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コラム
2025年10月20日

ブルーファイナンスの課題-気候変動より低い関心が普及を阻む

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子

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本邦初のブルーボンド1が発行されて約3年が経過したが、国内における純粋なブルーボンド発行事例は少ない(図表1)。しかし、これはブループロジェクト2の資金ニーズが少ないことを意味しない。世界銀行の報告書3によると、海洋・水資源の健全化には2030年までに少なくとも1兆ドルもの莫大な資金が必要とされている。国際的な研究組織「国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」が2025年6月に公表した「持続可能な開発報告書2025」では、世界的にSDGsの目標「海の豊かさを守ろう」にはまだ大きな課題があると評価されている。相対的にSDGsの達成状況が良好な日本においても同様に評価され、17個の目標の中で最も低い評価を得ている。このため、日本においても潜在的資金ニーズは大きいと考えられる。
【図表1】ブルーボンドの発行事例
ブルーボンドの発行が伸び悩む要因の一つとして、ブループロジェクトの多くが漁業インフラの改善や地域の下水処理高度化、藻場・干潟の再生など、地域に根差した小規模プロジェクトである点が挙げられる。債券市場で個別に第三者評価取得し、ブルーボンドとして発行するには、手続きやコストの面で非効率なのである。この課題を乗り越え、小規模なブループロジェクトへの資金供給を拡大するために、二つのアプローチがある。

一つ目のアプローチは、資金使途の幅が広い「グリーンボンド」や「サステナビリティボンド」の枠組に組み込む方法である。ブルーボンドはグリーンボンドの枠組の中に存在する「海洋・水資源」という特定のテーマに焦点を当てたものとして扱われており4、このアプローチを利用する例は少なくない(図表2)。しかし、大規模なプロジェクトを持たない小規模事業者には、組み込ませる先の「グリーンボンド」や「サステナビリティボンド」がないという課題もある。
【図表2】ブループロジェクトが組み込まれたグリーンボンド等の発行事例
二つ目のアプローチは、複数の小口ローンを一つにまとめて、これを裏付けとした証券化商品を組成し、機関投資家を呼び込む方法である。このアプローチを利用した例として、省エネルギー性能の高い住宅に対するローン(グリーンローン)を裏付け資産とする証券化商品5があるが、筆者の知る限り日本において小口のブルーローン6を裏付け資産とする証券化商品はない。住宅ローンと異なりローン件数が少ないので、まとめても大した規模にならないといった事情があると考えられる。ブルーボンドとグリーンボンドの関係と同様に、ブルーローンもグリーンローンの枠組の中に存在するので、グリーンローンを裏付け資産とする証券化商品に組み込むことも考えられなくはない。ただし、その際にも過去事例の少なさからリスクの把握(デフォルト率の推計)が困難であるという根本的な課題は残る。現在は地道に事例の積み重ねが必要な段階なのだろう。
 
小規模なブループロジェクトは、特定の沿岸地域や流域コミュニティと密接に関連しており、地方自治体や中小企業が主要な担い手である。そのため主要な担い手と継続的な関係性を構築している地方金融機関には、ブルーローンを推進する上で優位性があると考えられる。事実、地域金融機関の73%が企業のSDGs支援を実施し、22%がESG課題起点での企業の支援を実施し、12%が取引先企業の評価においてESG要素を取り入れている7。頼もしい限りだが、一方で取引先企業の評価において気候変動を対象とする金融機関が77.4%に上るのに対し、水資源を対象とする金融機関は30.6%にとどまっている。この気候変動と水資源との間の関心のギャップこそ、国内ブルーファイナンス普及における課題の一つと言える。「海の豊かさを守ろう」も重要なESG課題であるだけでなく、藻場・干潟の再生は気候変動対策にもつながる。ブループロジェクトに対する注目・関心の高まりを期待したい。
 
1 海洋環境の保護や持続可能な海洋経済活動へ資金を供給するために発行される債券
2 海洋環境や生物多様性の保全(下水処理高度化を含む)、持続可能な海洋経済活動を推進する取組み
3 World Bank. 2025.“Accelerating Blue Finance:Instruments, Case Studies, and Pathways to Scale”
4 ICMA「ガイダンス・ハンドブック」(2025年6月)
5 2020年にARUHIが日本初のグリーンRMBSを発行、住宅金融支援機構は2025年11月にグリーンMBSの発行を予定している。
6 海洋環境の保護や持続可能な海洋経済活動に対する融資
7 グリーンファイナンスポータル「ESG地域金融に関する取組状況について」(2025年3月)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月20日「研究員の眼」)

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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