出力問題からすれば、設置変更許可を受けた原発5基のうち、出力の大きな新潟柏崎の再稼働に目途が立つかは大きなポイントである。経済産業大臣が地元の同意を取り付けるため、再稼働について発言を始めている。新潟柏崎の再稼働が今年決まれば、2012年3月以来、約12年ぶりの稼働となる。
2――エネルギー価格が高かろうが、予見可能性は必要
企業にとって、DX(デジタル・トランスフォーメーション)とGX(グリーン・トランスフォーメーション)を実現することは必須である。この実現には、電力の存在が欠かせない。産業面では、生成AIなどデジタル技術革新が目覚ましく、デジタル関連の市場が急拡大している。データセンターや半導体工場の新増設などにより、産業用の電力需要は今後数年間、毎年1%前後で増加して行くことが見込まれる[図表4]。
最近、エネルギー問題を取り上げる企業が本当に増えている。このままでは「マズい」との問題意識があるのだろう。講演等で地方に行くと、電気料金の違いを見て「このままでは日本の東側で設備投資は起きないのではないか」といった質問を受ける。日本の中でみても電力会社の電源構成の違いで、ここまで大きな差が生まれるといった現実がある[図表5]。予見性あるエネ基で、企業が安心してDXやGXに対応した投資ができる環境を整えることが必要である。
最近、エネルギー問題を取り上げる企業が本当に増えている。このままでは「マズい」との問題意識があるのだろう。講演等で地方に行くと、電気料金の違いを見て「このままでは日本の東側で設備投資は起きないのではないか」といった質問を受ける。日本の中でみても電力会社の電源構成の違いで、ここまで大きな差が生まれるといった現実がある[図表5]。予見性あるエネ基で、企業が安心してDXやGXに対応した投資ができる環境を整えることが必要である。
3――設備投資の増勢を続けてイノベーションができる日本に
4――稼げる日本企業と、強い日本経済を実現する
企業は使う電力を選べない面がある。仮に、国内で製品を製造する際に、石炭や石油など火力発電が占める割合が高く、環境負荷の大きな電力を多く使っているとすれば、脱炭素化に向かう世界の中で企業のブランド価値は下がり、金融市場からの評価も下がるだろう。
一方で、企業は立地を選択することはできる。各国は産業政策を強化し、世界から企業誘致を積極化している。ここで心配なのは、日本企業が強くなったとしても、国内での立地が選択されなければ、日本に雇用や税金は落ちて来ないということである。日本企業と国の稼ぎは違う。エネルギー政策の如何によっては、この乖離がどんどん大きくなるだろう。
日本は世界に向けて、アジアと近く、製造業のラインナップが揃っているなど、有利な点をアピールしていくことになるはずだ。政治が混迷しているからと言って「エネルギーを動かすことは難しい」という言葉では済まされない。30年ぶりのチャンスを活かすことが最優先である。
一方で、企業は立地を選択することはできる。各国は産業政策を強化し、世界から企業誘致を積極化している。ここで心配なのは、日本企業が強くなったとしても、国内での立地が選択されなければ、日本に雇用や税金は落ちて来ないということである。日本企業と国の稼ぎは違う。エネルギー政策の如何によっては、この乖離がどんどん大きくなるだろう。
日本は世界に向けて、アジアと近く、製造業のラインナップが揃っているなど、有利な点をアピールしていくことになるはずだ。政治が混迷しているからと言って「エネルギーを動かすことは難しい」という言葉では済まされない。30年ぶりのチャンスを活かすことが最優先である。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年04月02日「研究員の眼」)
03-3512-1837
経歴
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
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