2022年06月08日

サステナビリティに関する意識と消費行動(2)-経済的なゆとり、人生の充足感があるほど積極的

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • サステナビリティに関する意識や行動の調査結果について因子分析を行い、「行動に積極的」と「高い意識を持つ」の2軸を得て属性別に比較したところ、男性より女性で、高年齢ほど意識は高い一方、女性より男性で、若いほど行動には相対的に積極的である。現在のところ、行動に最も積極的な20歳代男性でも高い意識を持つ割合は半数に満たないため、性年代別の結果では、意識の高さと行動の積極性をあわせもつ層は存在しない。
     
  • ライフステージ別には子育て終了世代で意識は高い一方、子育て世代で行動には相対的に積極的であり、特に高校生の子がいるなど子育てがある程度落ち着いた年代は高い意識と行動の積極性をあわせもつ層である。職業別には、専業主婦・主夫で意識が高い一方、就業者や学生で行動には相対的に積極的である。就業者では、現役世代の正規雇用者、特に取り組みを推進する立場にある公務員や管理職以上で行動に積極的である。なお、経営者・役員は高い意識と行動の積極性をあわせもつ層と言える。
     
  • また、世帯年収の高く、経済的な余裕があるほど意識が高く、取り組みにも相対的に積極的である。また、「自分は望む生き方ができていると思う」など、人生の充足感が高いほど意識が高く、行動にも相対的に積極的である。なお、経済的なゆとりのある層では人生の充足感が大幅に高い。
     
  • 物価高で家計の負担が増す中、一般消費者にはサステナビリティに関わる取り組みは距離があるようだが、消費者全体で高い意識が醸成されつつある中、今後は安価でも地球環境や人権問題に課題のある製品は一層、選ばれにくくなるだろう。また、日本の消費者は、欧米の物価高や賃金上昇の状況から日本が取り残されていること、企業がコスト増を価格転嫁できないことが賃金上昇の抑制要因にもなっていることに気づき始めたのではないか。
     
  • コロナ禍で家計の貯蓄が増えたことも相まって、消費者は物価高を短期的には受け入れていくだろうが、賃金が増えないとすれば、何らかの消費支出を抑制する必要がある。サステナブル意識が高まる中では、必ずしも安くなくても長く使える品質の良い製品を買う、必要なモノだけを買う、中古品やシェアを活用するなど、持続可能な社会づくりに貢献できるようなモノの選び方が増えていくのではないか。
     
  • 企業にとってサステナビリティを配慮した製品の製造にはコストがかかる。しかし、前稿で見た通り、価格よりもサステナビリティを優先して製品を買う消費者は1割に満たずに少数派である。よって、サステナビリティを配慮しているからといって割高な製品もまた一般消費者には選ばれにくいだろう。さじ加減が難しいようだが、企業の知恵が試されるところだ。


■目次

1――はじめに
 ~サステナビリティに関する意識や行動、ライフステージや職業、年収等による違いは?
2――サステナビリティに関する意識や行動
 ~経済的なゆとりや人生の充足感があるほど積極的
  1|因子分析の結果
   ~「行動に積極的」と「高い意識を持つ」の2軸
  2|性年代別の状況
   ~男性より女性、高年齢ほど意識が高く、女性より男性、若いほど行動に積極的
  3|ライフステージ別の状況
   ~子育て終了世代で意識が高く、子育て世代で行動に積極的
  4|職業別の状況
   ~専業主婦で意識が高く、経営者・役員や管理職層で行動に積極的
  5|世帯年収別の状況
   ~経済的なゆとりのある高年収世帯ほど意識が高く、行動にも積極的
  6|個人年収別の状況
   ~世帯年収ほどではないが高収入層で意識が高く、行動にも積極的な傾向
  7|人生の充足感や経済不安など意識別の状況
   ~充足感が高く、経済不安が弱いほど意識が高く積極的
  8|属性別の人生の充足感の状況
   ~男性より女性、シニア層、世帯年収が高いほど充足感が高い
3――おわりに
 ~意識は高くても割高なサステナブル製品は選ばれにくい、企業の知恵の見せどころ
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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