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- 米国経済の見通し-25年初から関税政策をはじめ、経済政策は混沌の極み。景気後退回避を予想もリスクは上昇
2025年03月10日
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1.経済概況・見通し
(経済概況)10-12月期の成長率は前期から低下も個人消費は堅調維持
米国の24年10-12月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+2.3%(前期:+3.1%)と前期から低下した(図表1、図表8)。
需要項目別では、政府支出が前期比年率+2.9%(前期:+5.1%)と前期から伸びが鈍化したほか、設備投資が▲3.2%と21年7-9月期以来のマイナスに転じた。また、在庫投資の成長率寄与度が▲0.8%ポイント(前期:▲0.2%ポイント)と前期からマイナス幅が拡大して、成長率を大幅に押し下げた。
一方、住宅投資が前期比年率+5.4%(前期:▲4.3%)と3期ぶりにプラスに転じたほか、外需の成長率寄与度が+0.1%ポイント(前期:▲0.4%ポイント)と小幅ながら4期ぶりにプラスに転じた。さらに、個人消費が前期比年率+4.2%(前期:+3.7%)と高成長となった前期からさらに伸びが加速した。
このため、当期は成長率が低下したものの、在庫投資の大幅な成長押し下げの影響が大きく、個人消費は堅調を維持していることを確認した。
米国の24年10-12月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+2.3%(前期:+3.1%)と前期から低下した(図表1、図表8)。
需要項目別では、政府支出が前期比年率+2.9%(前期:+5.1%)と前期から伸びが鈍化したほか、設備投資が▲3.2%と21年7-9月期以来のマイナスに転じた。また、在庫投資の成長率寄与度が▲0.8%ポイント(前期:▲0.2%ポイント)と前期からマイナス幅が拡大して、成長率を大幅に押し下げた。
一方、住宅投資が前期比年率+5.4%(前期:▲4.3%)と3期ぶりにプラスに転じたほか、外需の成長率寄与度が+0.1%ポイント(前期:▲0.4%ポイント)と小幅ながら4期ぶりにプラスに転じた。さらに、個人消費が前期比年率+4.2%(前期:+3.7%)と高成長となった前期からさらに伸びが加速した。
このため、当期は成長率が低下したものの、在庫投資の大幅な成長押し下げの影響が大きく、個人消費は堅調を維持していることを確認した。

一方、25年1月のトランプ政権発足以降、不法移民や違法薬物問題に関連して2月4日に中国からの輸入品に10%の関税を賦課したことを皮切りに3月4日にカナダ、メキシコからの輸入品に25%(ただし、カナダからのエネルギー関連輸入に対しては10%)、中国からの輸入品に追加で10%の関税を賦課した。その後、カナダ、メキシコ関税の大部分は1ヵ月後に先送りされた。
また、安全保障を理由に鉄鋼・アルミニウム製品への関税強化、自動車、半導体、医薬品に対する関税、税率の高い国からの輸入品に対して関税負担を対等となることを目指す相互関税など様々な関税措置の方針を示しており、トランプ政権は保護主義的な通商政策を推進している。
実際に関税政策の不透明感などを背景に株価は下落している。主要株価のS&P500指数は24年11月5日の大統領選挙時点の水準からトランプ政権の規制緩和や減税政策などに対する期待から25年2月下旬には一時+6.2%高まで上昇していた(図表4)。しかしながら、一連の通商政策方針に伴い株価は下落し、本稿執筆時点(3月7日)では選挙時点から▲0.2%の下落と2月までの上昇幅を全て吐き出す展開となっている。投資家の先行き不安を示すVIX指数も足元で24.9と24年12月中旬以来の水準に上昇した。
また、2月の消費者センチメントはミシガン大学調査が64.7(前月:71.7)と前月から▲7.0ポイントの大幅な低下となり、23年11月以来15ヵ月ぶりの水準に悪化した(図表5)。コンファレンスボード調査も98.3(前月:105.3)と24年6月以来の水準に低下したほか、前月からの低下幅(▲7.0ポイント)は21年8月以来となった。
さらに、ミシガン大学調査による家計の今後1年間のインフレ予想は2月が前月から+1.0%ポイント上昇の+4.3%(前月:+3.3%)と23年11月以来の水準となり、短期のインフレ予想が大幅に上昇した。
また、2月の消費者センチメントはミシガン大学調査が64.7(前月:71.7)と前月から▲7.0ポイントの大幅な低下となり、23年11月以来15ヵ月ぶりの水準に悪化した(図表5)。コンファレンスボード調査も98.3(前月:105.3)と24年6月以来の水準に低下したほか、前月からの低下幅(▲7.0ポイント)は21年8月以来となった。
さらに、ミシガン大学調査による家計の今後1年間のインフレ予想は2月が前月から+1.0%ポイント上昇の+4.3%(前月:+3.3%)と23年11月以来の水準となり、短期のインフレ予想が大幅に上昇した。
消費者センチメントの大幅な悪化や短期のインフレ予想の大幅な上昇は関税政策による景気減速、インフレ上昇懸念を反映しているとみられる。これらの結果、1月の個人消費の減少と併せて足元で個人消費の大幅減速の可能性が高まっており、個人消費主導の景気回復の変調が懸念される。
(経済見通し)成長率(前年比)は25年が+2.0%、26年が+1.7%を予想。
トランプ大統領は3月7日時点で125件1の大統領令に署名するなど、政策公約に掲げていた政策や政策公約に掲げていなかった政策も含めて連日矢継早に様々な政策を打ち出している。トランプ大統領が実現を目指す政策のうち、税制改革や規制緩和が成長押上げ要因となる一方、関税の引上げや不法移民の強制送還が成長押し下げ要因となることが見込まれ、最終的な経済への影響はトランプ政権がどの政策をどのような優先順位でどこまで実行するのかによって大きく左右される。このため、通商政策をはじめトランプ政権の経済政策の予見可能性が大幅に低下する中で、25年以降の米国経済見通しに対する不透明感が大幅に上昇している。
当研究所は経済見通しを策定する際の経済政策の前提として、税制改革はトランプ氏の政策公約を実現、通商政策では25年にカナダ、メキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に30%関税を賦課、鉄鋼・アルミニウム製品に対する関税強化を実施するほか、26年初から全輸入品に対する5%関税を実施すると想定した。相互関税は想定が難しいため、今回は前提に含めない。移民政策については不法移民65万人の強制送還を25年初から開始すると想定した。一方、規制緩和については定性的には成長押上げ要因となることが見込まれるものの、定量評価が困難なため、経済見通しへの影響を中立とした。ただし、これらの経済前提はトランプ政権の方針が非常に流動的なため、確信度は低い。
これらの前提の下、当研究はトランプ政権の経済政策が25年、26年ともに成長押し下げが優勢になると評価した。この結果、実質GDP成長率(前年比)は25年が+2.0%、26年が+1.7%と24年の+2.8%から大幅な低下を予想する(図表6)。一方、現時点で景気後退回避をメインシナリオとしているが、想定されていなかった関税方針が次々に示されており、関税に伴う実体経済への影響に加え、政策の予見可能性の低下が個人消費や企業の設備投資が抑制される可能性が高まっているため、景気後退リスクが24年12月の見通し策定時点に比べて高まっていることは否定できない。
トランプ大統領は3月7日時点で125件1の大統領令に署名するなど、政策公約に掲げていた政策や政策公約に掲げていなかった政策も含めて連日矢継早に様々な政策を打ち出している。トランプ大統領が実現を目指す政策のうち、税制改革や規制緩和が成長押上げ要因となる一方、関税の引上げや不法移民の強制送還が成長押し下げ要因となることが見込まれ、最終的な経済への影響はトランプ政権がどの政策をどのような優先順位でどこまで実行するのかによって大きく左右される。このため、通商政策をはじめトランプ政権の経済政策の予見可能性が大幅に低下する中で、25年以降の米国経済見通しに対する不透明感が大幅に上昇している。
当研究所は経済見通しを策定する際の経済政策の前提として、税制改革はトランプ氏の政策公約を実現、通商政策では25年にカナダ、メキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に30%関税を賦課、鉄鋼・アルミニウム製品に対する関税強化を実施するほか、26年初から全輸入品に対する5%関税を実施すると想定した。相互関税は想定が難しいため、今回は前提に含めない。移民政策については不法移民65万人の強制送還を25年初から開始すると想定した。一方、規制緩和については定性的には成長押上げ要因となることが見込まれるものの、定量評価が困難なため、経済見通しへの影響を中立とした。ただし、これらの経済前提はトランプ政権の方針が非常に流動的なため、確信度は低い。
これらの前提の下、当研究はトランプ政権の経済政策が25年、26年ともに成長押し下げが優勢になると評価した。この結果、実質GDP成長率(前年比)は25年が+2.0%、26年が+1.7%と24年の+2.8%から大幅な低下を予想する(図表6)。一方、現時点で景気後退回避をメインシナリオとしているが、想定されていなかった関税方針が次々に示されており、関税に伴う実体経済への影響に加え、政策の予見可能性の低下が個人消費や企業の設備投資が抑制される可能性が高まっているため、景気後退リスクが24年12月の見通し策定時点に比べて高まっていることは否定できない。
物価は、関税引上げが一時的にインフレを押し上げるほか、移民の強制送還も労働力不足に伴う労働需給の逼迫を背景にした賃金インフレの加速からインフレを押し上げることが見込まれる。この結果、CPI(前年比)は25年後半から26年前半にかけて再加速すると予想している。通年では25年が+3.0%と24年の+3.0%から横這い、26年は+2.9%と小幅な低下に留まろう。物価見通しのリスクは見通し前提を上回る関税実施に伴う上振れリスクである。
金融政策は、25年6月に利下げを行った後、トランプ政権の経済政策に伴うインフレ加速により、FRBは25年後半から26年前半にかけて政策金利を据え置き、その後インフレ率の低下を確認した上で26年後半に1回の利下げを実施すると予想する。
長期金利はトランプ政権の関税政策などに伴う景気減速懸念から長期金利に低下圧力がかかる一方、インフレ高進に伴う金利上昇圧力もあって、長期金利の方向感は出難く、25年を通じて4.4%で横這い推移を予想。26年はインフレ低下や利下げ再開もあって26年10-12月期平均が4.2%と小幅低下しよう。
上記見通しに対するリスクは、インフレ高進とトランプ氏の政策の予見可能性低下も含めた国内政治の混乱が挙げられる。前述のようにトランプ氏が実現を目指す関税の引上げや移民の強制送還はインフレを押し上げる可能性が高い。関税の引上げは一時的なインフレ押上げ要因とみられるが、不法移民の強制送還で労働力不足が深刻化し、賃金と物価がスパイラル的に上昇する場合にはFRBはインフレ抑制のために政策金利の引上げを余儀なくされる可能性がある。また、トランプ氏がFRBに対して利上げしないように政治的な圧力をかける場合には期待インフレ率の上昇を招きインフレ高進リスクがより高まろう。この結果、早晩金融政策は引締め政策に軌道修正せざるを得なくなり、米経済には下振れリスクとなろう。
一方、トランプ氏はカナダ、メキシコに対する25%関税や自動車、半導体、医薬品などに対する25%関税など、政策公約に掲げていない関税策を次々に打ち出したほか、カナダ、メキシコ関税を1ヵ月猶予するなど政策の軌道修正も頻繁に行われており、政策の予見可能性は大幅に低下している。今後も公約に掲げていない政策が矢継早に打ち出される可能性が高い場合には、家計や企業のセンチメントを悪化させ、個人消費や設備投資が抑制される可能性が高まろう。また、これまでは大統領権限での政策実現努力が目立つが、予算措置が必要な政策では今後議会で法案を通過させる必要がある。上下院ともに与野党の議席数が僅差となる中で法案審議は難航が予想され、予算審議の遅れや債務上限問題の処理に手間取るなどの国内政治の混乱が生じた場合には米国経済のリスク要因となろう。
金融政策は、25年6月に利下げを行った後、トランプ政権の経済政策に伴うインフレ加速により、FRBは25年後半から26年前半にかけて政策金利を据え置き、その後インフレ率の低下を確認した上で26年後半に1回の利下げを実施すると予想する。
長期金利はトランプ政権の関税政策などに伴う景気減速懸念から長期金利に低下圧力がかかる一方、インフレ高進に伴う金利上昇圧力もあって、長期金利の方向感は出難く、25年を通じて4.4%で横這い推移を予想。26年はインフレ低下や利下げ再開もあって26年10-12月期平均が4.2%と小幅低下しよう。
上記見通しに対するリスクは、インフレ高進とトランプ氏の政策の予見可能性低下も含めた国内政治の混乱が挙げられる。前述のようにトランプ氏が実現を目指す関税の引上げや移民の強制送還はインフレを押し上げる可能性が高い。関税の引上げは一時的なインフレ押上げ要因とみられるが、不法移民の強制送還で労働力不足が深刻化し、賃金と物価がスパイラル的に上昇する場合にはFRBはインフレ抑制のために政策金利の引上げを余儀なくされる可能性がある。また、トランプ氏がFRBに対して利上げしないように政治的な圧力をかける場合には期待インフレ率の上昇を招きインフレ高進リスクがより高まろう。この結果、早晩金融政策は引締め政策に軌道修正せざるを得なくなり、米経済には下振れリスクとなろう。
一方、トランプ氏はカナダ、メキシコに対する25%関税や自動車、半導体、医薬品などに対する25%関税など、政策公約に掲げていない関税策を次々に打ち出したほか、カナダ、メキシコ関税を1ヵ月猶予するなど政策の軌道修正も頻繁に行われており、政策の予見可能性は大幅に低下している。今後も公約に掲げていない政策が矢継早に打ち出される可能性が高い場合には、家計や企業のセンチメントを悪化させ、個人消費や設備投資が抑制される可能性が高まろう。また、これまでは大統領権限での政策実現努力が目立つが、予算措置が必要な政策では今後議会で法案を通過させる必要がある。上下院ともに与野党の議席数が僅差となる中で法案審議は難航が予想され、予算審議の遅れや債務上限問題の処理に手間取るなどの国内政治の混乱が生じた場合には米国経済のリスク要因となろう。
(2025年03月10日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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