コラム
2024年12月18日

α世代がやってくる-α世代論をはじめる前に書いたゆるい読み物

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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1――アラサーのZ世代、中学生になるα世代

筆者がα世代(Generation Alpha)に関するレポート1を出した2020年は、ようやく日本のメディアでもZ世代(1996年~2012年に生まれた層)という言葉が取り扱われるような時代であった。Z世代という言葉もまだ馴染みがない中で、その次の世代が近々台頭してくると述べたところで、「まだその話題は早すぎる」「次はいいからまずはZについて書いてくれ」と言われたことを覚えている。それから4年が経ち、Z世代という言葉は若者を表現する便利ワードとして、様々な領域で耳にするようになった。一方で、世代の変遷を見る図表などにはα世代という文字も併せて記載されるようにもなり始めた。
図1 世界と海外の世代区分の比較表
α世代とは2010年から2024年の間に生まれた層3を指す。2020年当時、Z世代の上は24歳前後、α世代は10歳前後であったが、Z世代は正に消費のトレンドを作る世代、α世代は現状市場に与える影響力は大きくはないものの、Z世代との間の価値観や生活様式の差が今後の消費文化に影響を与えていく世代と考えていた。とりわけAIとの近さが大きな差になると予想していた。

そして2024年現在、Z世代の上は28歳前後、α世代は14歳前後となったが、Z世代のなかにはいわゆるアラサーも増えてきており、所得も増え、結婚して、家庭をもって、仕事で役職につき始めるといった、それ以前の世代と同じライフコースに身を置くようになり、その前のY世代との価値観の差が縮まっているようにも見える。その結果、括りはZ世代だが、Z世代の特徴としてメディアで取り上げられるようなそれ以前の世代が理解できないような価値感を、同じZ世代でも理解できなくなっているケースもあるようだ。時間の経過に伴い、Z世代は、上はアラサー、下は中学生と社会的な位置づけが大きく変わってしまい、その価値観をお互い理解しろという方に無理があるのだ。

一方α世代は14歳前後となり、少しずつ市場においてもその存在感が増してきており、来年以降はZ世代だけではなくα世代についてのレポートも積極的に執筆できるだろう。今回のコラムでは、本格的な考察や分析ではなく、表面化し始めてきたα世代の興味深い消費行動の事例を紹介していきたいと思う。
 
1 廣瀬涼(2020)「ジェネレーションαの時代-Z世代の次を考える」研究員の眼2020/07/20
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64985?site=nli
2 小々馬敦(2024)『新消費をつくるα世代』日経BP
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64985?site=nli
3 Z世代同様、人によって定義が異なる

2――プログラミング・ネイティブ

中高生からの人気が高いビデオゲーム『マインクラフト(Minecraft)』。毎日320万人、毎月1.7億人がその空間でプレイしており、全世界のZ世代の10人に1人がプレイしているとも言われている。何をどうやって遊ぶのかを自分で決めることができ、また決まったスタートやゴールを持たないなど自由度の高いゲームだ。論理的思考力・創造性・問題解決力を養うことができることから、プログラミングやアクティブラーニングに有用とされている。特に小学校では2020年、中学校では2021年、高校では2022年からプログラミング教育が導入されており、算数や理科、国語といった科目の中にプログラミングを学ぶ機会が登場しているという。そのような学習環境の中で、子どもを対象にしたプログラミング教室の需要も高まっており、中でもマインクラフトを使用したプログラミング教室市場が成長しているようだ。株式会社KEC Mirizが開発、運営、販売事業を行う小学生向けプログラミング教室「プロクラ(プログラミングクラウド)」は、全国に460教室以上展開している。実際にプログラムのソースコードを書く経験を積むことができるなど、今後“C言語”や“JavaScript”など様々なプログラミング言語を扱う上での基礎を学ぶことができるようだ。他にもブロック玩具である「レゴ(LEGO)」を活用したロボットプログラミングやAIを活用した塾も存在する。

1995年にWindows95が登場し、インターネットが我々の身近なものとなったことを機に、それ以前をデジタル・イミグラント、それ以降デジタル・ネイティブと呼んでいる。Z世代がデジタル・ネイティブならば、学校教育という身近な場所でプログラミングに触れていくα世代は、プログラミング・ネイティブと呼んでいいだろう。実際にプログラミングに詳しすぎる子どもたちも現れ始め、大人たちがその技術に脱帽しているといった話をしばしば耳にする。

3――スマートデバイスへの順応

生まれた時からスマホやタブレットが存在するα世代。2歳前後で十分にタッチパネルによる操作性の仕組みを理解しており、筆者の知人の子供も自分で動画サブスクリプションサービスからお気に入りのアンパンマンのエピソードを探して視聴している。自身に与えられるエンターテインメントの多くが、スマホやタブレットに映し出されるコンテンツだからこそ、日々自分の気になるモノ(画面の箇所)を触れることが、自身の意思決定となっている。

今や日常でのスマホやタブレットの活用に留まらず、ショッピングモールの館内マップや、レストランでの注文もタッチする事がデフォルトになりつつあるが、このように「触れる事」が当たり前な環境に身を置いていると珍事が起きたりする。ある芸能人の子供の話だ。車を運転している最中ふとルームミラーを見ると、子どもが、親指と人差し指を開いたり閉じたりしており、理由を聞くと「遠くにある看板が良く見えないから」と返答したという。その子はタブレットとの接触を通じて、見にくくとも指を広げれば拡大(ズーム)できると思い込んでいたというのだ。知人の幼稚園教諭に話を聞くと、それに類似した行動が散見されるらしく、例えば絵本などを見ていて無意識にズームしようとし、タブレットではないことに気が付いてハッとした顔をしているのだという。

タッチパネルの話で言えばSNSで、子どもに3か月間で3度も液晶テレビを壊されたという投稿を目にした。その投稿に対して家電量販店員が今の子供は幼少期の頃からタブレットを触っているため、画面がある物は全部タッチできると思っており、それで反応がないと画面を強く押してしまうという意見を投稿していた。その子どもがその様な理由で壊したかは別として、スマートデバイスに順応していればしているだけ、スマートデバイス基準で行動に移しても仕方がないのかもと、思った次第だ。

4――さいごに

前述したスマートデバイスへの順応の話は一般的な話ではないかもしれないが、IT技術がより身近なモノになったことの現れとも言えるだろう。また、マインクラフトはメタバースの成功例の1つであるが、メタバースやVR技術がスマートデバイスのように今後より身近になっていくからこそ、その技術に順応した世代とそうでない世代で行動に差が生まれていくだろう。

これだけ見てもα世代はずいぶん違うと感じたと思う。今後はα世代についてウオッチしながら、その行動について考察や分析を深めていきたい。

(2024年12月18日「研究員の眼」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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