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- 英国金融政策(5月MPC)-見通しを上方修正、年末にコロナ禍前を回復
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1.結果の概要:金融政策の変更なし
【金融政策決定内容】
・政策金利を0.1%で維持(変更なし)
・国債および投資適格級社債を総額8950億ポンドまで購入する(変更なし)
【議事要旨(趣旨)】
・GDP成長率見通しは、2021年7.25%、22年5.75%、23年1.25%で活動水準の経路は2月の報告書で想定していたよりも高く、不確実性も2月よりは低下している
・インフレ見通しのリスクはより対称的となり、フォワードガイダンスにも反映させている
・英EUの新たな貿易協定の影響を判断することは時期尚早
・今回の決定と合わせて国債購入策の購入ペースを若干鈍化させることを発表したが、この運営上の決定は金融政策姿勢の変化と解釈すべきではない
2.金融政策の評価:見通しを上方修正
具体的には成長パスについて、1-3月期の落ち込みは2月の想定より浅く、今後の回復も早いことが見込まれ、2021年末にはコロナ禍前(2019年10-12月期)の水準を上回るとした。失業率も2月の見通しから改善させた。成長率のリスクについては、引き続き新型コロナウイルスと封じ込め政策による不確実性は残り、短期的には下振れリスクに傾いているとしたものの、2月時点と比較すると不確実性は低下しているとした。なお、英EUの新しい貿易協定に関する評価は、時期尚早であるとし、2月時点での前提(21年上半期の貿易・経済活動が抑制される)と同じ前提を置いているとした。
また、インフレ見通しについては、エネルギー価格の上昇によって一時的に目標の2%を超え、その後に一時的な要因が剥落し2%に落ち着くとしている。インフレ見通しのリスクについては従来の下方リスクだけでなく、上方リスクも合わせてバランスしているとリスク認識を変更している。
こうした景気認識のなか、金融政策の方針では、国債購入策は変更しなかったが、フォワードガイダンスをインフレリスクの認識に合わせて微修正している。また、国債購入策についても減額を求めて、現状維持に対する1名の反対票があった。
これとは別に運営上の変更として、国債の購入ペースを若干鈍化させている。MPCは購入総額と購入期限が決まっているため、購入期間中のペース配分の問題であり、金融政策姿勢の変化と解釈すべきではないとしているが、今後も鈍化したペースでの購入が続けば、総額の減額も視野に入ってくる可能性がある。
英国は、年末年始にかけて変異株が流行したこともあり、経済的には大きな影響が生じているが、ワクチン接種が進んでおり、これまでのところ計画通りに段階的な活動制限の緩和が進んでいる。
今後も順調にワクチン普及によって経済活動が再開されたとすれば、MPCの想定するような強い回復力を見せるのかといった点が注目されることになるだろう。
3.金融政策の方針
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、経済成長と雇用を支援する
- 委員会は現行の金融姿勢を維持することが適当だと判断した
- 政策金利(バンクレート)を0.1%で維持する(全会一致で決定、変更なし)
- 投資適格級の非金融機関社債で200億ポンド保有を維持する(全会一致で決定、変更なし)
- 国債を総額8750億ポンド購入する(8対1で決定1)
- 資産購入額の総額は8950億ポンドとなる
- 新型コロナウイルスと封じ込め政策は英国および世界各国に急速・劇的な変化を及ぼしている
- MPCは5月のMPRで経済・インフレ見通しを改定した
- MPCは5月のMPRで経済・インフレ見通しを改定した
- 21年1-3月期の世界成長率は新型コロナへの封じ込め政策により減速する見込みであるが、2月の報告書の見通しよりは強いと見られる
- ワクチン接種は多くの国で進展、加速が見られる
- しかしながら、新規感染者はインドやいくつかの国では足もとで急増しており、厳しい規制が講じられている
- 先進国のリスク性資産は増加が続いており、長期国債利回りは3月以降安定し、2月の報告書時点よりは上昇している
- 英国の21年1-3月期のGDPは1.5%程度下落する見込みで、2月の報告書の見通しより弱くない
- 英国の新規感染者数は減少を続けており、ワクチン接種も加速し、経済活動制限も緩和されている
- こうした進展を反映し、21年4-6月期のGDPは急増するだろうが、19年10-12月期の水準を5%程度下回ると見られる
- 21年後半には国内のほとんどの経済活動制限が解消され、GDPがコロナ禍前の水準まで急速に回復するだろう
- 需要の伸びは、健康へのリスクや不確実性の低下と公表されている財政・金融刺激策によってさらに加速するだろう
- 個人消費は今後3年間にわたって10%ほど多く積みあがった貯蓄が取り崩されることで下支えされるだろう
- 21年以降のGDP伸び率はこうした加速要因が剥落することで鈍化すると見られる
- 各四半期の活動水準は2月の報告書で想定していたよりも高い見通しである
- 昨年の経済活動の落ち込みは需要および供給のいずれにも反映されている
- 労働力調査基準の失業率は、20年12月-21年2月の平均で4.9%までやや低下したが、労働市場の弛み(slack)はこの値が示唆する以上に大きいと見られる
- 総じて、現在、かなりの生産力余剰(spare capacity)が存在すると判断される
- 21年予算での政府の雇用支援策の延長は、短期的に労働力調査基準の失業率の上昇をかなり抑制すると期待される
- MPCはまた、中期的な失業率上昇も、2月報告書での見通しより低下させている
- 生産力余剰は、21年に経済活動の回復によって解消され、一時的に需要超過となり、その後需給がバランスしていくと見ている
- CPI上昇率は2月の0.4%から3月には0.7%まで上昇し、2月の結果により、MPCの声明と同時に公開された中銀総裁と財務相の間の書簡2を交わしている
- 最近のインフレ率の弱さは、新型コロナウイルスの経済への影響を直接・間接的に反映している
- 最新のMPCの見通しにあるように、インフレ率はこうした影響が解消されることで、近く2%の目標に近づいていくと見られる
- 中央見通しでは、CPI上昇率は、主にエネルギー価格の要因で、21年末に2%の目標を一時的に超えるとしている
- しかし、こうした一時的な要因による中期的なインフレ率への直接的な影響はほとんどない
- 中央見通しでは、市場の金利見通しを前提に、中期的に2%に戻るとしている
- 経済見通し、特に需給の相対的な動向には不確実性が残っている
- 感染拡大の進展と実施される公衆衛生保護策、家計、企業、金融市場がこれらの進展にどのように反応するかに引き続き依存する
- 感染拡大の進展と実施される公衆衛生保護策、家計、企業、金融市場がこれらの進展にどのように反応するかに引き続き依存する
- MPCの5月のMPRの中央見通しでは、一時的にGDPが急回復し、CPIインフレ率が目標を若干上回る時期を経験した後、成長率とインフレ率が落ち着き、2-3年先ではインフレ率は目標付近で推移するとしている
- MPCは、適切な金融政策姿勢を判断するにあたっては、金融政策方針(policy guidance)に沿って、一時的な要因ではなく、中期的な需給のバランスを含むインフレ期待に焦点をあてる
- MPCは、適切な金融政策姿勢を判断するにあたっては、金融政策方針(policy guidance)に沿って、一時的な要因ではなく、中期的な需給のバランスを含むインフレ期待に焦点をあてる
- MPCは引き続き状況を注視し、目的の達成のために必要な行動を実施していく
- MPCは生産力余剰の解消と、2%のインフレ目標の安定的達成への著しい進展についての明確な証拠が得られるまでは、金融政策を引き締めるつもりはない
- MPCは生産力余剰の解消と、2%のインフレ目標の安定的達成への著しい進展についての明確な証拠が得られるまでは、金融政策を引き締めるつもりはない
- 委員会は今回の会合で、現行の金融姿勢を維持することが適当だと判断した
1 反対票はチーフエコノミストのハルデーン委員で、社債・国債の合計で8450億ポンド(500億ポンドの減額)を主張した。
2 インフレ率が目標から乖離した理由と今後のインフレ見通し、インフレ目標を達成するための金融政策手段について説明する書簡(インフレ率が目標(2%)から1%以上乖離した場合に公開が要求される)
4.議事要旨の概要
3 また、報告書の内容も冒頭説明原稿に関する部分を中心に追記
(需要見通し)
- MPCの見通しは、コロナ禍による制限が英国と当局の計画に沿って緩和されることを前提にしている
- ほとんどの国内活動制限は21年4-6月期の終わりまでには解除されることが前提にある
- コロナ禍で積みあがった10%ほど多くの貯蓄が取り崩されることが個人消費の今後3年間の下支えになる
- 2月報告書は、サーベイ調査から5%程度の積み上げを仮定していたが、それよりも大きい
- MPCはGDPの中央見通しのリスクについて、見通し1年目は下方に傾いているが、よりバランスしつつあると見ている
- GDPの見通しを取り巻く不確実性は、時系列で見れば依然として高いものの、2月時点よりはある程度低下している
(インフレ見通し)
- CPIインフレ率は、昨年はかなり変動幅が大きく、短期的にはこうした状況が続く可能性が高い
- MPCはインフレ率の中央見通しのリスクについてバランスしていると見ている
- 2月の報告書以降、インフレ期待に関する指標は総じて安定しており、MPCはインフレ期待が十分に固定されていると見ている
(MPC見通し)
- GDP成長率見通しは、2021年7.25%、22年5.75%、23年1.25%
(2月時点では21年5%、22年7.25%、23年1.25%)- 失業率見通しは21年5%、22年4.5%、23年4.25%(10-12月期)
- CPIインフレ見通しは21年2.5%、22年2%、23年2%(10-12月期の前年比)
(英EUの新しい貿易協定)
- 中銀の地域事務所も含めた初期調査では、多くの企業が新しい協定に適応しつつある
- 最新のONSのデータによれば1月の財貿易は急減し、その後、2月のEU向け輸出は回復したが、EUからの輸入は弱含んでいる
- しかしながら、こうした影響が、短期的な混乱と長期的な供給の伸びへの影響という両面を含め、MPCの見通しの前提と一致しているかを判断することは時期尚早と言える
- そのため、2月と同様に、MPCは企業が新しい協定に適応するため21年上半期の貿易および経済活動は低下するとの前提を維持している
- こうした影響は4-6月期の終わりまでに解消されるとの前提を置いている
(MPCの決定と方針)
- 議事録に記載されているように、MPCはフォワードガイダンスに見通しに対するより対称的な性質を反映させている
- ガイダンスでは、「MPCは引き続き状況を注視し、目的の達成のために必要な行動を実施していく」とした
- 残りの文言は3月から変わっておらず「MPCは生産力余剰の解消と、2%のインフレ目標の安定的達成への著しい進展についての明確な証拠が得られるまでは、金融政策を引き締めるつもりはない」と繰り返している
- 現行の1500億の国債購入は21年末頃までに完了する見込みである
- 20年11月の政策公表時に想定されていたように、金融市場の動向に合わせ、本日告示しているように購入ペースを若干鈍化させることを発表した
- 購入策の完了見込み時点は変わっていない
- この運営上の決定は金融政策姿勢の変化と解釈すべきではない
- 国債購入額で見れば、その姿勢に変更はない
- これは他の多くの国で採用されている「オープンエンド(期限を明示しない)」の量的緩和策(QE)とは対照的であり、この(イングランド銀行の)購入策では購入ペースの変更は購入総額の変更を意味するためである
- MPCは発行体の気候変動への影響を考慮した社債購入策への適応への枠組みに関する情報をより多く公開する計画についての説明を受けた
- 次の再投資が予定される21年10-12月期までの適用に先んじて、この枠組みの実行に関する評価を行っていく予定である
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年05月07日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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