コラム
2025年04月01日

1, 2, 4, 8, 16, ○, …-思い込みには要注意!

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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日常生活の中では、知らず知らずのうちに、予想や予測をしていることがある。
 
例えば、毎朝、天気予報を見て傘を持っていくかどうかを決める。電車通勤の場合は、混雑具合を予測して出発時間を調整する。自動車通勤の場合は、渋滞しそうな道を避けてルートを選ぶ。仕事を行うときには、締め切りを見越してスケジュールを組む。仕事からの帰りには、家の冷蔵庫の中身を思い出して、不足しそうな食材をスーパーマーケットで買う…。といった感じだ。
 
こうした予想や予測は、何らかの根拠に基づいて行われることが一般的だ。天気予報や渋滞予測のように、メディアで報じられる情報があるときには、それが大いに参考になる。
 
そういう情報がない場合はどうするか。たいていの場合、これまでに経験したことをもとに何らかのパターンや法則を見つけて、それを予想や予測にいかすことになるだろう。
 
そうしたパターンや法則は、どこまで信頼できるものなのだろうか。今回は、この点について、数学で出てくる数列を題材として考えてみたい。

◇ 高校数学で出てくる等比数列とは…

数列と言えば、高校生が数学で学ぶ重要な内容だ。その内容は、社会のさまざまな分野に応用されている。
 
数列の中では、等差数列や等比数列が基本的だ。等差数列は、各項が一定の差で増加していったり、減少していったりする数列をいう。等比数列は、各項が一定の比で増加していったり、減少していったりする数列を指す。「一定の差」や「一定の比」は、それぞれ公差、公比と呼ばれる。
 
高校数学では、nを1以上の整数としたうえで、第n項をnを使った式で表したり、初項から第n項までの合計をnを使った式で表したりすることが、テストで出題されることが多い。
 
この数列のうち、等比数列を用いて、次のような問題が考えられる。
 

(等比数列)
初項1、公比2の等比数列を考えます。
初項、第2項、第3項、第4項、第5項の順に並べると、1, 2, 4, 8, 16となります。
それでは、この数列 (1, 2, 4, 8, 16, ○, …) の第6項 ○ に入る数は何でしょうか?


公比2の等比数列だから、前の項の2倍となるよう数が増えていく。第6項は第5項16の2倍で32だ。第n項をnを使った式で表すとすると、2 n-1 (2のn-1乗)となる。

◇ nの階乗の約数の個数の数列は?

さて、それでは、次の問題はどう考えたらよいだろうか。
 

(nの階乗の約数の個数の数列)
nを1以上の整数としたうえで、nの階乗(n!)の約数の個数を並べた数列を考えます。
初項、第2項、第3項、第4項、第5項の順に並べると、1, 2, 4, 8, 16となります。
それでは、この数列 (1, 2, 4, 8, 16, ○, …) の第6項 ○ に入る数は何でしょうか?


唐突に「nの階乗の約数の個数」などと言われても、なかなかピンとこないだろう。こういうときは、試しにいくつかやってみると理解が進みやすい。
 
n=1のとき、1!=1で、1の約数は1だけなので、約数の個数は1個。
n=2のとき、2!=2で、2の約数は1と2なので、約数の個数は2個。
n=3のとき、3!=6で、6の約数は1, 2, 3, 6なので、約数の個数は4個。
n=4のとき、4!=24で、24の約数は1, 2, 3, 4, 6, 8, 12, 24なので、約数の個数は8個。
n=5のとき、5!=120で、120の約数は1, 2, 3, 4, 5, 6, 8, 10, 12, 15, 20, 24, 30, 40, 60, 120なので、約数の個数は16個。
 
確かに、問題文に示されている通り、1, 2, 4, 8, 16という数列になっている。それでは、○に入る数は何だろうか。ここで、「この数列は、初項1、公比2の等比数列と同じなのではないか」という気がしてくる。
 
「初項から第5項まで同じなのだし、2つの問題を上下に並べて問題文を少し違う表現にしているが、『実は同じものでした』というオチなのではないか。数学的帰納法か何かを使えば、この数列の第n項が2 n-1であることが証明できるのだろう。ということで、○に入る数は、32に違いない…。」
 
こんなふうに考えてしまうと、これまでのパターンや法則にとらわれてしまったことになる。
 
地道に6!つまり720の約数を記していくと、1, 2, 3, 4, 5, 6, 8, 9, 10, 12, 15, 16, 18, 20, 24, 30, 36, 40, 45, 48, 60, 72, 80, 90, 120, 144, 180, 240, 360, 720となり、約数の個数は30個。○に入る数は、30となる。
 
このnの階乗の約数の個数の数列は、1, 2, 4, 8, 16, 30, 60, 96, 160, 270, 540, 792, 1584, 2592, 4032, 5376, …と続いていく。初項1、公比2の等比数列とは異なる形で、増加していく。(なお、「ルジャンドルの公式」を使うと、第n項を数式で書き表すことができるが本稿では割愛する。気になる方は、“Legendre's formula”のキーワードでネット検索をしていただきたい。)

◇ 円周上にn個の点をとり、それらを直線で結んで円を分けてできる領域の個数の数列は?

つづいて、次の問題はどう考えたらよいだろうか。
 

(円周上にn個の点をとり、それらを直線で結んで円を分けてできる領域の個数の数列)
円を1つ考えます。nを1以上の整数として、この円の円周上にn個の点をとります。それをすべて直線で結びます。3つ以上の線が1つの点で交わることはないような場合を考えます。円はいくつかの領域に分けられます。その領域の個数を並べた数列を考えます。
初項、第2項、第3項、第4項、第5項の順に並べると、1, 2, 4, 8, 16となります。
それでは、この数列 (1, 2, 4, 8, 16, ○, …) の第6項 ○ に入る数は何でしょうか?


数列の話をしていたかと思えば、突然、円が出てきて「いったい何だ、これは!」という感じを持たれたかもしれない。唐突なシーンチェンジで読者の皆さんを驚かせたとしたら、大変、申し訳ない。
 
さて、この数列も文章だけでは、ピンとこないだろう。試しにいくつか描いてみると理解しやすい。
 
n=1のとき、円周上に1個だけ点をとっても直線で結ぶことはできない。領域は円全体の1個だ。
n=1のとき
n=2のとき、円周上に2個点をとると直線1本で結ぶことができる。円はこの直線で2つに分かれるので、領域の個数は2個だ。
n=2のとき
n=3のとき、円周上に3個点をとるとそれらを直線で結んで円に内接する三角形ができる。その三角形の外側に3つ、内側に1つで、領域の個数は4個となる。
n=3のとき
n=4のとき、円周上に4個点をとるとそれらを直線で結んで、領域の個数は8個となる。
n=4のとき
n=5のとき、円周上に5個点をとるとそれらを直線で結んで、領域の個数は16個となる。
n=5のとき
確かに、問題文に示されている通り、1, 2, 4, 8, 16という数列になっている。それでは、○に入るのは何だろうか。ここで、「今度こそ、初項1、公比2の等比数列と同じなのではないか」という気がするか。それとも、「どうせまた、第6項でそれまでの項と違った増え方をするのだろう」と思うか。なかなか予想はしづらいところだ。

そこで、n=6のとき、円周上に6個点をとって、それらを直線で結んでみる。
n=6のとき
円を分けてできた領域の数は、31個。○に入る数は、31となる。
 
円周上にn個の点をとり、それらを直線で結んで円を分けてできる領域の個数の数列は、1, 2, 4, 8, 16, 31, 57, 99, 163, 256, 386, 562, 794, 1093, 1471, 1941, …と続いていく。初項1、公比2の等比数列や、nの階乗の約数の個数の数列とは異なる形で、増加していく。
 
この数列は、「モーザーの円の最大分割問題」の答えとして知られているもので、第n項は、

(n4 - 6n3 + 23n2 - 18n + 24)/24

となる。(本稿ではその証明は割愛する。気になる方は、“Moser's circle problem”等のキーワードでネット検索をしていただきたい。)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月01日「研究員の眼」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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