2025年04月15日

さらなる高成長が予想されるインド保険市場-今後5年間の収入保険料平均増加率は、生損計10%、生保9.5%-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――引き続き著しい成長が予想されるインド保険市場

Swiss Re Instituteは今年1月、急成長を続けるインド保険市場についてのレポートを公表した1。同レポートによれば、経済成長、デジタル化、規制の整備を背景として、インドの保険市場(生損保計)は、2029年までの期間において、年平均で10.0%増加し、新興諸国平均(7.2%)、世界平均(4.8%)、(生保では、同9.5%、7.6%、5.0%)を大きく上回ることを予測するとともに、G20諸国の中でも最も急速に成長する、とされている2

また、上記、今後5年間の収入保険料増加率は、表にはないが過去5年間(2019年-2024年)の年平均増加率(生保・損保計6.8%、生保6.9%)を大幅に上回っている。
【図表1】 インドの保険市場見通し
 
1 Swiss Re Institute「India's economy and insurance market: growing rapidly, but mind the risk hot spots」(2025年1月14日)。当レポートでは、好調な経済に支えられ、引き続き保険マーケットは著しい成長を予想しているが、大都市における災害への脆弱性にリスクが潜んでいる、と指摘している。
2 なお、インドでは、生保の収入保険料は、生損保合計の74%と、約4分の3を占めている。

2――世界におけるインド生保市場

2――世界におけるインド生保市場

急成長が予想されるインド生保市場だが、2023年収入保険料における世界のマーケットでの位置づけを示したのが(図表2)である。

2024年にSwiss Re Instituteが公表3した2023年の世界の生保収入保険料では、インドは世界第7位となっている4(図表2)。
【図表2】2023年 収入保険料(生保)世界トップ10市場実績(単位;10億ドル)
前掲のSwiss Re Instituteのレポートには、世界の生保市場におけるインドの順位についての将来予測は記載されていないが、昨年5月にアリアンツが公表したAllianz Global Insurance Report2024によれば、2034年には、米国、中国・に続き、世界第3位となることが予想されている。
【図表3】2034年各国の生保収入保険料(上位10か国、単位10億ドル)
2022 年 3 月に、新長官Shri Debasish Panda 氏が就任して以来、インドの保険監督当局であるIRDAI(Insurance Regulatory and Development Authority of Indiaインド保険規制開発局)は、2047 年までに、すべてのインド国民が適切な生命保険、医療保険、損害保険に加入し、すべての企業が適切な保険ソリューションによってサポートされる"Insurance for All"の実現を掲げ、実現に向けた規制改革の検討、実施がされてきたところである5。インド政府 は、国民を経済的に豊かにするための重要なツールとしてデジタル技術に着目し、様々な分野でデジタル化を進めており6、2024年3月20日には、保険の購入、請求の決済、その他の機能などの保険サービスを提供するオンラインプ

フィッチでは7、「インドにおける生命保険の成長は、生命保険商品のメリットに対する認知度の低さによって妨げられて」おり、「よりよい消費者教育が必要とされている」とされている。この課題が解決されれば、低コストのマイクロ保険や、携帯電話を通じての保険販売等により、生命保険は、低賃金層を含めた広大な未開拓層について、開拓のチャンスが到来する可能性がある、という。

一方、米国では、生保販売には「人によるコンサルが必要」と考えられており、インシュアテック等も、オンラインによるダイレクト販売からは撤退の方向にある、とされている8 中で、インドのチャレンジングな取組みの行方は、どうなっていくのか。

著しい成長を遂げつつ、変容を続けるインド生保市場については、引き続き、注視していきたい。
 
3 Swiss Re Institute 「World insurance 2024」。
4 なお、インドは、2022年の生保収入保険料でも世界第7位だった(Swiss Re Institute「World Insurance 2023」)。
5 安井義浩「2047 年までに、すべての人に保険を(インド)-インドの保険監督当局(IRDAI)の検討状況を紹介」『保険・年金フォーカス』(2024年11月19日)(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/80258_ext_18_0.pdf?site=nli)では、直近のインド保険監督当局局(IRDAI)の取組みについて紹介されているほか、Shri Debasish Panda 氏が就任して以来のインドの規制改革の動きについては、以下の一連の中村 亮一『保険・年金フォーカス』にて紹介されている。
「インドの保険監督規制を巡る動向-IRDAI による一連 の改革の状況(その1)-」(2022 年11 月9 日)
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/72907_ext_18_0.pdf?site=nli、
「インドの保険監督規制を巡る動向-IRDAI による一連 の改革の状況(その2)-」(2022 年11 月15 日)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72997?site=nli、
「インドの保険監督規制を巡る動向-IRDAI による一連 の改革の状況(その3)-」(2023 年2 月3 日)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=73796?site=nli、
「インドの保険監督規制を巡る動向2023-IRDAI による規制改革等の状況(その1)-」(2023 年7 月20 日)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75471?site=nli、
「インドの保険監督規制を巡る動向2023-IRDAI による規制改革等の状況(その2)-」(2023 年7 月25 日)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=75570?site=nli
6 インドでは、官民あげてデジタル化に力を入れている。その背景も含め、インドにおける生保商品のオンライン販売の状況については、松岡博司「インド生保市場における生保・年金のオンライン販売の動向―デジタル化を梃子に最先端を目指す動き―」『保険・年金フォーカス』(2023年7月19日)にて紹介されている。
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/75462_ext_18_0.pdf?site=nli
7 Fich Solutions Company,BMI「India Insurance Report Q2 2025」より。
8 小著「米国では、生保加入には「人によるコンサル」が不可欠だと考えられている-ニーズは高いが、実績はわずかなインターネット加入-インターネットを経由したダイレクト募集からは撤退の動き」『保険・年金フォーカス』(2024年11月29日)。
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/80372_ext_18_0.pdf?site=nli

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月15日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

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