NEW
2025年08月27日

Z世代にとってサステナビリティは本当に「意識高い系」なのか-若年層の「利他性」をめぐるジレンマと、その突破口の分析

生活研究部 准主任研究員 小口 裕

文字サイズ

3|Z世代の「意識高い系」ラベルに潜む誤解~「意識が高い」正体は「利他に過ぎる姿勢」のこと
その一方で、同じく日本リサーチセンターの社会調査によれば、「サステナは意識高い系・表面的」と答えた割合は、20代で20.3%と最多となっている(数表5)。

確かに全年代で最も高いが、逆に言えば約8割はそうは考えていない。アンケート調査のためハロー効果(自分を良く見せて回答する傾向)の影響はあるかもしれないが、他世代より高いとはいえ、突出して高いわけではない。巷やメディアで語られる「若者にとって、サステナビリティ行動は「意識高い系」と評する」構図は、このデータを見る限り実態を正確に反映しているとは言い難い。
数表5:「サステナビリティ」に対するイメージ
また、社会心理学の先行研究6によれば、Z世代のみならず、日本社会の特徴として「やりすぎた利他」に厳しい文化であることが示されている。たとえば、寄付や分配で「全部をあげる」といった極端な行為は、善意であっても相手に好意的に受け止められにくい。つまり「(一般的な慣習を超えて)良いことをしすぎると逆に嫌われる」という意識があると言われる。

こうした日本人に根差した意識的背景を踏まえると、Z世代がサステナ行動をためらうのは、軽薄さや無関心ではなく、むしろ周囲から「やりすぎ」と思われることへの「恐れ」だとも考えられるだろう。
 
さらに注目したいのは、サステナビリティに対する性別や世代ごとのイメージや動機づけが異なる点である(数表5)。たとえば、40代以降で約半数が持つのは「他人や社会の役に立つ」という利他的な印象だ。加えて、30代以降で高まる「勉強になる・成長する」、高齢層で多い「新しい発見がある」といった前向きな評価が世代的な特徴であるが、Z世代では相対的にいずれも低位に留まる。

このことは、サステナビリティ政策・施策の設計・実施・浸透という観点で、性差・世代差を踏まえたアプローチが必要であることを示唆している。特に、サステナビリティ訴求にありがちな、「(自分以外の)〇〇〇のために」という、ピュアな利他的訴求は、逆にZ世代には届きにくい可能性を示唆しているとも言えるだろう。
 
6 Kawamura, Y., & Kusumi, T. (2020). Altruism does not always lead to a good reputation: A normative explanation. Journal of Experimental Social Psychology, 91.
利他的行動は必ずしも良い評判をもたらすわけではなく、人は規範を超える過剰な利他行動を「やりすぎ」と感じ、むしろ否定的に評価する傾向が示されている。この知見は、日本社会に根づく「やりすぎた親切は嫌われる」という空気に繋がるものであり、Z世代が利他的行動をためらう背景とも整合する点がある。

3――Z世代とサステナビリティにおける「ジレンマ」の背景にあるもの

3――Z世代とサステナビリティにおける「ジレンマ」の背景にあるもの

1|世間の目とSNS、そして「間接互恵性」~利他をためらう見えない圧力とインセンティブの不足
さらに複雑なのは、日本社会特有の「世間」と言われる外部環境・秩序の存在である。

ある先行研究7によれば、日本社会には特有の「世間」という秩序があり、人々は「社会に評価されるか」よりも「周囲(世間)にどう見られるか」を基準に行動を調整してきた、と言われる。

しかし、サステナビリティは海外から「外来」概念として導入され8、まだこの「世間」の枠に十分組み込まれていないため、「善いことをすれば評判が返ってくる」という間接互恵性、つまり「直接的なお返しはなくても、周囲からの信頼や評価として見返りが得られるという仕組み」が働きにくい、と言われる。

結果としてZ世代にとっては、「利他的に見える行為」が逆に評判を損なうリスクと映りやすく、「意識高い系」と見られることの回避が優先されてしまう傾向もあると言えるのではないだろうか。

さらに、SNSによる行動の可視化がそれを助長している面もありそうだ。実際にはサステナ行動を評価する人は多いものの、「やりすぎると浮いてしまう」という誤解が重なりブレーキがかかることもあると思われる。

先行研究によれば、人は実際の規範(社会が評価すること)と、自らの思い込み(「みんながそう思っているはずだ」という信念)を混同しやすい9とされる。Z世代はSNSによって常に可視化されている世代であるがゆえに、「利他的に振る舞えば意識高い系と見られるはず」という誤解を強めやすいとも考えられる。

そうだとすれば、「ピュアな利他性」を前面に打ち出す訴求は、逆に、Z世代から見ると押し付けがましい印象を与え、響きにくい可能性があるだろう。さらに、「やりすぎた親切(利他)」を嫌う空気から、特に、周囲(世間)の目を気にするZ世代にとっては行動抑制の要因となり得る。
 
7 水師裕(2024).準拠集団としての「世間」が映し出すエシカル消費の若干の問題.経営論叢, 14(1), 109-124.
日本では普遍的な理念よりも「世間」という準拠集団の評価が行動基準となりやすいと指摘されている。そのためエシカル消費も「世間的に浮かない範囲」で行われがちで、地球規模や未来世代といった普遍的利他性との接続が弱いとされる。
8 サステナビリティの概念は、もともと欧米を中心に発展してきたもので、日本国内では1972年の国連人間環境会議や1987年の「ブルントラント報告」など、国際的な議論を契機に導入された経緯がある。1992年の地球サミット以降、「持続可能な開発」は日本政府の政策用語として本格的に採用され、1993年の「環境基本法」の制定を通じて制度化が進められた。その後、2000年代には自治体や企業による環境マネジメントの実践が進み、CSRを通じて企業経営にも組み込まれるようになった。生活者の間での認知や行動の広がりは、2015年のSDGs採択と、それに伴う学校教育(ESD)での取り組みを契機に加速したものである。こうした背景から、日本におけるサステナビリティは、国際的な枠組みを受けてアップダウンで制度的に導入された面が強く、行政や教育、ビジネスセクターを通じて生活者に普及してきた経緯と言える。
9 Wallen, K. E., & Romulo, C. L. (2017). Social norms: More details, please. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 114(27)
この研究では「人は、実際に社会で評価されている規範(actual norms)と、自分が「みんなこう思っているはず」と信じている思い込み(perceived norms)をしばしば混同する」と主張している。この混同が生じるため「本当は歓迎される行動」を「浮いてしまうかもしれない」と感じる、といった本稿におけるZ世代の行動上の特徴に繋がると思われる。
2|欧米の「共通善」と日本の「世間」文化、そのズレ~世間に敏感なZ世代がつい敬遠してしまう理由
そもそも、サステナビリティの定義には、そもそも「利他性」が強く内包されている。

よく知られる「将来世代のニーズを損なわず、現在のニーズを満たす」というサステナビリティの定義10には、前提として、未来の人々や地球全体への配慮が組み込まれている。

また、海外のサステナビリティの研究では「共通善(common good)」という考え方が広く用いられる11。これは「すべての人が享受すべき基盤的条件」を守るという普遍的な理念であり、人権や環境保全など社会全体の幸福を目的とするものだ。
表:欧米的「共通善」と日本の「世間」文化の対比
その一方で、日本文化においては、普遍的な理念よりも「世間」「空気」が優先されやすい。公共空間で理念を語るよりも「近くの人にどう見られるか」を重視する傾向が強いと言われる12

その結果、未来世代や地球全体といった抽象的な利他性を、自分の日常に接続しにくくなっているとも言えるだろう。特に、周囲との関わりに敏感と言われるZ世代が「理解しているのに行動できない」状況は、この文化的ズレに根ざしている面もあると考えられる。
 
10 World Commission on Environment and Development. (1987). Our common future. Oxford: Oxford University Press.
1987年のブルントラント委員会報告(正式名称 Our Common Future)
国連の「環境と開発に関する世界委員会(World Commission on Environment and Development, WCED)」がまとめた報告書で、サステナビリティの最も広く知られる定義である。
11 Christie, I., Gunton, R., & Hejnowicz, A. (2019). Sustainability and the common good: Catholic Social Teaching and ‘Integral Ecology’ as contributions to a framework of social values for sustainability transitions. Sustainability Science, 14(5)
サステナビリティの実現には、技術や制度だけでなく「共通善」という倫理的基盤が不可欠とされる。共通善とは、すべての人が享受すべき基盤的条件(人間の尊厳、環境保護、社会的平等など)を守る公共的価値を意味する。
12 水師裕(2024).準拠集団としての「世間」が映し出すエシカル消費の若干の問題.経営論叢, 14(1), 109-124.
日本文化における消費行動の基盤として「世間」の規範が強く作用しており、普遍的な理念や倫理よりも「周囲からどう見られるか」という空気が優先されやすいと指摘している。その結果、公共の場で理念を語るよりも、近くの人との関係性を維持することが行動原理となりやすいことが、エシカル消費の普及を難しくしていると論じている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月27日「基礎研レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   准主任研究員

小口 裕 (おぐち ゆたか)

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴
  • 【経歴】
    1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

    2008年 株式会社日本リサーチセンター
    2019年 株式会社プラグ
    2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

    2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
    2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
    2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
    2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

    【加入団体等】
     ・日本行動計量学会 会員
     ・日本マーケティング学会 会員
     ・生活経済学会 准会員

    【学術研究実績】
    「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
    「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
    「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
    「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
    「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
    「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

    *共同研究者・共同研究機関との共著

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

お知らせ

お知らせ一覧

【Z世代にとってサステナビリティは本当に「意識高い系」なのか-若年層の「利他性」をめぐるジレンマと、その突破口の分析】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

Z世代にとってサステナビリティは本当に「意識高い系」なのか-若年層の「利他性」をめぐるジレンマと、その突破口の分析のレポート Topへ