2025年04月22日

小学生から圧倒的人気【推しの子】-今日もまたエンタメの話でも。(第4話)

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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今回の取材先

TVアニメ【推しの子】AnimeJapan 2025スペシャルステージ
場所:東京ビッグサイト「AnimeJapan(アニメジャパン)2025
日時:2025年3月22日

1――KADOKAWAを牽引する【推しの子】ブーム

1――KADOKAWAを牽引する【推しの子】ブーム

KADOKAWAが2025年2月6日に発表した2025年3月期第3四半期(4~12月期)の連結決算1によると、売上高は2,065億5,870万円(前年同期比10.5%増)、営業利益は158億3,800万円(同18.8%増)、経常利益は172億2,600万円(同28.5%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益は73億6,600万円(同16.7%増)であった。中核事業である出版を軸に、自社・他社のIP(知的財産)を活用したアニメ展開や、ゲーム・グッズ販売、国内外での配信によるライセンス収入が業績をけん引している。

中でもアニメ事業は好調で、売上高は379億円(前年同期比15.5%増)、セグメント利益は47.5億円(同30.1%増)と、前年を大きく上回った。特筆すべきは、原作を集英社が手がける『【推しの子】2』のアニメ売上であり、出版収益を含まないにもかかわらず、単体で50億円を超える実績を残している。

【推しの子】は、前世の記憶を持ったまま“推し”のアイドルの子どもとして転生する青年を主人公とした物語だ。サスペンス要素や現代社会の歪みを映し出す展開、芸能界の光と影に切り込むリアルな描写が、本作の高い人気を支えている。コミックスの累計発行部数は2024年8月時点で1800万部を突破。2023年にはアニメ化され、主題歌であるYOASOBIの『アイドル』は、2025年4月現在でYouTube再生回数5.8億回、Billboard JAPANチャートではストリーミング累計再生数8億回を超えるなど、社会現象とも言えるヒットを記録した。この主題歌の爆発的ヒットも後押しとなり、アニメ第1期は大成功を収めた。2024年にはアニメ第2期が放送され、舞台化や実写ドラマ化など、メディアミックスの展開もますます広がっている。
 
1 株式会社KADOKAWA 「2025年3月期 第3四半期決算を発表」2025/02/06
  https://www.kadokawa.co.jp/topics/13256/
2 公式サイト:https://ichigoproduction.com/
 公式X: @anime_oshinoko

2――「TVアニメ【推しの子】

2――「TVアニメ【推しの子】AnimeJapan 2025スペシャルステージ」に行ってきた

こうした好調な業績を背景に、2025年3月22・23日に東京ビッグサイトで開催された世界最大級のアニメイベント「AnimeJapan 2025」でも、KADOKAWAは注力タイトルとして『【推しの子】』を大々的に展開していた。筆者も22日に会場を訪れ、「TVアニメ【推しの子】AnimeJapan 2025スペシャルステージ」にプレスとして参加した。ステージには主要キャラクターを演じる5人の声優陣が登壇し、第2期の振り返りや第3期に関する新情報の発表が行われたほか、アニメ公式YouTubeチャンネル登録者数100万人突破を記念した“金の盾”授与式も実施され、会場の熱気は終始高まっていた。中でも、第3期の最新ティザービジュアル「sideアクア」の公開には大きな歓声が上がった。2月に開催された「苺プロダクション☆ファン感謝祭2025」で先行公開されていた「sideルビー」に続くビジュアルとして、ファンの期待が一層高まる演出となった。
図1 「TVアニメ【推しの子】AnimeJapan 2025スペシャルステージ」に登壇した声優陣
第3期の放送は2026年を予定しており、しばらく先ではあるが、アニメ【推しの子】への関心と熱狂は衰える気配を見せていない。今後もKADOKAWAの成長を支えるキータイトルとして、国内外でのさらなる展開が期待される。

3――アイドルだよ!アイドルのたこ焼きだよ!!

3――アイドルだよ!アイドルのたこ焼きだよ!!

【推しの子】は、メディアミックス展開にとどまらず、さまざまな企業とのコラボレーションも積極的に行っている。昨年、その一環である「築地銀だこ」3のコラボたこ焼きを買いに行ったときのこと。列に並んでいると、後ろから明るい声が聞こえてきた。
「アイドルだよ!アイドルのたこ焼きだよ!!」

振り返ると、幼稚園児くらいの女の子が、店頭のポスターに描かれた「アイ(星野アイ)」を指さしながら、父親にたこ焼きをねだっていた。その子にとって、ポスターの中のアイは【推しの子】の登場人物というよりも、YOASOBIの『アイドル』に登場する“かわいい女の子”として映っているようだった。その時、ふと作者の一人である横槍メンゴ氏のX(旧Twitter)の投稿を思い出した。
 
推しの子、予想外にお子様にも楽しんでいただけて大変に大変にありがたいのですが 掲載誌は青年誌ですしターゲット層的に過激描写もありますから親御さんのチェックやケアの元読んでいただけると安心だなあ4

【推しの子】は、ビジュアルや音楽といった親しみやすい要素が前面に出ていることもあり、子どもたちからも広く支持を集めている。キャラクターの可愛らしさや、楽曲『アイドル』の大ヒットは、幼稚園や保育園のお遊戯会などにも波及しているほどだ。しかし、本作は青年誌に掲載されており、ストーリーには芸能界の闇を描いた過激な表現も多く含まれる。だからこそ、子どもたちが触れている【推しの子】は、音楽やキャラクタービジュアルといった“デザインや表層の部分”であり、物語の本質とは異なるのだ。作者自身が「親のチェックのもとで」と呼びかけているのは、そうした表と裏のギャップを親がきちんと把握し、子どもに対して必要なケアをしてほしいというメッセージでもある。

この投稿は、2023年7月にアニメ第1期の放送が終了した頃に投稿されたものであり、当時すでに子どもたちの間でも高い人気を博していたことがうかがえる。それから約1年半が経過し、市場はさらに拡大。今では“子ども向け【推しの子】市場”と呼べるような動きも見られるようになった。たとえば、BOSS E・ZO FUKUOKAの6Fイベントホールで開催された、360°空間でマンガの世界に没入する展示「マンガダイブ『【推しの子】』スーパー・イマーシブライブ」では、2024年9月21日に小学生向けの「【推しの子】オリジナルペンライト工作ワークショップ」5が行われた。この日は小学生の入場が無料、同伴の大人は有料という料金設定となっており、まさにこの日は小学生がメインの日だったといえる。

筆者が実際に訪れた「【推しの子】祭り in 西武園ゆうえんち」や、「有馬温泉×【推しの子】有馬温泉を盛り上げちゃおう! presented by JR東海」などのコラボイベントでも、いわゆるアニメファンだけでなく、家族連れの姿が多く見られた。楽曲に合わせてサイリウムを振る子どもたち、親の手を引きながらスタンプラリーに奔走する姿は、【推しの子】が“家族で楽しめるコンテンツ”として定着しつつあることを物語っている。中には、2024年7月に発売されたユニクロとのコラボTシャツ「UT」を着ている子どもたちの姿もあった。ユニクロ公式サイトでは、コラボUTのサイズ展開が100~160cmと、小さな子どもから小学生までを明確にターゲットにしていることがわかる6

また、集英社が小中学生向けに展開している「集英社みらい文庫」7からは、【推しの子】のノベライズ版が出版されているほか、2024年9月2日にはテレビ東京系列の子ども向け番組『おはスタ』にて【推しの子】の特集が放送されるなど、小学生の日常的な会話の中でも自然に登場する“流行コンテンツ”として確固たる地位を築いている。
 
3 築地銀だこ×【推しの子】コラボサイトhttps://campaign.gindaco.com/gindaco_2024_08/ (2025年4月15日閲覧)
4 横槍メンゴ(@Yorimen)Xアカウント2023年7月13日の投稿より引用。https://x.com/Yorimen/status/1679242012099477504
投稿全文は「推しの子、予想外にお子様にも楽しんでいただけて大変に大変にありがたいのですが 掲載誌は青年誌ですしターゲット層的に過激描写もありますから親御さんのチェックやケアの元読んでいただけると安心だなあ
あと私の過去作も基本的に絵は同じでも内容はかなり大人向けのものばかりなので自分で本を選び取る年齢になるまでは待っていただくのが無難な気がしています 帯にそういうの明記できればいいんだけどね 過去作まで遡って応援したい!のお気持ちは大変ありがたく感じております」と続く
5 マンガダイブ「【推しの子】オリジナルペンライト工作ワークショップ」開催決定!」2024/09/19 https://www.mangadive.jp/news/post-16/
6 ユニクロオンラインショップ「【推しの子】UT」
https://www.uniqlo.com/jp/ja/products/E471990-000/00?colorDisplayCode=09&sizeDisplayCode=120 (2025年4月15日閲覧)
7 集英社みらい文庫 https://miraibunko.jp/book/978-4-08-321867-5 (2025年4月15日閲覧)

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(2025年04月22日「基礎研レター」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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