2022年07月28日

米FOMC(22年7月)-予想通り、政策金利を2会合連続で+0.75%引き上げ。大幅な利上げ継続方針を確認

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、0.75%の利上げ

連邦公開市場委員会(FOMC)が7月26-27日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、前回会合(6月)に続き政策金利を0.75%引き上げ2.25-2.5%とした。今回発表された声明文では、景気の現状判断部分で消費や生産が軟化したことに言及されたほか、インフレが高止まりしている要因として食料品価格の上昇が追加された。経済見通し部分では、前回言及された新型コロナに関連した中国のロックダウンがサプライチェーンの混乱を悪化させる可能性に関する表現が削除された。一方、フォワードガイダンス部分の変更は無く、「目標レンジの継続的な引き上げが適切であることを期待している」との表現が維持され、利上げを継続していく方針が示された。

今回の金融政策方針は全会一致での決定となった。

2.金融政策の評価:引き続き、景気後退を招くとしてもインフレを抑制する姿勢を強調

政策金利の0.75%の引き上げは予想通り。声明文にも大きなサプライズは無かった。

パウエル議長によるFOMC後の記者会見では、9月のFOMC会合での具体的な利上げ幅の言及を避けた一方、インフレ率を物価目標の2%に低下させるために今後も大幅な利上げを継続していく方針を明確に示した。

また、堅調な労働市場を踏まえて足元では景気後退に陥っていないとの判断を示した一方、強い労働市場を維持しながらインフレを低下させていく、ソフトランディングの可能性について、インフレを引き起こしている供給面など金融政策ではコントロールできない要因などによって困難となっている状況を認めた。

一方、同議長は物価の安定無くして経済は成り立たないことを強調した上で、景気よりインフレを抑制する姿勢を明確化しており、仮に景気後退を招くとしてもインフレ抑制のために金融引き締めを継続する方針を示した。

今回のFOMC会合を受けて、当研究所はインフレが既にピークアウトした前提で9月のFOMCでの利上げ幅を0.5%、11月と12月の利上げ幅を0.25%とし、22年末に政策金利を3.25-3.5%まで引き上げるとの従来の予想を維持する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを1.50-1.75%に引き上げることを決定(今回削除)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを2.25-2.50%に引き上げることを決定(今回追加)
  • 加えて、5月に公表された「連邦準備のバランスシート削減計画」に記載されている通り、財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • 目標レンジの継続的な引き上げが適切であることを期待している(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会はインフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
 
(景気判断)
  • 全般的な経済活動は、第一四半期に小幅に落ち込んだ後、持ち直したようだ(今回削除)
  • 消費と生産の最近の指標は軟化している(今回追加)
  • 雇用の伸びはこの数ヵ月堅調で、失業率は低いままだ(変更なし)
  • パンデミックに関連する需給不均衡、食料品とエネルギー価格の上昇、より広範な価格圧力を反映してインフレは高止まりしている(「食料品」価格の上昇を追加)
 
(景気見通し)
  • ロシアの対ウクライナ戦争は、多大な人的および経済的困窮を引き起こしている(前回の「ロシアによるウクライナ侵攻」”The invasion of Ukraine by Russia”から「ロシアの対ウクライナ戦争」”Russia’s war against Ukraine”に表現変更)
  • 戦争とそれに関連する出来事は、短期的にはインフレに対する追加的な上昇圧力を生み出したほか、世界経済に重くのしかかっている(前回の「侵略」”The invasion”から「戦争」”The war”に表現変更)
  • さらに、中国における新型コロナウイルス関連のロックダウンは、サプライチェーンの混乱を悪化させる可能性が高い(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 同僚と私はインフレを再び低下させることに強くコミットしており、そのために迅速に動いている。我々は米国の家庭と企業に代わり、物価の安定を回復するために必要な手段と決意を持ち合わせている。
    • 労働市場は極めてタイトであり、インフレは高すぎる。このような背景からFOMCは本日、政策金利を0.75%引き上げ、今後も政策金利の目標レンジを引き上げることが適切であると予想する。
    • 労働需要は強い一方、労働供給は依然として低調で労働参加率は1月以降ほとんど変化していない。全体として、労働市場の継続的な強さは、基礎となる総需要が引き続き堅調であることを示唆している。
    • 最近の経済活動全般の減速にもかかわらず、総需要は引き続き強いとみられ、供給制約は予想より大きく、長く続き、価格の上昇は幅広い財とサービスに亘って明白である。
    • 次回の会合で再び異例の大幅な引き上げが行われる可能性があるが、その判断は現在から次回までに得られるデータ次第となる。金融政策のスタンスがさらに引き締まるにつれ、累積的な政策調整が経済やインフレにどのような影響を与えているかを評価しながら、引き上げペースを緩めることが適切となる可能性が高い。
    • 我々はインフレ・リスクに細心の注意を払い、インフレ率を2%の長期目標に戻すために必要な措置をとることを決意している。このプロセスは経済成長率がトレンドを下回り、労働市場の状況が幾分軟化する時期を含むとみられるが、そうした結果は、物価の安定を回復し、長期的に最大限の雇用と安定した物価を達成するための舞台を整えるために必要であると思われる。
 
  • 主な質疑応答
    • (6月のCPIは5月から更に上昇したが、1%の利上げの議論はあったか)議論はあった。適切だと判断すれば、より大きな利上げ幅にすることに躊躇しないが、今回はそのように判断しなかった。今回の利上げ決定に関しては非常に幅広い支持があった。
    • (ヘッドラインインフレ率が低下する一方、コアが高止まりした際の金融政策判断)我々はこれまで中立金利の範囲に入るように迅速に行動すると言ってきた。それが今はできた。2.25-2.5%は中立と思われる範囲にいる。我々の物価安定の使命はヘッドラインだが、コアは今後のインフレ動向をみる上で良い指標であり、両方に注視している。インフレ率を物価目標の2%まで引き下げるために、大幅な追加引き締めが控えているだろう。
    • (ソフトランディングの可能性)インフレ率を下げることに集中している。物価の安定無くして経済は成り立たない。物価の安定無くして労働市場の好調はありえない。我々は強い労働市場を維持しながら、インフレを低下させることができる道があると考えている。その道筋は我々がコントロールできない出来事によって明らかに狭まっていることは承知している。そして、さらに狭まるかも知れない。
    • (米国経済はリセッションにあるか)米国が現在景気後退に陥っているとは思わない。成長が減速しているのは事実で、我々はその理由を理解している。ただし、労働市場は雇用者数が月平均45万人増加しているほか、失業率は3.6%と50年以来の低水準にある。このようなことが起こっているのに、景気後退に陥っていることは考え難い。
    • (テーパリング開始の条件を定めた20年12月のガイダンスによって利上げが後手に回った可能性)確かに我々は雇用と物価安定の2つの使命を達成するまで開始しないと言った。その理由は多くの人が2%の物価目標に到達することはないと言っていたため、強い声明を出す必要があると考えたからだ。その後、状況は我々が想像もしなかったように展開した。ここで2つ言えることがある。1つめはそれが状況を大きく変えたとは思えないことだ。2つめは柔軟性を確保するために、2度とそのようなことはしないということだ。しかし、それが最終的な問題になったとは思わない。仮に3ヵ月早く利上げをしていても、インフレの状況が変わっていたとは思えない。インフレは世界的な現象だ。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年07月28日「経済・金融フラッシュ」)

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