コラム
2019年08月09日

渋滞を確率的にみてみると…-ボーっと運転している車が渋滞を拡大させる !?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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休日にクルマを運転する場合、渋滞は切っても切れない。お盆、正月、大型連休の時期には、都市周辺でクルマの大渋滞が起こるのが当たり前となっている。近年は「渋滞予報士」という肩書きの専門職まであらわれて、いつ、どこで、どれくらいの規模の渋滞が発生するかを予報している。

渋滞は、人間が運転するクルマが密集することで起きる。気象や地震などの自然現象と違って、人間の行動が読めれば、正確な予報ができるはずだ。そのような考え方のもと、渋滞に関する研究は、社会心理学、交通工学などのさまざまな分野で行なわれている。以下では、渋滞の発生と拡大の仕組みを、簡単なモデルをもとにみていくこととしたい。

一般に、研究では、現実の世界の出来事をなんらかのモデルに当てはめることがよく行なわれる。渋滞のモデルの基本的なものとして、「セルオートマトンモデル」と呼ばれるものが有名だ。

このモデルでは、1車線の道で、何台かのクルマが同じ方向に進んでいくものとする。それぞれのクルマは、「自分の前にスペースがあれば、前に進む」というルールで動いていく。ある時点からスタートして、次の時点(1秒後)、そのまた次の時点(2秒後)……という具合で、各時点の道路の様子を示すと、次の図のようになる。
セルオートマトンモデル「自分の前にスペースがあれば、前に進む」
この図では、ちょうど等間隔でクルマが動いており、渋滞は起きていない。それでは、クルマがもう1台増えるとどうなるだろうか?

次の図のように、渋滞が発生する。濃い黒色のクルマは、自分の前にスペースがなかったために、1秒前の時点から動けなかったクルマを表している。
自分の前にスペースがない場合
このように、道路上のクルマの数が増えて密度が高くなると、動けないクルマが出てくる。つまり、渋滞が発生することになる。この渋滞の様子をよくみると、渋滞そのものは、進行方向と反対の方向に進んでいくことがわかる。また、このモデルでは、渋滞に巻き込まれているクルマの数は3台で変わらない。渋滞は、拡大していないこともわかる。
 
しかし、連休中などに現実に起きる渋滞はどんどん拡大していき、40kmや50kmなど、途方もない長さになることが多い。どうして、渋滞は拡大していくのだろうか?
 
ここで、モデルのルールを変えてみる。「自分の前にスペースがあれば、前に進む」というルールに、「ただし、自分の前にスペースができたばかりのときは前に進まない」という制約を加えてみる。

各ドライバーは、前にスペースができても、すぐには動かず、ワンテンポ遅れて動き出す──としてみるわけだ。次の図では、このワンテンポ遅れて動き出すクルマを赤色で示した。このルールは、「スロースタートルール」と呼ばれている。このスロースタートルールをもとに、モデルをみてみると、最初3台だった渋滞に後続のクルマが追いついて、2秒後には4台、4秒後には5台……と徐々に渋滞が拡大している様子がうかがえる。
スロースタートルール
実際には、渋滞のなかのドライバーにはいろいろな人がいて、みんなが同じルールに従って動くわけではない。たとえば、前のクルマが動くと、かならず自分もすぐ動いてスペースを埋めていく人がいる。一方で、ボーっとしていて前にスペースが空いても、すぐには動き出さずに2、3秒たってからクルマを動かす人もいる。そういう人がいると、渋滞は拡大するわけだ。
 
渋滞に関する研究では、「自分の前にスペースがあるときに前に進む確率」を考えてみる。そして、その確率が小さくなったときに、どれくらい交通量が低下するかを分析する。

ある渋滞を考えてみよう。左から右に進む、1車線の区間のうち、半分がクルマで埋められていたとしよう。クルマの密度は0.5だ。

この区間の右端にきたクルマは、次の時点でかならず区間から出ていくものとする。そして、区間の右端からクルマが出ていったときにだけ、それを補うように、区間の左端から別のクルマが入ってくるものとする。つまり、区間内のクルマの台数は常に同じで、クルマの密度は0.5のまま変わらないものとする。

そして、たとえば1時間といった一定時間中に、この区間を通過するクルマの数、つまり交通量を計算してみる。

まず、全てのドライバーが前のクルマが動くと、かならず自分もすぐ動いてスペースを埋めていく場合、すなわち「自分の前にスペースがあるときに前に進む確率」(移動確率)が1 の場合、を考える。この場合の交通量を、100%としよう。

次に、スペースが空いても前に進まないドライバーが出てきたとする。こうしたドライバーの出現により、移動確率が0.75に下がると、交通量は50%となる。移動確率と交通量が、同じ割合で下がるわけではないところがポイントだ。

さらに、移動確率が0.5まで下がると、交通量は29%となる。そして、移動確率が0.25まで下がると、交通量は13%となる(※)。
 
(※) 移動確率がpのときの交通量の計算式は、 {1- (1-p)の平方根} ÷2
 
よく、高速道路などで、トンネルの前や、下り坂から上り坂にさしかかるサグといわれる場所では、渋滞が発生しやすいといわれる。こうした場所で、一旦スピードを落とした後に、スピードを上げないクルマがあると、上記のメカニズムにより、後続のクルマもスピードを上げられず、これが次々と後方に連鎖していく。スピードを上げないクルマが、確率的に出てくることで、渋滞が拡大する。
 
さらに渋滞に関する研究では、交通規制をして、区間に入ったり、区間から出たりするクルマをコントロールした場合について分析をしていく。また、複数の車線がある場合や、道路の合流や分岐がある場合など、さまざまな実際的なケースをモデルに組み入れて、詳細な分析が行われている。

また、クルマだけではなく、アリなどの生物にみられる渋滞、電車の遅延や飛行機での空の渋滞、体内の物質の渋滞など、さまざまな渋滞についても研究が進められている。
 
お盆の帰省時などに、不幸にも、渋滞に巻き込まれてしまった場合には、ボーっとしてその渋滞を拡大させる原因にならないように努めるべきと思われるが、いかがだろうか。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2019年08月09日「研究員の眼」)

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