2022年07月29日

米GDP(22年4-6月期)-前期比年率▲0.9%と20年4-6月期以来となる2期連続のマイナス成長

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:成長率は20年4-6月期以来の2期連続マイナス成長

7月28日、米商務省の経済分析局(BEA)は22年4-6月期のGDP統計(1次速報値)を公表した。4-6月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、季節調整済の前期比年率1で▲0.9%(前期:▲1.6%)と20年4-6月期以来となる2期連続のマイナス成長となった(図表1・2)。また、プラス成長を予想していた市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.4%を下回った。
(図表1)米国の実質GDP成長率(寄与度)/(図表2)米国のGDP(項目別)
4-6月期の成長率を需要項目別にみると、外需の成長率寄与度が輸出の大幅な増加もあって+1.43%ポイント(前期:▲3.23%ポイント)と8期ぶりにプラスに転じて成長率を押し上げた(図表2)。また、個人消費も前期比年率+1.0%(前期:+1.8%)と前期から伸びが鈍化したものの、プラス成長を維持した。

一方、政府支出が▲1.9%(前期:▲2.9%)と3期連続のマイナスとなったほか、在庫投資の成長率寄与度も▲2.01%ポイント(前期:▲0.35%ポイント)と前期からマイナス幅が拡大して大幅に成長率を押し下げた。さらに、設備投資が▲0.1%(前期:+10.0%)、住宅投資が▲14.0%(前期:+0.4%)といずれもマイナスに転じた。

これらの結果、民間需要を示す民間国内最終需要は前期比年率横這い(前期:+3.0%)となり、足元で民間需要の減速が明確となった。

このように、当期は在庫投資が成長率を大幅に押し下げた面はあるものの、消費や投資などの民間需要の減速が明確に表れた結果となった。民間需要の減速はインフレ抑制のためにFRBが22年3月から開始した政策金利の引上げや6月から開始したバランスシートの削減などの金融引き締めの影響が顕著に表れた格好だ。積極的な金融引き締めが続く中、7-9月期の民間需要の減速がどの程度に留まるのか注目される。
 
1 以降、本稿では特に断りの無い限り季節調整済の実質値を指すこととする。

2.結果の詳細:

(個人消費・個人所得)財からサービス消費へのシフトが顕著
4-6月期の個人消費は、財消費が前期比年率▲4.4%(前期:▲0.3%)と2期連続でマイナス成長となったほか前期からマイナス幅が拡大した一方、サービス消費は+4.1%(前期:+3.0%)と伸びが加速した(図表3)。当期は個人消費の財からサービスへのシフトがより鮮明となった。財消費では、耐久財が▲2.6%(前期:+5.9%)とマイナスに転じたほか、非耐久財が▲5.5%(前期:▲3.7%)とマイナス幅が拡大した。

耐久財では、家具・家電が▲3.8%(前期:▲4.8%)と4期連続のマイナスとなり、不振が続いているほか、自動車・自動車部品が▲0.7%(前期:+16.2%)、娯楽・スポーツカーが▲4.8%(前期:+5.3%)といずれもマイナスに転じた。

非耐久財は、衣料・靴が+0.9%(前期:▲5.2%)と4期ぶりにプラスに転じた一方、ガソリン・エネルギーが▲8.5%(前期:▲11.5%)と2期連続、食料・飲料が▲11.7%(前期:▲4.2%)と4期連続のマイナスとなって全体を押し下げた。

サービス消費は、住宅・公共料金が+0.9%(前期:+3.6%)と前期から伸びが鈍化した一方、医療サービスが+3.8%(前期:▲0.4%)、金融サービスが+0.1%(前期:▲0.6%)とプラスに転じたほか、輸送サービスが+3.3%(前期:+1.2%)、娯楽サービスが+7.4%(前期:+1.9%)、飲食・宿泊サービスが+13.5%(前期:+5.2%)と伸びが加速した。
(図表3)米国の実質個人消費支出(寄与度)/(図表4)米国の実質可処分所得伸び率と貯蓄率
実質可処分所得は前期比年率▲0.5%(前期:▲7.8%)と前期からマイナス幅は大幅に縮小したものの、5期連続のマイナスとなった(前掲図表4)。可処分所得は、名目ベースでは前期比年率+6.6%(前期:▲1.3%)と前期からプラスに転じ堅調な伸びとなっており、可処分所得が物価の伸びには追い付いていないことが分かる。

一方、貯蓄率は5.2%(前期:5.6%)と前期から▲0.4%ポイント低下して、09年7-9月期(5.2%)以来の水準となった。
(民間投資)知的財産は堅調なプラス成長を維持も、設備機器投資が減少
4-6月期の民間設備投資は建設投資が前期比年率▲11.7%(前期:▲0.9%)と5期連続でマイナスとなったほか、マイナス幅が拡大した(図表5)。また、設備機器投資も▲2.7%(前期:+14.1%)と前期からマイナスに転じた。一方、知的財産投資は+9.2%(前期:+11.2%)と前期から伸びは鈍化したものの、堅調な伸びを維持した。
(図表5)米国の実質設備投資(寄与度)と実質住宅投資 建設投資では、資源関連が前期比年率+10.8%(前期:+25.5%)と前期から鈍化したものの、2桁の伸びを維持した。一方、製造業が▲8.8%(前期:+7.7%)とマイナスに転じたほか、商業・医療が▲19.4%(前期:▲12.5%)と5期連続、電力・通信が▲21.2%(前期:▲3.3%)と10期連続のマイナスとなった。

設備機器投資は、輸送機器が+6.1%(前期:▲7.8%)と前期からプラスに転じたものの、情報処理関連が▲6.2%(前期:+24.7%)、産業機器が▲5.2%(前期:+13.0%)とマイナスに転じて設備機器投資全体を押し下げた。

知的財産投資では、研究・開発が+7.7%(前期:+5.7%)、娯楽・文学等が+18.1%(前期:+5.5%)と前期から伸びが加速した一方、ソフトウエアが+9.2%(前期:+19.5%)と堅調な伸びとなったものの、前期からは伸びが鈍化した。

最後に住宅投資は、戸建てが前期比年率▲4.2%(前期:+14.5%)、集合住宅が▲5.6%(前期:+1.1%)、といずれも前期からマイナスに転じた。
(政府支出)連邦、州・地方政府ともにマイナス成長が持続
4-6月期の政府支出は、州・地方政府が前期比年率▲1.2%(前期:▲0.5%)と3期連続でマイナスとなったほか、マイナス幅が拡大した(図表6)。
(図表6)米国の実質政府支出(寄与度) 一方、連邦政府は▲3.2%(前期:▲6.8%)と5期連続でマイナスとなったものの、マイナス幅は縮小した。

連邦政府支出では、非国防支出が▲10.5%(前期:▲2.5%)と前期からマイナス幅が大幅に拡大した一方、国防関連支出が+2.5%(前期:▲9.9%)と6期ぶりにプラスに転じた。

(貿易)財、サービスともに輸出が大幅に増加

 4-6月期の輸出入は輸出が前期比年率+18.0%(前期:▲4.8%)と前期から大幅なプラスに転じて成長率寄与度が+1.92%ポイント(前期:▲0.55%)と成長率の大幅な押上げに転じた。一方、輸入は+3.1%(前期:+18.9%)とこちらは伸びが大幅に鈍化して、成長率寄与度が▲0.49%(前期:▲2.69%ポイント)となり、前期から成長率の押し下げ幅が縮小した。

輸出を仔細にみると、財輸出が前期比年率15.6%(前期:▲7.6%)と前期からプラスに転じたほか、サービス輸出が+24.2%(前期:+2.4%)と伸びが大幅に加速した(図表7)。

財輸出では、資本財(自動車関連除く)が+3.9%(前期:+5.7%)と前期から伸びが鈍化した一方、食料・飲料が+34.4%(前期:▲22.4%)、工業用原料が+23.4%(前期:▲9.1%)、自動車関連が+12.2%(前期:▲0.8%)、消費財(食料、自動車関連除く)が+21.7%(前期:▲24.9%)といずれも前期から大幅なプラスに転じた。

サービス輸出では、輸送が+23.2%(前期:+0.8%)、旅行が+144.5%(前期:+14.9%)といずれも前期から伸びが大幅に加速した。

一方、輸入はサービス輸入が+21.1%(前期:+12.1%)と前期から伸びが加速したものの、財輸入が▲0.1%(前期:+20.2%)と小幅ながら3期ぶりにマイナスに転じた(図表8)。

財輸入では、食料・飲料が+20.0%(前期:+9.0%)と前期から伸びが加速した。一方、工業用原料が▲5.5%(前期:▲3.9%)と前期からマイナス幅が拡大したほか、資本財(自動車関連除く)が▲1.9%(前期:+27.5%)とマイナスに転じた。さらに、自動車関連が+17.3%(前期:+38.4%)、消費財(食料、自動車関連除く)が+1.2%(前期:+52.9)といずれも伸びが鈍化した。

サービス輸入は、輸送が▲6.0%(前期:+50.0%)と前期からマイナスに転じた一方、旅行は+237.6%(前期:+1.5%)とこちらはプラス幅が大幅に拡大した。
(図表7)米国の実質輸出(寄与度)/(図表8)米国の実質輸入(寄与度)
(物価・名目値)PCE価格指数のコア指数は前期比、前年同期比ともに前期から低下
4-6月期のGDP価格指数は前期比年率+8.7%(前期:+8.2%)と前期から上昇し、低下を見込んだ市場予想(同+8.0%)を上回った。この結果、名目GDP成長率は前期比年率+7.8%(前期:+6.6%)となった(図表9)。

一方、FRBが物価の指標として注目するPCE価格指数2は、前期比年率+7.1%、前年同期比+6.5%(前期:+7.1%、+6.3%)と前期比は前期から横這いとなったものの、前年同期比は前期から上昇した(図表10)。また、物価の基調を示す食料品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数は、前期比年率+4.4%、前年同期比+4.8%(前期:+5.2%、+5.2%)となり、こちらは総合指数とは対照的に前期比、前年同期比ともに前期からは低下し、物価上昇圧力が幾分緩和したことを示した。
(図表9)(図表10)
 
2 現在、FOMCのメンバーは四半期に一度物価見通しを公表しており、そこで物価の指標として採用されている指数がPCE価格指数とコアPCE価格指数である。見通しは年単位で、各年の10-12月期における前年同期比が公表されている。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年07月29日「経済・金融フラッシュ」)

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