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サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(3)-消費者のサステナ意識・行動ギャップを解く4つのアプローチ

生活研究部 准主任研究員 小口 裕
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1――はじめに~サステナビリティを「自分ごと」と捉える意識の増加と「意識・行動ギャップ」の広がり
第1回(2024年12月)2では、サステナビリティの中核をなすキーワードの認知率・理解率の分析を通して消費者のサステナビリティ認知・理解は全般的に踊り場にあり、特に「エシカル消費(倫理的消費)」の認知・理解は依然として十分に高いとは言えない状態にあることを指摘した。
前稿(第2回)は、消費者のサステナビリティに対する「意識」や「消費行動」に着目し、消費者がサステナビリティを「自分ごとと捉える意識(自分ごと意識)」が高まる反面、「時間があれば」「お金があれば」という行動制約に繋がる前提の「障壁意識」も合わせて増加しており、行動促進に向けて、それら「ギャップの緩和」があらためて課題となっている様子が浮き彫りとなった。
1 ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2022年5月)「サステナビリティに関する意識と消費者行動」、基礎研レポート(2023年9月)「サステナビリティに関わる意識と消費者行動」を参照
2 基礎研レポート(2024年12月)「サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(1)-踊り場に立つサステナビリティの社会認知と、2030年への課題」(2024年12月)
2025年3月5日にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)による日本初のサステナビリティ開示基準3が公表されたが、主に投資家向けの財務的影響に関するリスク・機会の開示に重点を置いたシングルマテリアリティ(財務影響)のみならず、社会や消費者・市民に与える非財務の影響(インパクトマテリアリティ)の情報開示4も企業に対して引き続き求められており、消費者のサステナビリティに対する意識や日常行動の理解を深めておくことは、インパクトマテリアリティの実現に向けた一連の取り組みの足がかりとなると期待される。
そこで今回(第3回)は、第2回の結果に基づき、消費者のサステナビリティ行動を抑制する構造的要因を分析・考察した上で、その促進のためのアプローチについて、サステナブル・マーケティング5の視点からの仮説構築と提案を試みたい。
3 2025年2月19日開催の第49回サステナビリティ基準委員会において、サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」、サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」と「サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」が承認され、3月5日に公表された。
4 東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード(補充原則3-1)」においては、TCFD(気候変動)だけでなく、同等のフレームワークに基づいたESG全般の開示も強化すべきとされている。
5 価値ある提供物の戦略的創造、コミュニケーション、交換を行い、環境への害を低減し、倫理的かつ公平に、現在および将来の消費者およびステークホルダーの生活の質と幸福を向上させることを目的とした活動を指す。
2――消費者の「持続可能性(サステナビリティ)に関する考え方」の動向
最初に、2024年8月の調査結果から6、消費者のサステナビリティに対する「消費態度」や「消費行動」と、日常消費行動との関わりを確認する。調査設計の詳細は、前項「サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(2)」(2025年3月)を参照頂きたい。
具体的には、前稿の「持続可能性(サステナビリティ)に関する考え方」と、それら消費者の「一般的な消費行動性向」に基づいて分析を進める。

これらの7つの因子を、一般的な消費行動性向(2軸)の空間上に重ねてプロット(配置)した(数表1)。
なお、ここで扱う「消費行動性向」とは、「(一般的・日常的な)消費についての考え方」を提示した上で、回答者がどの程度当てはまるかを複数回答で回答したデータである。
「持続可能性(サステナビリティ)に関する考え方」因子との相関関係を解析7して、説明力の高い2成分(X成分:購入・消費重視点軸~「コスパ・機能性」から「新しさ・利便性」、Y成分:購入態度軸~「感覚・衝動的」から「計画・合理的」)を抽出し、それらをX軸・Y軸と置いてプロットした。
6 サステナビリティに関する消費者調査/(2024年調査)調査時期:2024年8月20日~23日/調査対象:全国20~74歳男女/調査手法:インターネット調査(株式会社マクロミルのモニターから令和2年国勢調査の性・年代構成比に合わせて抽出)/有効回答数:2,500、
7 「消費行動性向」と「持続可能性(サステナビリティ)に関する考え方」因子(因子得点を四分位数でカテゴリー化している)で対応分析を行い、両者の相関関係を可視化した。軸の説明度はX軸:67.5%、Y軸は23.1%であり、2軸で約9割という十分な説明度を有している。なお、図表2においては、図表の視認性を優先して「消費行動性向の項目は軸解釈のみ残して掲示している。詳細は巻末参考の数表3を参照されたい。
X軸:購入・消費重視点軸は、商品やサービスを購入・利用する時にどのような点を重視するか、Y軸:購入態度軸は、商品やサービスを購入する時にどのような買い方をするか、を表している。
また因子1~7の文字色(赤色・濃紺色・水色)は、「サステナビリティ行動」に対する影響度(インパクト)8の大きさを表しており、赤字はそのプラスのインパクトが大きく(サステナビリティ行動を促進)、水色はマイナスのインパクトが大きい(サステナビリティ行動を抑制する)。濃紺はそれらのインパクトがいずれの方向にも小さい(中立的)であることを示している。
これによると、サステナビリティ行動にプラスのインパクトをもたらすサステナビリティ意識(因子)は、「因子1:責任意識」「因子2:日常習慣意識(積極購入)」「因子4:自分ごと意識(制約)」「因子6:自分ごと意識(使命感)」であり、特に因子4・6の「自分ごと意識」が、サステナビリティ行動を促進するインパクトの核の一つとなっている様子が伺える。
8 「サステナビリティ行動」については、2024年調査で「地球環境や社会の持続可能性(サステナビリティ)について、あなたが普段、日常生活において商品・サービスを購入する際に意識することがありますか。」という設問の回答選択肢「まったく意識することはない・わからない」「あまり意識しない」「意識することがある/意識している(ただし、商品・サービスを選びにはほとんど影響しない)」「意識することがある/意識している(そのような商品・サービスを意識して選ぶことがある)」「意識している(そのような商品・サービスを積極的に選ぶようにしている)」の5段階のうち2つの選択肢(選ぶことがある、選ぶようにしている)を「行動」として扱い、 1-0の二値変数に変換して目的変数とした。説明変数は、7つの因子(因子得点)として、パラメーター推定には一般化線形モデルを用いたロジスティック回帰を適用した。
χ²値:431.942、自由度:7、p値:0.000となりモデルは有意である。説明変数は、主効果変数を投入した上で、ステップワイズ法によりモデルを決定した。決定係数は、McFadden's R²が0.420、Cox-Snell R²が0.254であり、モデルはデータに対してよく適合しており、中程度の説明力を示している。詳細は巻末参考の数表1を参照されたい。
次に、2軸で構成された4つの象限を「購入・消費重視点/購入態度」の観点で確認する(図2)。

次に、左上の第二象限は「コスパ・機能性/感覚・衝動的」であり、革新的なものや流行の最先端には興味が薄い一方で、これを選べば間違いないという確証が得られれば積極的に転じるタイプの消費行動と言える。
左下の第三象限は「コスパ・機能性/計画・合理的」であり、新奇性への関心が高いとは言えず、堅実で合理的な消費行動と言える。
最後の右下の第四象限は「新しさ・利便性/計画・合理的」であり、新しさ・利便性にも一定の興味を持ち、しっかり裏付けがとれて納得ができれば購入・利用する、といった消費行動を示している。
(2025年03月28日「基礎研レポート」)
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- 【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事
2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所
2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員
【加入団体等】
・日本行動計量学会 会員
・日本マーケティング学会 会員
・生活経済学会 准会員
【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)
*共同研究者・共同研究機関との共著
小口 裕のレポート
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