2025年06月03日

持続可能なバイオマス発電の活用と林業の再生に向けて

金融研究部 准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任 原田 哲志

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1――バイオマス発電事業者を取り巻く事業環境が悪化

近年では木質バイオマス発電事業者の事業を取り巻く環境が変化し事業の採算を確保することが難しくなっている。その背景には、燃料価格の高騰がある。木質バイオマス発電は未利用の木材や廃材、東南アジア産のヤシ殻などを燃料に使用する。固定価格買取制度(FIT)が施行された当初はこうした燃料の価格は安く安定した利益が得られると期待されたことでバイオマス発電事業者の数は増加が続いた(図表1)。しかし、バイオマス発電事業者の数が増加したことで燃料の需要が急増したことや世界的な木材価格の高騰(ウッドショック)の影響で輸入コストが増大し、発電コストの大半を占める燃料費が高騰し経営を圧迫している。

FIT制度では、発電した電力を一定期間、固定価格で買い取る仕組みが取られており、発電コストが上昇しても売電価格には反映されない。つまり、利益を得るにはコストを抑えるしかないが、現状ではその前提が崩れている。特に、燃料を海外から輸入する事業者は、輸送費も含めて大きな打撃を受けており、経営破綻に至るケースが増えている。

木質バイオマス発電は発電に必要なコストが高く、FIT制度による高い買取価格がなければ事業の採算を確保することは難しい。このため、このままでは減価償却を終えた設備の稼働停止や事業撤退が加速する恐れがある。
図表1 木質バイオマス発電 導入容量の推移

2――バイオマス発電の意義

2――バイオマス発電の意義

このようにバイオマス発電は困難に直面しているが、一方で日本のエネルギー政策において重要な役割を担っている側面もある(図表2)。

バイオマス発電は、再生可能エネルギーの一つとして、二酸化炭素排出量の削減に寄与する。植物由来の資源を燃料とするため、燃焼時に排出される二酸化炭素は、植物の成長過程で吸収されたものであり、大気中の二酸化炭素を実質的に増加させない「カーボンニュートラル」の性質を持つ。この点において、化石燃料に依存した発電方式と比べて地球温暖化対策に有効である。

また、バイオマス発電は天候に左右されず、安定した出力が見込めるため、太陽光や風力と異なり「ベースロード電源」としての役割を果たすことができる。これにより、電力供給の安定性が確保されることが期待される。

さらに、バイオマス発電は間伐材など木材を燃料として利用するため地域の林業と密接に関係しており、その振興にも資する。日本では手入れが行き届いていない人工林が多く、間伐材や林地残材の活用は森林の健全な整備と同時に燃料供給の安定化につながる。このような森林整備の推進は土砂災害の防止や生態系保全にも寄与し、地域環境の持続可能性を高める。

政府の「エネルギー基本計画」でも、バイオマス発電は地域分散型・地産地消型エネルギーとして位置付けられている。一方で、燃料の収集・運搬コストや安定供給の課題も指摘されており、今後は地域の農林業と連携した効率的な燃料調達体制の構築が求められる。加えて、環境負荷の少ない燃料の選定や熱電併給などエネルギー利用の高度化も進める必要がある。

このように、バイオマス発電は環境、エネルギー、産業、地域振興の観点から多面的な意義を持つ重要な発電方式である。
図表2 バイオマス発電の意義

3――国内林業は復調へ

3――国内林業は復調へ

バイオマス発電は、木材などの有機資源を燃料として利用する再生可能エネルギーであり、国内林業との共生が期待されている。特に、間伐材や未利用材を活用することで、森林の健全な管理と林業の収益向上が可能となる。バイオマス発電への燃料となる端材の安定供給には林業の振興が不可欠である。

近年、日本の林業は長らくの低迷期を経て、徐々に復調の兆しを見せている。国内の木材自給率は最も低かった2002年(18.8%)から近年では上昇に転じている(図表3)。かつては安価な輸入材に押され、国産材の需要が減少し、山林の管理放棄や林業従事者の減少が深刻化していた。しかし、輸入木材の不足や価格高騰により、輸入木材の代替として国産材の需要が再び高まっている。

環境問題や脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速する中で、再生可能な資源である木材の価値が見直されている。特に、木造建築の促進や公共建築物への国産材利用の推進など、国や自治体による支援策も国内の林業の再生を後押ししている。

また、ICTやドローン、GPSを活用した「スマート林業」の導入により、生産性と安全性が向上し、若年層の就業も促進されている。木材自給率も上昇傾向にあり、林業を取り巻く経済環境にも改善が見られる。一方で、担い手不足や高齢化、収益構造の脆弱さといった課題も依然として存在する。今後は、持続可能な森林経営と地域活性化の両立を目指し、政策と現場の連携強化が求められている。

バイオマス発電の燃料となる端材の供給は、木材の生産量の増加に従って増加していくことが考えられる。現状ではバイオマス発電の燃料の多くを輸入に頼っているが、地産地消や燃料の安定的な確保といった観点からは国内産の燃料を活用することが望ましい。
図表3 木材供給量と自給率の推移

4――バイオマス発電の持続的な活用に向けた課題

4――バイオマス発電の持続的な活用に向けた課題

バイオマス発電は再生可能エネルギーの一つとして期待されているが、その活用を持続可能に進めるには慎重な対応が求められるだろう。まず、発電量の目標については、必要以上に増加させることが必ずしも望ましいとは限らない。需要以上に設備を拡大すれば、バイオマス燃料の獲得競争が激化し、価格の高騰や資源の偏在による地域間の不均衡を招く恐れがある。

特に日本では、森林資源のポテンシャルは存在するものの、その活用には林業とのバランスを考慮する必要がある。端材や間伐材のような未利用木材の活用は望ましいが、過剰な伐採や輸送コストの問題を抱える場合もあるため、地域資源の持続的な利用計画が求められる。

さらに、バイオマス発電における燃料調達の不安定化は、既存事業者にとって事業の継続性を脅かし、倒産リスクを高める要因となりうる。政策の変更や支援の不透明性は、事業投資の判断における予見可能性を損ない、投資の抑制や市場の混乱を引き起こす恐れがある。

加えて、固定価格買取制度終了後に採算確保のためにバイオマス発電から化石燃料発電に転換する事例が増えれば、脱炭素の観点から逆行する懸念もある。

このため、バイオマス発電の持続的活用には、発電設備の数量を適切にコントロールし燃料供給と環境負荷のバランスをとりながら地域資源を活かす戦略的な政策運用が求められる。

バイオマス発電は脱炭素だけではなく、日本の森林の維持・管理や地域社会の活性化といった点での貢献が見込まれる重要なエネルギー源である。持続可能な社会の構築に向けたバイオマス発電の活用に期待したい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年06月03日「基礎研レター」)

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金融研究部   准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、ESG

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

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