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2025年08月27日

探索的空間解析でみる日本人旅行客の「ホットスポット」とその特色~旅行需要の集積が認められた自治体の数は、全国で「105」~

金融研究部 上席研究員 吉田 資

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2-2.分析結果
「日本人国内旅行者」について、ホットスポット分析を行ったところ、統計的に有意で「ホットスポット(赤色)」に分類された自治体は、2021年の「99」から2024年の「105」へと増加した。国内旅行者の増加に伴い、ホットスポットも増加している(図表-5、巻末参考図表-1、2)。

一方、「一人勝ち(黄色)」に分類された自治体は、2021年の「34」から、2024年の「28」へと減少した。また、「一人負け(水色)」に分類された自治体は2021年が「7」、2024年が「8」、「コールドスポット(青色)」に分類された自治体は2021年が「108」、2024年が「107」となり、大きな増減はみられなかった。
図表-5 ホットスポット分析結果
「ホットスポット」に分類された自治体数は、東京都と静岡県が「19」で最も多く、次いで、愛知県が「12」、京都府が「8」、群馬県と神奈川県が「7」、千葉県と三重県が「6」となっている。「ホットスポット」が検出された自治体は、20都道府県にわたり、日本各地に多様で豊富な観光資源が存在していることがうかがえる(図表-6)。

一方、東北地方と中国地方で「ホットスポット」に分類された自治体は「1」、九州地方では「2」と少なかった。コロナ禍以降に広がった「マイクロツーリズム9」により、遠方への旅行機会が減少したこと等に伴い、三大都市圏からのアクセスが良好な自治体を中心にホットスポットが形成された可能性がある。

また、「ホットスポット」の分布を確認すると、高速道路が通る自治体に多い傾向がみられる(巻末参考図表-1、2)。J.D.パワージャパン「コロナ前後の国内旅行に関するアンケート調査」(2022年12月時点)によれば、国内旅行の交通手段として「自家用車」(61%)を挙げる回答が最も多かった。国内旅行では、自動車での周遊が主流となっており、高速道路等の交通利便性に優れ、隣接する観光スポットへのアクセスの良さが、「ホットスポット」の形成につながっていると考えられる。

国内旅行先として人気の高い北海道は、「ホットスポット」に分類された自治体はなく、「一人勝ち」の自治体が「7」(稚内市・名寄市・ニセコ町・仁木町・遠軽町・大樹町・厚岸町)、「クールスポット」の自治体が「45」に達した(巻末参考図表-1、2)。公益社団法人北海道観光振興機構「2022(令和4)年度北海道来訪者満足度調査 報告書」では、2次交通10の整備やMaaS施策による利便性の強化等により、北海道全体の回遊・周遊を促進する施策が必要だと指摘している。北海道は、雄大な自然や、スキー等のスポーツが楽しめる観光スポットを多く有しているものの、観光スポット間の移動距離が長く、移動手段等も十分でないことが、「ホットスポット」が形成されなかった要因の1つかもしれない。
図表-6 ホットスポットに分類された自治体(2024年)
「ホットスポット」に分類された自治体が、どのような観光地点(スポット)を有しているか、前述の観光庁の分類を参考に、各自治体の観光HP等をもとに確認した(図表-7)。結果は、「自然」と「歴史・文化」に関する観光スポットを有する自治体が約8割を占めた。公益社団法人日本観光振興協会「第43回 国民の観光に関する動向調査」によれば、国内旅行の行動をたずねたところ、「自然の風景をみる」(48%)との回答が最も多く、次いで、「温泉浴」(33%)、「名所・旧跡をみる」(32%)との回答が多かった(図表-8)。豊かな自然景観や、歴史・文化に関する名所・旧跡は、集客力の高い観光資源であることが分かる。

また、前述の通り、国内旅行では、自動車での周遊が主流であることから、道路利用者の休憩施設から発展した「道の駅」が観光資源となり、「ホットスポット」を形成した自治体も確認される。「群馬県川場村」に所在する道の駅「川場田園プラザ」は、約6haの敷地に、地元食材を使った料理を提供する飲食店やパン・ビール工房、アスレチック施設等が整備されており、リクルート社「道の駅ランキング2025」で第1位となる11等、全国的に高い人気を誇る。川場村の人口約3千人に対して、「川場田園プラザ」には年間200万人以上が来場しているとのことである。
図表-7 「ホットスポット」自治体の観光スポットの状況/図表-8 国内旅行の行動(上位5位)
「ホットスポット」の経年変化(2021年⇒2024年)をみると、「2021年時点、2024時点ともにホットスポットに分類された自治体」は「89」、「2021年時点はホットスポットに分類されなかったが、2024年時点でホットスポットに分類された自治体12」は「16」であった(図表-6)。先行研究13によれば、一度形成されたホットスポットは基本的に消失しにくいとされている。本分析でも、9割程度の自治体が継続してホットスポットに分類されており、ホットスポットは旅行需要の持続性が高いエリアと考えられる。

「2021年時点はホットスポットに分類されなかったが、2024年時点でホットスポットに分類された自治体」の1例として、「三重県菰野町(こものちょう)」が挙げられる(図表-6)。前述の日本観光振興協会の調査によれば、国内旅行の行動として、「自然の風景をみる」や「温泉浴」が人気である。「三重県菰野町」は、鈴鹿山脈の豊かな自然を活かした観光地として知られるほか、「湯の山温泉」等の温泉地を有している。鈴鹿山脈の最高峰である御在所岳にかかる「御在所ロープウエイ」は、全長約2千mで日本最大級の規模であり、近年は避暑としてのPR等が奏功し、観光客が大幅に増加した14とのことである。「御在所ロープウエイ」は絶景の「映えスポット」15と紹介されており、若年層を中心にSNSへの投稿を意識して旅行先を選択する人が増えている16。こうした動きがホットスポット形成の一因となった可能性が考えられる。

また、自然や温泉等のほかに、アニメ作品の舞台などを巡る「聖地巡礼」が観光資源となり、ホットスポットとなった自治体もみられる。「岐阜県飛騨市」は、アニメ映画「君の名は。」(2016年公開)の舞台である「糸守町」のモデルになったことを契機に、多くの観光客が訪れている(図表-6)。こうした動きを受けて、飛騨市は、大垣市や白川町等、岐阜県内の13自治体とともに「ぎふロケツーリズム協議会」を結成し、映像作品を活用した地域振興に取り組んでいる17

また、「三重県明和町」は、平安時代に天皇の代わりに伊勢神宮に仕えた「斎王」が暮らしていた宮殿跡地「斎宮跡(さいくうあと)」が主要な観光スポットであるが、「斎王」を主人公とした漫画を作成し、観光振興に活用している18。内閣官房「コンテンツ産業官民協議会」によると、訪日外国人の「聖地巡礼者」は年間310万人、国内消費支出は4,700億円と試算しており、コンテンツツーリズム19に対して大きな期待が寄せられている。
 
9 新型コロナの流行をきっかけに感染防止の観点で広がった、自宅から1~2時間程度の移動圏内の「地元」で観光する近距離旅行の形態のこと。公共交通機関の利用を避けた自家用車による移動を中心。(JTB総合研究所HPより)
10 拠点となる空港や鉄道の駅から観光地までの交通
11 上毛新聞「全国道の駅グランプリ 川場田園プラザ1位 2年ぶり3度目 「一日中滞在」に高評価」(2025年7月18日)
12 2021年時点はいずれのクラスターにも統計的に有意に分類されなかった自治体が「14」、「一人負け」の自治体が「2」。
13 Yang, Y. and Wong, K. K. F. (2013), “Spatial Distribution of Tourist Flows to China’s Cities”, Tourism Geographies, Vol.15 No.2, pp.338-363.
14 中部読売新聞「お盆観光客数 52%増 前年比 15施設 御在所ロープウエイ好調=三重」(2024年9月11日)
15 「観光三重」HP等。
16 日本交通公社「国内旅行におけるSNS・写真に対する意識/実態 ~JTBF旅行実態調査トピックス~」(2024年3月12日)
17 中日新聞「アニメ生かし効果的PRを 大垣 13市町の観光関係者らセミナー」(2025年2月4日)
18 朝日新聞「「斎王」候補に女子高校生!? 明和町が舞台、漫画を制作 社団法人、観光振興へ/三重県」(2020年9月28日)
19 映画やマンガ、アニメなど作品の舞台を訪れることを目的とする観光行動。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月27日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   上席研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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