2021年04月21日

英国雇用関連統計(3月)-休業者の増加は一服

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:失業率はほぼ横ばいでの推移

4月20日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【3月】
失業保険申請件数1前月(266.35万件)から1.01万件増の267.37万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は7.3%となり、前月(同7.3%)から横ばいだった。

【2月(20年12月-21年2月の3か月平均)】
失業率は4.9%で前月(5.0%)から下落、市場予想2(5.0%)も下回った(図表1)。
就業者は3243.0万人で3か月前の3250.3万人から7.3万人の減少となった。
増減数は前月(▲14.7万人)から増加(減少幅の縮小)、市場予想(▲14.5万人)は下回った。
週平均賃金は、前年同期比+4.5%で前月(+4.8%)から減速、市場予想(+4.8%)も下回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:休業者の増加は一服したが、雇用環境は依然として厳しい

まず、失業保険申請件数と同じく3月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は21年1-3月の平均で60.7万件だった。20年4-6月平均を底に改善が続いているものの、足もとの改善ペースがかなり鈍化している(図表3)。

給与所得者データ3を見ると、3月の給与所得者は2819.9万人となり前月差では▲5.6万人だった。2月まで3か月連続で増加していたが、3月は再び減少に転じた(図表4)。業種別にはコロナ禍の影響が大きい居住・飲食・芸術・娯楽業で引き続き減少が続いていることに加えて、3月は卸・小売業や輸送業、金融業といった業種でも減少に転じ、幅広い産業で給与所得者の減少傾向がみられた(図表4)。流出(退職など)と流入(就職など)のフローの傾向で見ると、3月(速報値)はあるが流出の増加が目立つ。

一方、月あたり給与額(中央値)については前年同月比+5.4%で前月の+4.3%から大きく加速している。前年同月の給与額(中央値)がコロナ禍の影響により抑制されていた効果があり、伸び率としては高い数値となっているが、その効果を除いても給与額(中央値)の増加傾向は続いている。低所得業種の雇用環境が悪い一方、相対的に高所得の業種で雇用が改善していることが給与額(中央値)を押し上げている要因になっている(図表4)。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
次に2月までのデータを確認すると、20年12月-21年2月の失業率は4.9%と改善、失業者も167.5万人に減少した(前掲図表1)。一方で、労働参加率は63.5%となり、昨年4月のコロナ禍以降は64%を割る状況が長期化している。賃金関係では、12-2月の平均賃金は、前年同期比+4.5%(実質は+3.7%)と高い伸びを維持しているが、前述の通り低所得の職が失われたことによる影響も大きく、ONSはそうした賃金の押し上げ効果を約1.9%程度と指摘している。労働時間は29.6時間(前年同期差▲2.2時間)、フルタイム労働者で33.9時間(同▲3.0時間)となり、年初から2か月連続で労働時間は減少している(前掲図表2)。
(図表5)英国の雇用統計(週次データ) 最後に週次データを確認すると(図表5)、今年1月に3回目のロックダウン以降、休業者は500万人程度まで増加した。その後、週次の統計が公表されている2月末までは厳しめのロックダウンが続いていたが、休業者数の悪化は限定的で、ほぼ横ばいでの推移となった。雇用維持政策で政府が雇用を支える中4、3月8日以降のロックダウンの段階的な緩和により雇用環境の改善がどの程度進むかが注目される。
 
3 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した実験統計。直近データは利用可能な情報の85%ほどを集計して算出。
4 CJRS(Coronavirus Job Retention Scheme)は21年9月末まで実施予定。6月までについては昨年8月と同じ水準での支給(月2500ポンドを上限に給与の80%まで支給、社会保障は雇用主負担)、その後7月以降は段階的な政府負担の引き下げを予定。
 
 

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

(2021年04月21日「経済・金融フラッシュ」)

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