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韓国政府、出生率改善のために育児休業制度を拡大-「パパ育児休業ボーナス制度」と「3+3親育児休業制度」の効果は?-
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
このように出生率の低下が続いている中で、韓国では男性の育児休業取得率が増加している。2002年における男性の育児休業取得者数は78人で、取得割合はわずか2.1%に過ぎなかったが、2021年には29,041人となり、取得割合も26.3%まで上昇した(2022年第1四半期に育児休業を取得した男性は7,993人で前年同期比25.6%増加)。なぜ、最近韓国では多くの男性が育児休業を取得しているのだろうか。
「育児休業給付金」の特例制度である、いわゆる「パパ育児休業ボーナス制度」は、男性の育児休業取得を奨励し、少子化問題を改善するために2014年10月に導入された。同制度は、同じ子どもを対象に2回目に育児休業を取得する親(実際に、2回目は父親が取得することが多い(90%)ので、通称「パパ育児休業ボーナス制度」と呼ばれている)に、最初の3カ月間について育児休業給付金として通常賃金の100%を支給する制度だ(韓国における通常賃金は、基本給と各種手当で構成されており、変動性の賃金(手当)は除外される。通常賃金は、時間外・休日労働手当や退職金を計算するための基準となる。)。
更に「パパ育児休業ボーナス制度」では、最初の3カ月間の支給上限額は1カ月250 万ウォン(263,250円、6月28日の為替レート1円=0.1053ウォンを適用、以下同一)に設定されており、それは1回目に育児休業を取得する際に支給される育児休業給付金の上限額(1カ月150 万ウォン(157,950円))よりも高い。
このように、育児休業を取得しても高い給与が支払われるので、中小企業で働いている子育て男性労働者を中心に「パパ育児休業ボーナス制度」を利用して育児休業を取得した人が増加したと考えられる。実際、2020年における育児休業取得者数の対前年比増加率は、従業員数30人以上100人未満企業が13.1%で最も高い(従業員数10人以上30人未満企業は8.5%、従業員数300人以上企業は3.5%)。
更に2022年からは「パパ育児休業ボーナス制度」が改正され、適用対象が既存の全ての子供から、産まれてから12カ月以降の子供に変更され、父母が順次的に(必ず母親と父親の取得期間がつながる必要はない)育児休業を取得した際に適用される。適用対象を変更した理由は、2022年から育児休業制度の特例として「3+3親育児休業制度」が施行されるからである。
「3+3親育児休業制度」とは、生まれてから12カ月以内の子供を養育するために父母が同時に育児休業を取得した場合、最初の3カ月間について育児休業給付金として父母両方に通常賃金の100%を支給する制度だ。
しかし、まだ韓国では育児や家事の負担は女性側に偏っている。韓国統計庁の「2019年生活時間調査結果」によると、2019年の男性の平日の家事労働時間は48分であり、2014年より9分増加したものの、女性の190分を大きく下回っている。
一方、厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、2020年における民間企業に勤める日本の男性の育児休業取得率は12.7%で過去最高を更新したものの、女性の81.6%とはまだ大きな差を見せている。
日本政府は男性の育児休業取得率を2025年までに30%に引き上げるという目標を掲げており、それを達成するために、2021年6月、男性の育児休業取得促進を含む育児・介護休業法等改正法案を衆議院本会議において全会一致で可決・成立させた。その結果、2022年10月には「出生時育児休業(産後パパ育休)」が新たに創設されることになった。
「出生時育児休業(産後パパ育休)」とは、男性労働者が子どもの出生後8週間以内に4週間までの休業を取得できる制度であり、原則として休業2週間前までの申し出により休暇取得が可能になった(既存の育休制度では原則1ヵ月前までの申し出が必要)。
また、育児休業4週間を分割して2回取得することと、労使協定を締結している場合に限り、労働者と事業主で事前に調整して合意した範囲内で就業することもできるようになった。既存の制度では原則禁止とされていた育休中の就業が認められることになったのは「出生時育児休業(産後パパ育休)」の大きな特徴だと言える。
一方、育児休業期間中に支給される育児休業給付は、育児休業開始から最初の6カ月間は休業前賃金の67%を上限(育児休業の開始から6カ月経過後は50%)としている。専門家の間では育児休業給付の引き上げを主張する声もあったそうだが実現までは至らなかった(日本の男性の育児取得に関しては、久我 尚子(2021)「男性の育休取得の現状-2020年は過去最高で12.7%、5日未満が3割、業種で大きな差」ニッセイ基礎研究所が詳しい)。
今後、日本政府が男性の育児休業取得率30%の目標を実現するためには、もしかすると韓国で実施されている「パパ育児休業ボーナス制度」と「3+3親育児休業制度」が参考になるかも知れない。経済状況の改善や賃金の大幅引き上げを期待することが難しい現状を考慮すると、育児休業中の所得確保は子育て家庭においてとても大事な部分であるからだ。
日韓共に女性に偏りがちな育児や家事の負担を夫婦で分かち合い、ワーク・ライフ・バランスがより実現できる社会が構築され、出生率の改善にも繋がることを望むところである1。
1 本稿は、「少子化が深刻な韓国で育児休業パパが急増している理由」ニューズウィーク日本版 2022年6月30日に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2022/06/33.php
(2022年06月30日「研究員の眼」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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