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- 英国金融政策(3月MPC)-政策変更なし、気候変動対応も進める
2021年03月19日
1.結果の概要:金融政策の変更なし
3月17日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、18日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策金利を0.1%で維持(変更なし)
・国債および投資適格級社債を総額8950億ポンドまで購入する(変更なし)
【議事要旨(趣旨)】
・前回2月と比較して世界成長率は予想よりやや強く、また米国の追加財政刺激策が見通しの大きく後押しすると見られる
・今後数か月で、発行体の気候変動への影響を考慮した社債購入策への適応に関する詳しい情報と、適用に関する見解を提供する予定である
2.金融政策の評価:金融政策は様子見姿勢の継続、気候変動対応も検討
イングランド銀行は、前月2月のMPCに続き金融政策の変更はせず、様子見姿勢を続けた。経済見通しについては、米国の追加財政措置などを受け足もとの世界経済の状況がやや上振れているとした。また、英国の21年度予算案の公表を受け、いくつか重要な政策が提示されたことに言及している。
先行きの経済見通しについては、公式な見解は次回5月の金融政策報告書(MPR)を待つ必要があるが、今回の声明でも、予算案で公表された雇用維持政策(CJRS)の延長などを受けて、失業率の上昇が抑制されると見ていることなどが読み取れる。先行きの景気認識についても海外経済の上振れなどをうけ上方修正している可能性があるものの、金融緩和方針を変更するような大きな状況変化ではないと言えるだろう。
またMPC後に公表された議事要旨では、政府が予算案で示した中央銀行の気候変動への取り組みについても言及されている。イングランド銀行は、今後数か月で、社債購入策における気候変動の考慮について見解を提示するとしており、こちらにも注目が集まるだろう。
先行きの経済見通しについては、公式な見解は次回5月の金融政策報告書(MPR)を待つ必要があるが、今回の声明でも、予算案で公表された雇用維持政策(CJRS)の延長などを受けて、失業率の上昇が抑制されると見ていることなどが読み取れる。先行きの景気認識についても海外経済の上振れなどをうけ上方修正している可能性があるものの、金融緩和方針を変更するような大きな状況変化ではないと言えるだろう。
またMPC後に公表された議事要旨では、政府が予算案で示した中央銀行の気候変動への取り組みについても言及されている。イングランド銀行は、今後数か月で、社債購入策における気候変動の考慮について見解を提示するとしており、こちらにも注目が集まるだろう。
3.金融政策の方針
今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、経済成長と雇用を支援する
- 委員会は現行の金融姿勢を維持することが適当だと判断した
- 政策金利(バンクレート)を0.1%で維持する(全会一致で決定、変更なし)
- 投資適格級の非金融機関社債で200億ポンド保有を維持する(全会一致で決定、変更なし)
- 国債を総額8750億ポンド購入する(全会一致で決定、変更なし)
- 資産購入額の総額は8950億ポンドとなる
- 2月のMPRでは、コロナ禍での封じ込め政策と健康不安が短期的な活動の重しになるものの、ワクチン接種がこれらを緩和し、英国のGDPはコロナ禍前の水準に向かって21年には大きく回復するとしていた
- 失業率は今後、数四半期にわたってさらに上昇することが見込まれていた
- CPI上昇率は春には2%の目標に向け進展し、金融市場の金利見通しを前提として予測期間の2・3年目には2%近くに到達することが見込まれていた
- 前回の見通し以降、世界成長率は予想よりやや強く、大規模な米国の追加財政刺激策が見通しの大きく後押しすると見られる
- こうした状況を一部反映し、またワクチン普及の良いニュースにより先進国の長期国債利回りがコロナ禍前の水準近くまで急激に上昇した
- リスク性資産価格は底堅く推移している
- 英国ではポンドの実効為替レートが上昇、住宅ローンの与信環境はやや緩和している
- 英国の金融環境は総じて2月のMPRから変化していない
- 英国全体でコロナ感染率や入院率は大きく低下、ワクチン普及は速いペースで進んでいる
- 経済活動制限からの緩和計画が公表され、これは2月の報告書で想定していたよりもやや早い緩和が見込まれる
- 21年度の予算案は3月に提出され、2月の報告書で勘案されていなかった雇用維持政策(CJRS)の延長や他の短期的な経済支援策の延長といった、重要な政策も公表された
- 21年1月のGDPは2.9%の減少となった
- 主に公的部門の生産のために、予想よりあまり弱くなかったが、2019年10-12月期の水準を約10%下回っている
- 早期の行動制限緩和の報道のため、21年4-6月期の消費見通しは2月の報告書よりやや強くなりどうだが、中期的な見通しへの影響は不透明といえる
- 労働力調査基準の失業率は、10-12月平均で5.1%まで上昇したが、労働市場の弛み(slack)は失業率の数値以上に大きいままだと見られる
- 政府の雇用支援策の延長は短期的には失業率の上昇を、当時の政府の政策に基づいて作成された2月の報告書でよりも緩和させるだろう
- CPI上昇率は1月には0.7%にやや上昇した。
- 最近のインフレ率の弱さは、特に20年初の原油価格の急落など、新型コロナウイルスが経済に与えている影響を直接・間接的に反映している
- MPCの最新の見通しでは、CPIインフレ率は、春には前年比でみた際の原油価格の影響が剥落し最近のエネルギー価格の上昇を反映するため、2%の目標に近づくだろう
- ただし、これらの動きは、中期的な物価見通しへの直接的な影響としては限定的である
- インフレ期待は引き続き安定している
- 現在、かなりの生産力余剰(spare capacity)が存在すると判断される
- 経済の見通しにおいて、特にコロナ禍からの回復における需要と供給の相対的な動向については、大きな不確実性が残っている
- 感染拡大の進展と実施される公衆衛生保護策と、家計、企業、金融市場がこれらの進展にどのように反応するかに依存する
- MPCは引き続き状況を注視する
- インフレ見通しが低下すれば、MPCは目的を達成するために必要な追加策を用意する
- MPCは生産力余剰の解消と、2%のインフレ目標の安定的達成への著しい進展についての確証が得られるまでは、金融政策を引き締めるつもりはない
- 委員会は今回の会合で、現行の金融姿勢を維持することが適当だと判断した
4.議事要旨の概要
議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
(世界経済)
(金融環境)
(需要、生産、通貨、信用)
(供給、費用、価格)
(当面の金融政策決定)
(世界経済)
- 2020年10-12月期の世界成長率は2月の報告書で予想されていたよりも高かった
- 昨年春と比較し、行動制限によって経済が受ける影響が弱まっており、2021年1-3月期の成長率は予想より強くなる可能性が高い
- 米国の1.9兆ドル、GDP比で約10%の財政刺激策は2月の報告書で想定されていたほぼ倍であり、前回MPC時の市場予想よりも大規模でもある
- 中国以外の新興国では、いくつかの国で経済活動がコロナ禍前の水準まで回復しており、20年10-12月期のGDP成長率は2月の報告書の想定よりも強かった
(金融環境)
- ワクチン接種や米国の追加財政政策などを反映して、短期金利のフォワードレートも上昇したが、当面の政策金利の引き上げを示すものではなかった
- 英国の政策金利も上昇し、金利引き下げ(マイナス金利)を示唆する水準ではなくなった
- 企業の与信環境も安定しており、政府の支援策が下支えとなっている
- 21年度予算案で3月末までの政府保証貸出策に変わる新しい貸出支援策が公表された
(需要、生産、通貨、信用)
- 21年1月の貿易量は大幅に減少しており、金を除く輸出入はそれぞれ19%、21%減少した
- EU向け輸出は44%減少、同輸入は28%減少した
- 意向期間の終了に伴う備蓄や、新しい貿易協定の導入に伴う混乱、コロナに関連する制限などが影響していると見られる
- EU向け輸出のデータは新しい報告システムに切り替えたため、通常より不確実性が高い
(供給、費用、価格)
- 行政データによれば1月末時点で470万人の民間部門の休業者がおり、20年10-12月期よりは多いが、昨年春の感染拡大期よりは少ない
- 政府は、雇用維持政策を21年9月末まで延長すると発表した
- 政府の支援割合は7月には70%、8・9月には60%に引き下げられ、80%までの差分は雇用主が負担する
- 週平均賃金は予想通りに上昇し、20年10-12月期は全体で4.1%、民間部門で4.0%の上昇となった
- ボーナスは予想を上回る上昇を見せ、経済全体での給与は2月の報告書をやや上回る伸びとなった
- 低所得労働者がコロナ禍で職を失いやすいなどの影響もあり、賃金データの解釈には課題が残っている
- 2月の報告書以降に判明した、インフレ率の短期的な上方圧力としては、原油価格の上昇とガス・電力規制当局(Ofgem)によるエネルギー価格の上限の引上げがある
- これらは部分的に、予算案で示された飲食・宿泊・娯楽に対するVATの引下げ延長と燃料・アルコール税の凍結で相殺される
- 1月に公表されたCPIウエイトの更新は、2月の報告書での前提と一致しており、今夏のインフレ率を押し下げる要因となるだろう
- これらの動向は中期的なインフレ率にはほとんど影響を及ぼさない
(当面の金融政策決定)
- (金融政策の方針は第3節に記載の通り)
- MPCの使命は21年度予算案に基づいて更新され、炭素排出量ネットゼロへの移行を支援する政府の意向も提示されている
- 今後数か月で、発行体の気候変動への影響を考慮した社債購入策への適応という提案に関する詳しい情報と、次の再投資が予定される21年10-12月期までの適用に関する見解を提供する予定である
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年03月19日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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