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2025年09月12日

スマホ競争促進法の指針-Digital Markets Actとの比較

保険研究部 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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7――法8条1号(アプリストアに係る指定事業者の禁止行為その1)

1|法8条1号の概要(代替支払管理手段役務等の利用を妨げることの禁止)
法第8条第1号は、アプリストア指定事業者が、当該アプリストアにおいて、指定事業者が提供する支払管理役務以外の支払管理役務(代替支払管理役務)を個別アプリ事業者が利用することを制限することを禁止している(図6)。
【図6】アプリストア指定事業者の禁止行為
2|考え方19
支払管理手段とはスマートフォンの利用者が、個別ソフトウェアを通じて販売されているゲームアイテム等のデジタルコンテンツを購入したり、サブスクリプションサービスの決済を行ったりする際に用いられるサービスであって、いわゆるアプリ内課金システムと呼ばれるものである。

問題となるのは、ひとつはアプリストア指定事業者が、支払管理役務を指定事業者等が提供するものに限定する行為である。もうひとつは代替支払管理役務等を利用すること自体は認めつつ、個別アプリ事業者に合理的でない技術的制約や契約上の条件等を課すことなどによって、代替支払管理役務等の利用を実質的に困難にさせる蓋然性の高い行為である。
 
19 指針p47~p48
3|想定される例20
指定事業者が、個別アプリ事業者に対し、アプリストアを利用するための審査等において、指定事業者等が提供する支払管理役務のみをその決済のために利用することを求める条件を設けることが挙げられている。

また、指定事業者が、代替支払管理役務等を利用しようとする個別アプリ事業者に対し、自らのアプリストアで当該個別ソフトウェアを提供するためのアプリ開発環境を提供しないことが挙げられている。
 
20 指針p48~p50
4|正当化事由にかかる想定例21
正当化される例として、指定事業者が、個別アプリ事業者が利用しようとする代替支払管理役務等について、犯罪防止の観点から必要な範囲で、クレジットカード情報といった決済情報に係る適正な取扱いを行っていると認められる代替支払管理役務等のみに限定するための要件を設けることが挙げられている。

他方、正当化されない事例としては、サイバー攻撃によるクレジットカード情報の漏えいのリスクが上昇するという問題等を理由に、個別アプリ事業者による代替支払管理役務等の利用について、指定事業者が審査等を行うことなく一律に禁止することが挙げられている。
 
21 指針p50~p52
5|小括(DMAとの比較等)
DMAにも同様の規定がある。具体的に、GK はエンドユーザーまたはビジネスユーザーに対して、識別サービス、ブラウザ、支払いサービス、アプリ内支払技術の利用・相互運用を強制してはならない(DMA5条7項)とする。

代替支払管理手段に関しては、一般にアンチステアリングの一環として論じられている。ただ、米国のEpic社対Appleの事案では、EpicがAppleに無断で代替支払管理手段をアプリ内に導入したことに対しAppleがEpicのアプリを削除したことが判決上検討されている。この点につき、カリフォルニア連邦地裁はAppleによる支払管理手段の義務化についての合理性を認めなかった22
 
22 基礎研レポート「エピックゲームズ対Apple地裁判決-反トラスト法訴訟」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69124?site=nli 参照。

8――法8条2号(アプリストアに係る指定事業者の禁止行為その2)

8――法8条2号(アプリストアに係る指定事業者の禁止行為その2)

1|法8条2号の概要(関連ウェブページ等における取引等を妨げることの禁止)
法8条2号は個別アプリ事業者が個別ソフトウェアの内と外(関連ウェブページ等)の両方で同一のデジタルコンテンツ等の販売を行っている場合において、関連ウェブページへのリンクを含めないこと等を利用条件とすること、および利用者が関連ウェブページ等を通じて商品を購入することを妨げることを禁止している。これは一般にアンチステアリング条項と呼ばれるもので米国あるいは欧州でも問題となったものである。

法7条1号(上記4の1)との相違は、7条1号が、基本動作ソフトウェア指定事業者が代替アプリ利用を排除することを禁止するのに対して、8条2号はアプリストア指定事業者が個別アプリ事業者に対して制限を課すことを禁止するものである。
【図7】アンチステアリングの禁止
2|考え方23
本号が問題とするのは、典型的には、個別アプリ事業者が個別ソフトウェアの内(個別ソフトウェア)と外(関連ウェブページ等)の両方で同一のデジタルコンテンツ等の販売を行っている場合である。個別アプリ事業者がアプリ内ではなく、アプリ外の関連ウェブページ等への利用者誘導を制限することが禁止される。
 
23 指針p53~p56
3|想定される例24
関連ウェブページ等の情報を表示させないケースの例としては、指定事業者が、個別アプリ事業者に対し、アプリストアの利用条件として、関連ウェブページ等を通じて提供するデジタルコンテンツの価格、値引額、値引率を含むセール又は特典情報等の外部誘導情報を個別ソフトウェア内で表示することを禁止することが挙げられている。

同じく禁止される事例として、指定事業者が、関連ウェブページ等における商品又は役務の提供を行っている個別アプリ事業者の個別ソフトウェアについてアプリストアにおけるランキングの上位に表示しないようにすることにより、関連ウェブページ等における商品又は役務の提供を困難にすることなどが挙げられている。
 
24 指針p56~p59
4|正当化事由にかかる想定例25
指定事業者が、スマートフォンの利用者が、リンクアウトする際に、本物のウェブサイトに似せた偽のサイトに移動するリスクについて中立的な表現で注意喚起する説明するポップアップを表示することには正当化事由があり、利用者の関連ウェブページ経由での購入を妨げるものには該当せず、認められるとする。
 
25 指針p59~p60
5|小括(DMAとの比較等)
DMAにも同様の規定がある。具体的に、GKは、ビジネスユーザーがGKのCPSで獲得したエンドユーザーに対して、CPSあるいは他のチャネルを利用して、GK のCPSでの条件と異なる条件で行うことも含め、エンドユーザーと通信し、勧誘を行って契約を締結することを無料で認めなければならない(DMA5条4項)。

EUでは、Appleが音楽ストリーミングサービス事業者であるSpotifyに対して代替となる支払管理システムを利用させなかったことが競争制限的であるとして制裁金を付加した事例がある26。米国では上述の通り、Epic社対Appleの事例がある27
 
26 基礎研レポート「EUにおけるAppleへの制裁金納付命令-音楽ストリーミングアプリに関する処分」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=78251?site=nli 参照。
27 本件に関する最近の動きとして、基礎研レポート「Appleに対する再差止命令と刑事立件の可能性-アンチステアリング条項」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=82094?site=nli 参照。

9――法8条3号(アプリストアに係る指定事業者の禁止行為その3)

9――法8条3号(アプリストアに係る指定事業者の禁止行為その3)

1|法8条3号の概要(代替ブラウザエンジンの採用を妨げることの禁止)
法第8条第3号は、アプリストア指定事業者が、アプリストア利用にあたり指定事業者等自身が提供するブラウザエンジンを個別ソフトウェアの構成要素とすることを条件とすること等を禁止する(図8)。これは、個別アプリ事業者による多様な個別ソフトウェアの提供を通じ、個別ソフトウェアに係る競争を促進しようとするものである。
【図8】代替ブラウザエンジンの採用を妨げることの禁止
2|考え方28
本号で禁止されるのは、アプリストア指定事業者が、アプリストアを通じて提供する個別ソフトウェアにおいて採用できるブラウザエンジンを指定事業者等が提供するものに限定する行為である。

これらの行為には、個別アプリ事業者に合理的でない技術的制約や契約上の条件等を課すことなどによって、個別アプリ事業者が代替ブラウザエンジンを採用することを実質的に困難にさせる蓋然性の高い行為を含む。
 
28 指針p62
3|想定される例29
指定事業者が、アプリストア経由で個別ソフトウェアを提供するための審査等において、代替ブラウザエンジンの採用を禁止する審査項目を設けること等が挙げられている。
 
29 指針p63~p64
4|正当化事由にかかる例30
アプリストアを経由してブラウザ以外の個別ソフトウェアを提供する事業者が極めて多数に上ることから、指定事業者が、それらの個別ソフトウェア経由でウェブページを表示するためのブラウザエンジンを原則として指定事業者等のブラウザエンジンに統一することとしつつ、代替ブラウザエンジンを採用しようとする個別アプリ事業者に対しては、サイバーセキュリティの確保等の観点から一定の要件(例えば、指定事業者と同等の脆弱性対応を行っているか否か、ペアレンタルコントロール機能が機能するか否か)を設け、当該要件を満たすか否かの審査等を事前に行った上で、当該代替ブラウザエンジンの採用の可否を判断することが正当化事由として挙げられている。
 
30 指針p64~p66
5|小括(DMAとの比較等)
DMAではウェブブラウザの強制について上述の通り、5条7項で禁止している。ウェブブラウザはそれぞれの検索エンジンによって仕様が定まるので、ビジネスユーザーにとって指定事業者に対する依存度を高めるものとなることから禁止される(DMAの前文43)。

また、6条12項では、GK は、ビジネスユーザーに対して、指定CPSであるアプリストア、オンライン検索エンジン、オンラインSNS へのアクセスについて公平、合理的かつ非差別的な一般条件を適用しなければならないとしており、自社の提供するブラウザを義務付ける行為は本項にも違反すると解される。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月12日「基礎研レポート」)

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保険研究部   研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
     2025年4月 取締役保険研究部研究理事
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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