2025年04月22日

小学生から圧倒的人気【推しの子】-今日もまたエンタメの話でも。(第4話)

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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4――小学生女子から圧倒的な支持を受ける【推しの子】

特に小学生女子を中心に、【推しの子】の人気は非常に高く、その支持の高さは複数の調査からも明らかになっている。たとえば、ADKマーケティング・ソリューションズが2023年7月に実施した「キッズのアニメ・漫画に関する意識・実態調査」8では、全国の4~14歳の男女1,783人を対象に、「直近1カ月間で注目・関心のあるアニメ・漫画作品」を尋ねたところ、小学生(特に低学年)から中学生の女子において『【推しの子】』が最多の回答を集めた。
表1 年齢・性別別に見る【推しの子】と「鬼滅の刃」の人気ランキング(子ども世代)
また、2024年5月号の雑誌『ちゃお』では、小学生女子を対象に「推しアニメ」に関するハガキアンケート9,10が実施され、その結果、第1位に選ばれたのは、【推しの子】だった。主題歌「アイドル」は、前年9月に行われた「好きな曲」ランキングでも1位にランクインしており、作品そのものに加えて、音楽やSNSでのダンス動画といった多面的な要素が重なり、女子小学生から圧倒的な支持を集めていることがうかがえる。

さらに、ニフティ株式会社が子ども向けサイト「ニフティキッズ」で実施した「「推し」に関するアンケート調査11」では、小学生・中学生を中心とする4,944人から回答が寄せられ、「アニメ・マンガの登場人物・キャラクターの推しは誰か?」という問いに対し、小学生では【推しの子】のキャラクターが圧倒的な人気を集め、1位に「星野アイ」、2位に「有馬かな」がランクインした。

このような背景からか、2024年に開催された「東京おもちゃショー2024」では、「プリキュアシリーズ」や「おジャ魔女どれみ」といった従来の女子向けコンテンツと並んで、「星野アイ(推しの子)」のグッズが並ぶ光景が見られた。これに対して、青年誌発のキャラクターである星野アイがこうした文脈で扱われていることに違和感を覚えた大人も多く、SNS上では「なぜここに?」といった声が相次ぎ、ちょっとした話題となった。だが、それほどまでに【推しの子】は子どもたちの日常的な“推し”として定着しているという証左でもある。

このような人気は、調査結果だけでなく、実際のイベント会場でも実感できた。とあるイベント会場で、娘に誘われて来場したという家族に話を聞くことができたが、小学校3年生のその子は、星野アイがデザインされたTシャツを着て、カバンには「B小町」の缶バッジやぬいぐるみを身につけていた。

「【推しの子】ってテレビで見てるの?」と尋ねると、配信されていることは知っているが、年齢制限もあり親の判断で視聴は控えているそうだ。それでも、YOASOBIの『アイドル』をきっかけに作品を知り、YouTubeの公式チャンネルで配信されているB小町の楽曲や、TikTok・YouTubeの“切り抜き動画”やまとめ動画を通して、大まかなストーリーも把握しているとのこと。「本編を見ていなくても、クラスでは話題についていけるし、かわいいシーンを見るのが楽しい」と、笑顔で話してくれた。

親御さんも「いつの間にか家ではB小町の曲や動画が流れるのが当たり前になって、自分もキャラを覚えてしまった」と語っていた。今では一緒にグッズを買いに行き、イベントにも足を運ぶなど、【推しの子】は家族で一緒に楽しめる“共有型コンテンツ”になっているようだ。彼女にとっては、ストーリーを読むのではなく、音楽やキャラクターを通じて【推しの子】の世界を“体験”することが何よりの楽しみなのだろう。

これについては、幼児~小学生向け雑誌『おともだち』『たのしい幼稚園』『Ane♡ひめ』三誌の編集長である浅野聡子氏も指摘しており12、浅野氏によれば、撮影やオーディションで出会うキッズモデルたちから、「すみっコぐらし」や「シナモロール」と並んで「星野アイ」の名前がよく挙がるという。本来は子ども向けではないため、実際に本編を見ている子は少ないとしたうえで、YOASOBIの楽曲と共に流れてくる星野アイのビジュアルの強さが子どもの心を捉えていると分析し、「あの短い映像で心をつかむのは、キャラクターのパワーそのもの」と語っている。
 
8 MarkeZine編集部「今、キッズたちに人気のアニメは?/小・中学生女児の間では『【推しの子】』がTop【ADK MS調査】」2023/09/11 https://markezine.jp/article/detail/43417
9 「「JS研究所」がイマドキ女子小学生(JS)500人に聞いた! JSも夢中になる「推し活」トレンドを発表、JSが“叶えたい願い”第1位は「推しに会うこと」!」2024/07/29 https://adpocket.shogakukan.co.jp/adnews/10310/
10 調査期間:2024年4月3日~30日、応募総数1,273件、集計数1,000件
11 ニフティ株式会社「小中学生の57.5%が推しの熱愛や結婚を「悲しい」と感じる =ニフティ調べ=」2024/10/15 https://ict-enews.net/2024/10/15nifty-6/
12 小川聖子「「Ane♡ひめ キャラ♡フェス」開催決定! 女児向け市場のプロ編集長の考える「かわいい」とトレンドの行方」おともだち・たのしい幼稚園・Ane♡ひめ3誌編集長 浅野聡子インタビュー3 講談社コクリコ 2024/08/05 https://cocreco.kodansha.co.jp/anehime/news/anehime_character_festival/L0HF8

5――小学生の「将来就きたい職業

5――小学生の「将来就きたい職業」も「アイドル志望」が再び人気に

このように、物語そのものではなく、キャラクターの見た目や音楽といった“表層的な魅力”から【推しの子】に惹かれている子どもたちは、決して少なくない。加えて、AKB48の登場以降、アイドルという存在が“遠い憧れ(偶像)”から“身近な存在”へと変化し、さらにSNSの普及によって、自己表現や承認欲求を満たす手段として「自分も発信する側になる」という意識が広がっている。YouTuberやTikToker、インフルエンサーといった「見られることを仕事にする人たち」への憧れ自体も身近なモノになっている。

実際、株式会社クラレが2024年4月に小学校に入学する子どもを対象に行った「将来就きたい職業調査」13,14では、「芸能人・歌手・モデル」が12.4%と前年(7.3%)から大きく上昇。2010年代にAKB48が社会現象化して以降、落ち着いていた“アイドル志望”の数値が久々に10%を超え、2014年(時期で言うとAKB48が『恋するフォーチュンクッキー』をリリースしたころ)のピークに迫る勢いだという。その内訳の8割以上が「アイドル志望」であることからも、再びアイドルへの憧れが高まりつつあることがうかがえる。
図2 女の子が「将来就きたい職業」における「芸能人・歌手・モデル」の推移
こうしたなかで、YOASOBIが“アイドル”という多くの子どもたちにとって身近で魅力的なテーマを用い、完全無欠のアイを描いた『アイドル』という楽曲を発表したことは決定打となった。その楽曲をきっかけに【推しの子】という作品に出会い、ルビーというアイドルを目指す女の子に感情移入していく。歌・キャラクター・ファッション・自己投影――すべての要素が、今の小学生女子の関心と直結している。彼女たちにとって、アイやルビーは“物語の登場人物”である前に、「なりたい自分」の象徴なのだ。
 
13  株式会社クラレ 2024年版 新小学1年生の「将来就きたい職業」、親の「就かせたい職業」 男女総合1位「ケーキ屋・パン屋」、トップ3は変わらず 2024/04/03 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000054.000030817.html
14 ちなみに2025年度版で9.7%とポイントを落としたが2位をキープ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000071.000030817.html

6――子どもとコンテンツの距離感

6――子どもとコンテンツの距離感

【推しの子】のヒット要因のひとつとして、小学生女子を対象としたコンテンツの空白があるのではないか、という指摘がある。たとえば「プリキュア」シリーズは4歳から9歳をメインターゲットにしているが、それ以降、小学校高学年を主軸としたアニメ作品は意外と少ない15。高学年になるにつれ、彼女たちはドラマや音楽番組など、より大人向けのコンテンツに触れ始めるようになる。姉や母など身近な大人が消費しているメディアを自然と共有することで、消費対象は徐々に“年上向け”へと移行していく。【推しの子】も、そうした“背伸び”をしたい層にとっての受け皿として機能しているといえるだろう。

たしかに、過度な露出や刺激的な描写が含まれていれば、子どもがそのまま享受するのは望ましくない。だが、【推しの子】のビジュアルや楽曲、キャラクター性に関しては、青年誌掲載作品でありながらも、子どもが触れても必ずしも問題とは言えない程度にとどまっているように見える。むしろ、プライムタイムのテレビ番組や、子どもに人気のあるYouTuberの動画の方が、グレーゾーンに近い内容を含んでいることすらある。

前述したとおり、原作者が「親御さんのケアのもとで楽しんでほしい」と呼びかけているように、コンテンツの供給側は本作が青年誌掲載作品であることを踏まえた上で、子どもたちからの需要に応えようとしている。問題はむしろ、消費者側、特に“子どもたちの情報取得環境”のほうにある。どれだけ親が注意していても、ネット上には、子どもにとって有害なコンテンツや広告があふれており、SNSでは成年向けの表現を含む投稿も日常的に目に入ってくる。年齢フィルターやミュートワードを設定したところで、それらをすり抜けてしまうことは珍しくなく、もはや完全な“遮断”は現実的に困難だ。

こうした背景のなかで、子どもたちにとって【推しの子】のようなコンテンツを“どう楽しませるか”は、ますます難しい課題となっている。特に本作のように、ビジュアルや音楽は子どもを強く惹きつけながらも、ストーリーにはセンシティブな描写が含まれる場合、保護者や大人たちはどこまでを許容し、どこから制限すべきかの判断を常に迫られる。このような「子どもとコンテンツとの距離感」は、現代の情報環境において一筋縄ではいかない問題と言えるだろう。

『鬼滅の刃』のときにも同様の議論があった。人気はあれども、過激な描写を理由に「子ども向けではない」とする声も多く、子どもに見せるべきかどうかが問われた。だが、興味を持った子どもは、たとえ禁止されても、何らかの手段でそのコンテンツに触れようとする。重要なのは、遠ざけることではなく、“どこまでなら安全か”を大人が見極めながら付き合わせてあげることではないだろうか。

【推しの子】も例外ではない。少し検索すれば、ストーリー上のセンシティブな展開に容易にアクセスできてしまう。確かに、「一切見せない」ようにすれば、もっとも安全なのかもしれない。しかしそれは現実的とは言い難く、また、子どもたちの間で話題になっているコンテンツを一方的に取り上げてしまうことは、友人との会話や共有体験の機会を奪ってしまう可能性もある。何より、子ども自身が「好き」と思ったものを制限されることは、大人が想像する以上に“心の自由”を損なう行為になってしまう。

だからこそ、【推しの子】のようにセンシティブな表現を含むコンテンツであっても、キャラクターのビジュアルや音楽といった“表層的・記号的な要素”にとどめておくという形で、あらかじめ線引きをしながら、安全な消費環境を整えていくことが求められる。 “ゾーニングすべきコンテンツ”と“ゾーニングが難しい情報環境”が併存する現代において、それこそが、子どもたちとコンテンツを無理なくつなげる一つの方法なのではないだろうか。

もちろん、それもまた理想論に過ぎない。子どもたちの「もっと知りたい」「本編を見てみたい」という好奇心を完全にコントロールすることはできないし、家庭でどれだけ注意していても、学校や友人との関係のなかで、より強い情報に触れてしまう機会は日常的に存在する。つまり、ゾーニングや、ペアレンタル・コントロール16とは制限することだけではなく、適切な距離感を一緒に考えるプロセスそのものではないだろうか。子どもたちが安心して「好き」を楽しめるように、大人ができることは、完全に守ることでも、押しつけることでもなく、寄り添いながら伴走していくことでもあるのだと思う。
 
15 早川清一朗「小学生の女の子が『推しの子』展に殺到した理由 少女たちが観るアニメがない?」マグミクス2024/05/16 https://magmix.jp/post/231155
16 「ペアレンタル・コントロール」と「ゾーニング」は、どちらも子どもが不適切なコンテンツに触れることを防ぐための仕組みだが、その担い手や手段、適用範囲には明確な違いがある。ゾーニングは、主に企業やメディアなどコンテンツの提供側による取り組みであり、視聴者の年齢や時間帯に応じて番組やコンテンツの配置を調整することで、社会的に適切な視聴環境を整えることを目的としている。たとえば、暴力や性的な表現を含む映画や番組は深夜帯に編成し、子ども向けのアニメや教育番組は朝や夕方に放送するといった措置がこれにあたる。また、映画やゲームにおける年齢別レイティング(G、PG12、R15+など)や、YouTubeなどのプラットフォームにおける年齢制限機能も、ゾーニングの一種といえる。
一方で、ペアレンタル・コントロールは、家庭内で親や保護者が担う個別的な対応であり、子どもの年齢や成熟度に応じて視聴コンテンツや使用時間を管理・制限する行為を指す。これは、テレビやスマートフォンに設定された視聴制限機能の利用や、インターネット上のフィルタリングソフト、アプリの使用制限などを通じて実施される。たとえば、「夜9時以降はYouTubeを見ない」「R指定の映画は見せない」といった家庭内のルールづくりも、ペアレンタル・コントロールの具体的な一例である。
このように、ゾーニングが「社会全体に向けた構造的な枠組みづくり」であるのに対し、ペアレンタル・コントロールは「個々の子どもに対する直接的な関与」である。両者はそれぞれ異なるレベルで機能しながら、相互に補完し合うことで、子どもにとって安心・安全なメディア環境を支えている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年04月22日「基礎研レター」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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