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2025年09月12日

スマホ競争促進法の指針-Digital Markets Actとの比較

保険研究部 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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■要旨

スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(略称:スマホ競争促進法。以下、「法」)は2024年の通常国会で成立し、2025年12月18日に施行される予定となっている。今回、同法の指針が確定したので、指針に沿ってみていきたい。
 
法は基本動作ソフトウェア(OS)、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンを提供する一定の規模を有する事業者を指定(指定事業者)し、指定事業者が個別アプリ、アプリストア、ブラウザ各事業者に対する一定の行為を禁止し、特定の措置をとるべきことを求める。
 
法は個別アプリ事業者などがアプリを提供することに伴って、指定事業者が取得した情報を個別アプリ事業者との競争関係にある自社事業に使用することを禁止している(5条)。指針における想定例としては、周辺機器(スマートウォッチなど)にかかるソフトウェアのデータを取得して、自社開発に利用することなどが禁止される。
 
また、法は基本動作ソフトウェア指定事業者等が個別ソフトウェア利用契約の承認審査等にあたり、差別的な取扱いをすることを禁止する(6条)。指針では代替アプリストアを利用する個別ソフトウェアの審査にあたり追加的な審査項目を設けることなどが挙げられているなど法の適用例や考え方を示している。
 
法はEUのデジタル市場法(Digital Markets Act、DMA)の影響を受けて成立した。法とDMAを比較すると、法はスマートフォンの基本機能を提供する事業者の行為のみを規定する。たとえばAmazonなどは法の射程外である。また、法はGoogle(Alphabet)を規制対象とするが、Alphabetの動画配信プラットフォームであるYouTubeは規制対象とならない。
 
また、DMAにあって法にない規定として、複数のプラットフォーム間でのデータ突合の禁止などがある。これに関連し、EUでMeta社が自社のプラットフォーム(Facebookなど)と自社の広告プラットフォームとのデータ突合を認めるか、サブスクリプションフィーを払うかという選択肢を利用者に提示したことが問題となったケースがある。
 
逆に法にあって、DMAにない規定は見当たらなかった。

■目次

1――はじめに
2――法5条(取得したデータの不当な使用の禁止)
  1|法5条の概要
  2|考え方(データの種類)
  3|想定される例
  4|小括(DMAとの比較等)
3――法6条(個別アプリ事業者に対する不公正な取り扱いの禁止)
  1|法6条の概要
  2|考え方
  3|想定される例
  4|小括(DMAとの比較等)
4――法7条1号(基本動作ソフトウェア指定事業者の妨害行為の禁止)
  1|法7条1号の概要
  2|考え方
  3|想定される例
  4|小括(DMAとの比較等)
5――法7条等にかかる正当化事由
  1|正当化事由に係る規定
  2|考え方
  3|正当化事由にかかる想定例
  4|小括(DMAとの比較等)
6――法7条2号(OS機能の利用を妨げることの禁止)
  1|法7条2号の概要
  2|考え方
  3|想定される例
  4|小括(DMAとの比較等)
7――法8条1号(アプリストアに係る指定事業者の禁止行為その1)
  1|法8条1号の概要(代替支払管理手段役務等の利用を妨げることの禁止)
  2|考え方
  3|想定される例
  4|正当化事由にかかる想定例
  5|小括(DMAとの比較等)
8――法8条2号(アプリストアに係る指定事業者の禁止行為その2)
  1|法8条2号の概要(関連ウェブページ等における取引等を妨げることの禁止)
  2|考え方
  3|想定される例
  4|正当化事由にかかる想定例
  5|小括(DMAとの比較等)
9――法8条3号(アプリストアに係る指定事業者の禁止行為その3)
  1|法8条3号の概要(代替ブラウザエンジンの採用を妨げることの禁止)
  2|考え方
  3|想定される例
  4|正当化事由にかかる例
  5|小括(DMAとの比較等)
10――法8条4号(アプリストアに係る指定事業者の禁止行為その4)
  1|法8条4号の概要(指定事業者の利用者確認の方法の利用強制の禁止)
  2|考え方
  3|小括(DMAとの比較等)
11――法9条(検索エンジン指定事業者の禁止行為)
  1|法9条の概要
  2|考え方
  3|想定される例
  4|正当化事由にかかる例
  5|小括(DMAとの比較等)
12――法とDMAの全体的比較
  1|適用範囲
  2|規定内容
13――おわりに

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月12日「基礎研レポート」)

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保険研究部   研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
     2025年4月 取締役保険研究部研究理事
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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