2021年05月19日

英国雇用関連統計(4月)-失業率は低下も、明確な改善は見られず

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:失業率はやや低下

5月18日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【4月】
失業保険申請件数1前月(264.41万件)から1.51万件減の262.90万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は7.2%となり、前月(同7.2%)から横ばいだった。

【3月(21年1-3月の3か月平均)】
失業率は4.8%で前月(4.9%)から下落、市場予想2(4.9%)も下回った(図表1)。
就業者は3247.6万人で3か月前の3239.3万人から8.3万人の増加となった。
増減数は前月(▲7.3万人)の減少から増加に転じ、市場予想(+5.0万人)も上回った。
週平均賃金は、前年同期比+4.0%で前月(+4.5%)から減速、市場予想(+4.5%)も下回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:失業率はやや改善したが、休業者や労働時間の改善はみられず

まず、失業保険申請件数と同じく4月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は21年2-4月の平均で65.7万件だった。最新データでは3か月前との差でみて改善ペースも若干加速している(図表3)。

給与所得者データ3を見ると、4月の給与所得者は2827.8万人で3月から9.7万人増えた。3月の給与所得者は前月公表された速報時点では2月と比較して減少していたが、今回公表された改定値では増加に修正された(図表4)。ただし、業種別に見るとコロナ禍の影響が大きい居住・飲食業の減少傾向は続いている。月あたり給与額(中央値)については前年同月比+9.8%となり、ベースとなる前年同月の給与額(中央値)がコロナ禍の影響で下落していた反動で伸びが大きく加速している。ただし、2年前比で見ても+8.7%と高い伸び率を示している。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
3月までのデータを確認すると、21年1-3月の失業率は4.8%と改善、失業者も162.3万人に減少、就業者の増加が見られている(前掲図表1)。一方で、労働参加率は63.4%と昨年4月のコロナ禍以降、64%割れの低迷が続き、賃金関係では、1-3月の平均賃金が、前年同期比+4.0%(実質は+3.1%)と減速している。なお、ONSは職業構成の違いが賃金に与える影響(低所得の職が減少したことによる)押し上げ効果を2.7%と推計している(図表5)。労働時間は29.8時間(前年同期差▲1.8時間)、フルタイム労働者で33.8時間(同▲2.4時間)となり、3か月連続での減少となった(前掲図表2)。
(図表5)英国の賃金伸び率と構成効果/(図表6)英国の雇用統計(週次データ)
最後に週次データを確認すると(図表6)、雇用維持政策で政府が雇用を支える中4、3月に入った後も休業者は400万人を上回る水準で推移している。3月からはロックダウンからの段階的な緩和が実施されているが、休業者については3月時点ではまだ明確な改善は見られない。

4月以降には4月12日に屋外飲食が解禁され、5月17日には店内飲食が解禁されている。本格的な経済活動の再開がはじまりつつあるため、雇用関連指標の動向は引き続き注目と言える。
 
3 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した実験統計。直近データは利用可能な情報の85%ほどを集計して算出。
4 CJRS(Coronavirus Job Retention Scheme)は21年9月末まで実施予定。6月までについては昨年8月と同じ水準での支給(月2500ポンドを上限に給与の80%まで支給、社会保障は雇用主負担)、その後7月以降は段階的な政府負担の引き下げを予定。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年05月19日「経済・金融フラッシュ」)

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