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- ECB政策理事会-政策の変更なし、景気の見方も変わらず
2021年04月23日
1.結果の概要:政策変更なし
4月22日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・変更なし
【記者会見での発言(趣旨)】
・最新データやインフレ率について3月時点の予測と整合的と言える
・リスクは短期的には引き続き下方にあるが、中期的にはより中立になっている(3月と同じ)
・川上から川下までの(現時点の)資金調達環境は、総じて安定しているように見られる
2.金融政策の評価:景気の見方にも変更なし
今回の政策理事会では、現行の金融政策方針を維持することを決定した。
前回3月の理事会で、資産購入ペースの見直しは、経済見通しを公表する四半期毎に実施する方針を示していることもあり、今回は「大幅に加速する」とした購入ペースを維持している。
景気の見通しについては、最新データが前回の見通しで想定されていたものと整合的であるとし、その見方を据え置いている。リスク評価も短期的に下方にあり、中期的にはより中立になっているとして、前回から据え置いている。なお、冒頭説明では、拙速な財政支援の縮小は回復の遅延と傷痕効果(scarring effects)を助長するリスクがあるとして、これまでよりも財政支援を継続することの重要性に言及する点などを若干変更している。
質疑応答では、前回、PEPPの資産購入ペースについて、良好な資金調達環境を維持する観点から理事会で検討する旨を明記したことから、資産購入ペースの縮小(テーパリング)や現状の資金調達環境への評価に関する質問が目立った。
従来はPEPPの購入枠や期間がECBの政策スタンスを明示する主要なコミュニケーション手段であったが、購入ペースを明示したことで、(運営の柔軟性が低下するデメリットはあると思われるが)、枠や期間だけでなく、購入ペースを通じてよりきめ細かく対話ができるというメリットが生まれているように評価できる。
資産購入に関する質問への回答としては、購入ペースの減速については、今回は時期尚早で議論しておらず、ペースの変更についてはデータに基づきその都度、良好な資金調達環境を維持する観点から判断するとした。
次の購入ペースの見直しは新しい見通しが公表される次回(6月)となるが、今回は中間評価として、現在の資金調達環境はおおむね安定しているとした。ユーロ圏の名目長期金利は年初と比較すると高めの水準で推移しているが、その点を過度に警戒している様子はなく、水準としては許容範囲としているように見受けられる。
前回3月の理事会で、資産購入ペースの見直しは、経済見通しを公表する四半期毎に実施する方針を示していることもあり、今回は「大幅に加速する」とした購入ペースを維持している。
景気の見通しについては、最新データが前回の見通しで想定されていたものと整合的であるとし、その見方を据え置いている。リスク評価も短期的に下方にあり、中期的にはより中立になっているとして、前回から据え置いている。なお、冒頭説明では、拙速な財政支援の縮小は回復の遅延と傷痕効果(scarring effects)を助長するリスクがあるとして、これまでよりも財政支援を継続することの重要性に言及する点などを若干変更している。
質疑応答では、前回、PEPPの資産購入ペースについて、良好な資金調達環境を維持する観点から理事会で検討する旨を明記したことから、資産購入ペースの縮小(テーパリング)や現状の資金調達環境への評価に関する質問が目立った。
従来はPEPPの購入枠や期間がECBの政策スタンスを明示する主要なコミュニケーション手段であったが、購入ペースを明示したことで、(運営の柔軟性が低下するデメリットはあると思われるが)、枠や期間だけでなく、購入ペースを通じてよりきめ細かく対話ができるというメリットが生まれているように評価できる。
資産購入に関する質問への回答としては、購入ペースの減速については、今回は時期尚早で議論しておらず、ペースの変更についてはデータに基づきその都度、良好な資金調達環境を維持する観点から判断するとした。
次の購入ペースの見直しは新しい見通しが公表される次回(6月)となるが、今回は中間評価として、現在の資金調達環境はおおむね安定しているとした。ユーロ圏の名目長期金利は年初と比較すると高めの水準で推移しているが、その点を過度に警戒している様子はなく、水準としては許容範囲としているように見受けられる。
3.声明の概要(金融政策の方針)
4月22日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
- 政策金利の維持(変更なし、冒頭に移動)
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:0.00%
- 限界貸出ファシリティ金利:0.25%
- 預金ファシリティ金利:▲0.50%
- PEPPの継続(文言を若干変更、政策の変更なし)
- 総枠を5000億ユーロ増額し、合計1兆8500億ユーロの資産購入を実施
- 購入期間は少なくとも2022年3月末まで実施
- 理事会は、PEPPによる資産購入を新型コロナ危機が去るまで実施する
- 最新の情報は3月の資金調達環境とインフレ見通しの評価と一致しており、この四半期のPEPPの購入ペースは引き続き年初と比べて大幅な加速を見込んでいる
- 理事会は、市場環境を見つつ資金調達環境のひっ迫(tightening)を防ぎ、感染拡大によるインフレ見通しの下方圧力に対抗するという観点から柔軟に購入を実施する
- 理事会は、実施期間・資産クラス・国構成に関して柔軟に購入を行うことで、円滑に金融政策が伝達するよう支える
- PEPPは良好な資金調達環境が維持される場合は総額を利用する必要はない。平等に、必要があれば枠(増額)の再調整を行う
- PEPP元本償還分の再投資の実施(変更なし)
- PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2023年末まで実施する
- 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する
- 資産購入プログラム(APP)の実施(変更なし)
- 月額200億ユーロの購入を実施
- 毎月の購入は、緩和的な政策金利の影響が強化されるまで必要な限り継続
- 政策金利の引き上げが実施される直前まで実施
- フォワードガイダンス(変更なし)
- インフレ見通しが、見通し期間において2%に十分近いがやや下回る水準へと確実に収束し、かつ、インフレ動向に一貫して反映されるまで、政策金利は現行水準もしくはより低い水準を維持する
- インフレ見通しが、見通し期間において2%に十分近いがやや下回る水準へと確実に収束し、かつ、インフレ動向に一貫して反映されるまで、政策金利は現行水準もしくはより低い水準を維持する
- 十分な流動性供給の実施(文言の変更、政策の変更なし)
- リファイナンスオペを通じて十分な流動性供給を継続
- 特に最新のTLTROⅢでは潤沢な資金供給を記録し、TLTROⅢによる資金は、企業・家計への貸出支援に重要な役割を果たしている
- 追加緩和へのスタンス(変更なし)
- インフレが目標に向け推移するよう、必要に応じ、すべての手段を調整する準備がある
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済分析)
(金融分析)
(検討結果)
(冒頭説明)
- 世界的な需要の回復と大規模な財政政策が世界およびユーロ圏の経済活動を支えているものの、短期的な経済見通しは感染再拡大やワクチン接種といった不確実性に包まれたままである
- 短期的には高い感染率が続いていること、これに関連して封じ込め政策が長期化・厳格化していることが引き続きユーロ圏の経済活動の重しになっている
- 先行きは、ワクチン普及と封じ込め政策が段階的に緩和されると見込まれることが、2021年の経済活動の堅調な回復期待となっている
- インフレ率は、主に特殊かつ一時的な要因とエネルギー価格の上昇によって、ここ数か月は上昇している
- 同時に、インフレ基調は深刻な経済停滞と需要の弱さを反映して引き続き低迷している
- パンデミック期間中に良好な資金調達環境を維持することは、不確実性の軽減と景況感の改善によって経済活動を支え、中期的な物価安定を守るために引き続き重要である
- ユーロ圏の資金調達環境は、年初に利回りが上昇した後、おおむね安定的しているものの、資金調達環境へのリスクは残っている
- ユーロ圏の資金調達環境は、年初に利回りが上昇した後、おおむね安定的しているものの、資金調達環境へのリスクは残っている
- 上記のような背景から、十分な金融緩和姿勢を続けることを再確認した
- (金融政策の具体内容は上記第3節記載の通り)
(経済分析)
- ユーロ圏の実質GDPは20年10-12月期には0.7%減少し、経済活動水準はコロナ禍前の1年前と比較して4.9%低い
- 最新の経済統計、景況感調査、高頻度データは、21年1-3月期の実質GDPが再び減少することを示唆しているが、4-6月期には成長が再開しそうである
- 最新の経済統計、景況感調査、高頻度データは、21年1-3月期の実質GDPが再び減少することを示唆しているが、4-6月期には成長が再開しそうである
- 企業景況感調査では製造業が世界の堅調な需要に支えられて、引き続き回復しそうである
- 同時に、サービス業は底入れの兆しはあるものの、移動や接触規制が活動制限となっている
- 財政政策は家計と企業を支えているものの、消費者は感染拡大と雇用・所得への影響を危惧している
- 財務状況は悪化しており先行きの経済に対する不透明感があるものの、設備投資は回復力を示している
- 今後については、ワクチン接種により封じ込め政策の段階的な緩和がされることが、2021年の経済活動の堅調な回復期待を支えている
- 中期的には、良好な資金調達環境と拡張的な財政政策に支えられ、ユーロ圏経済は域内と世界需要の回復にけん引されることが期待される
- 中期的には、良好な資金調達環境と拡張的な財政政策に支えられ、ユーロ圏経済は域内と世界需要の回復にけん引されることが期待される
- 全体としては、ユーロ圏経済の見通しを取り巻くリスクは、短期的には引き続き下方にあるが、中期的にはより中立に(balanced)なっている
- 一方では大規模な財政政策による世界需要の高まりやワクチン接種の進展の好材料がある
- もう一方では、変異株の流行を含む感染拡大の継続が、経済や資金調達環境に及ぼす影響が引き続き下方リスクとなっている
- ユーロ圏のインフレ率は、エネルギー価格が前年比のベース効果があるなか前月比でも上昇したことから、3月に前年比1.3%と2月の0.9%から上昇した
- これは、食料品価格上昇率の低下やエネルギーや食料品価格を除くインフレ率の低下を相殺する以上に上昇した
- ヘッドラインインフレ率はここ数か月で上昇する見込みであるが、特殊かつ一時的な要因を反映して年を通じて振れ(volatility)が見られるだろう
- こうした要因は来年初には解消されるだろう
- インフレ圧力の基調は、賃金上昇圧力の弱さや経済停滞、為替相場の増価(ユーロ高)を反映して総じて弱さが残るものの、短期的な供給制約と域内需要の回復のためやや上昇する見込みである
- 感染拡大の影響が剥落し、需給の大きな弛み(slack)が解消すれば、緩和的な金融・財政政策に支えられ、中期的には物価上昇圧力が高まるだろう
- 市場観測のインフレ期待は引き続きやや上昇しているものの、市場観測・サーベイ調査による長期的インフレ期待は低水準にとどまっている
(金融分析)
- M3伸び率は、1月の12.5%から2月には12.3%となった
- 通貨の強い拡大は、最も通貨を創造している要因となっているユーロシステムの継続的な資産購入により支えられている
- 金融部門における流動性選好や、流動性高い通貨を保有することの機会費用が小さいために、狭義通貨(M1)が引き続き広義通貨の伸びをけん引している
- 全体として民間部門への貸付の状況は変化していない
- 2月の非金融法人向け貸付は、前月比で若干増加した
- その結果、前年比は1月の6.9%から7.1%と若干高くなった
- 家計向け貸出伸び率は、2月は3.0%と横ばいで、引き続き底堅い
- 21年1-3月期の最新の銀行貸出調査では、前の2四半期に大幅な厳格化が見られた後、緩やかな厳格化を示している
- 前回の調査ほど顕著ではないものの、リスク認識の高さが引き続き厳格化の主要因となっている
- 調査対象行は、主に固定資産投資の資金需要が引き続き低下したために、企業向けの貸出需要が減少していると報告している
- 家計への貸出では、与信基準は貸出競争によりやや緩和される一方で、住宅購入需要が低下していることを示している
- 我々の政策手段は、各国政府・欧州機関による政策とともに、引き続きコロナ禍の影響を大きく受けた人たちへの資金調達支援となるだろう
(検討結果)
- 経済分析・金融分析の結果、経済活動を支援し中期的に2%に十分近いがやや下回る水準へと確実に収束させるためには、十分な金融緩和策が必要であると確認された
(2021年04月23日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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