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韓国は少子化とどう闘うのか-自治体と企業の挑戦-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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自治体の取組み
対象となるのは、住宅を所有していない新婚夫婦(婚姻申告から7年以内)、予備新婚夫婦(結婚予定者)、ひとり親家庭などである。入居にあたっての優先順位は、新生児のいる世帯が最上位に位置し、次に子どものいる新婚夫婦、子どものいない新婚夫婦の順となっている。同順位内で競争が生じた場合には、加点項目に基づいて最終的な入居順位が決定される。
慶尚北道では、2020年から「119子ども幸福保育センター」を運営している。この制度は、緊急時に保育が必要な子育て家庭が、24時間いつでも安心して子どもを預けられる保育施設を提供することを目的としている。
「119子ども幸福保育センター」の最大の特徴は、消防署内に設置されていることと、24時間体制で利用できる点である。2023年には、慶尚北道内のすべての消防署に設置が完了し、年間で9,292人の子どもがこのサービスを利用した。
利用対象は生後3か月から12歳までの子どもで、保育は、育児に関する教育課程を修了し、専門的な研修を受けた女性の義勇消防隊員が担当している。利用料は無料であり、運営にかかる費用はすべて慶尚北道が負担している。
光州広域市では、2024年から「三三五五隣人ケア」事業を実施している。この事業は、近隣に住む信頼できる隣人同士が、必要なときに互いの子どもを預かり合うもので、隣人と協力して子どもを世話する仕組みだ。既存の施設による保育では対応が難しい“隙間の時間”のケアを補完できる点が特徴である。
申請資格は、乳幼児または小学生の子どもを持つ3~5世帯による共同体で、選定されたグループには最大120万ウォンの活動費が支援される。
企業の取組み
富栄グループは、少子化が国家の存続に関わる深刻な問題であると捉え、その解決に向けて企業が率先して取り組むべきだと判断し、このような破格の出産奨励金の支給を決定したが、この大胆な決定は、韓国政府の税制度改定にも影響を与えた。韓国政府は2024年3月に「企業が職員に支給する出産支援金は、子どもが2歳になるまでは金額にかかわらず全額非課税とする」法案をまとめ、企業側の少子化対策を後押ししている。
出産奨励金の効果は、富栄グループの社内にも表れている。2021年から2023年までの間、同社では年間平均23人の子どもが誕生していたが、2024年には5人(約21.7%)増加し、28人が出産奨励金の支給を受けることとなった。
建設管理およびプロジェクト管理サービスを提供するハンミグローバルの取組は思い切ったものである。まず、多子出産を奨励するため、三人目を出産した社員を直ちに特進させる破格の制度を導入した。この制度では、昇進年数や評価に関係なく、三人目を出産すると次の上位職級に昇進する。役職に関係なく、制度が適用されるため、三人目を出産すれば部長でも役員(取締役)に昇進することができる。また、4人目の出産からは、出産直後から1年間、育児ヘルパーの支援が行われ、出産した社員には、子どもの数に関係なく、90日の法定出産休暇に加え、30日の特別出産休暇を有給で付与する。
次に、育児休業を取得した社員が昇進で不利益を受けないように、人事制度を改編し、最大2年間の育児休業期間を勤続年数として認め、休業中でも昇進審査を受けられるようにした。また、新入社員の公開採用において、子どもがいる応募者には書類選考で加点を与える制度を導入し、子育てと仕事を両立できるよう、8歳以下の子どもがいる社員には2年間の在宅勤務を認めることにした。
さらに、結婚を奨励するため、結婚時の住宅購入資金融資支援を拡大し、結婚を控えた社員は、既存の無利子5000万ウォンの融資に加え、年2%の金利(参考までに、韓国住宅公社(Korea Housing Finance Corporation)の住宅ローン金利は、借入期間や金額によって異なり、具体的な金利は2.85%から4.15%の範囲で設定されている。)で5000万ウォンの社内融資を受けられるようにした。
LG電子では、育児休業の取得が難しい社員に対する支援として、「育児期勤務時間短縮制度」を導入している。同社の社員は最大2年間の育児休暇を取得可能であり、その利用方法としては、たとえば「1年間は育児休業を取得し、もう1年間は勤務時間短縮制度を利用する」といった柔軟な選択も可能だ。
また、男女雇用平等法(正式名称:男女雇用平等と仕事と家庭の両立支援に関する法律)に基づく不妊治療休暇についても、法律上は年間最大3日間のうち最初の1日しか有給とされていないところ、独自に計6日間すべてを有給休暇として取得可能にしている。
錦湖(クモ)石油化学は、従来の出産祝い金(第一子50万ウォン、第二子100万ウォン、第三子以上100万ウォン)を、2024年から第一子500万ウォン、第二子1,000万ウォン、第三子1,500万ウォン、第四子以上2,000万ウォンと大幅に引き上げた。また、子どもの小学校入学前後最大1ヶ月の小学校入学育児休業も新設した。
このように、韓国では深刻化する少子化への対策として、国だけでなく自治体や企業も創意工夫に富んだ支援策を打ち出している。住宅支援や育児インフラの整備、出産奨励金、柔軟な勤務制度の導入など、生活のあらゆる側面から子育て世代を支える取り組みが進んでおり、少子化という国家的課題に対して、社会全体で向き合おうとする動きが加速している。
今後、こうした取り組みが他の自治体や企業にもどのように波及していくのか、そしてそれが出生率にどのような影響を与えるのか、その動向に引き続き注目していきたい。
(2025年04月15日「研究員の眼」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/15 | 韓国は少子化とどう闘うのか-自治体と企業の挑戦- | 金 明中 | 研究員の眼 |
2025/03/31 | 日本における在職老齢年金に関する考察-在職老齢年金制度の制度変化と今後のあり方- | 金 明中 | 基礎研レポート |
2025/03/28 | 韓国における最低賃金制度の変遷と最近の議論について | 金 明中 | 基礎研レポート |
2025/03/18 | グリーン車から考える日本の格差-より多くの人が快適さを享受できる社会へ- | 金 明中 | 研究員の眼 |
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