2025年02月26日

がん検診で「要精密検査」でも受診しない理由

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

国は、一定年齢以上になると定期的にがん検診を受けることを推奨している。「がん検診で「要精密検査」は何%?1」では、厚生労働省による「地域保健・健康増進事業報告の概況」から、これらの住民検診において、要精密検査となった人がどの程度いて、その中から実際にがんが見つかった割合がどの程度かについて紹介した。
図表1 “住民検診”におけるがん発見状況(それぞれ、がん検診受診者を10,000人とした場合)
2021年度の地域がん検診では、「要精密検査」と言われた人のうち、胃がん84%、大腸がん82%、肺がん70%、乳がん90%、子宮頸がん78%が精密検査を受けていた。しかし、精密検査を受けていない精検未受診者も、胃がん5.9%、大腸がん6.0%、肺がん13.3%、乳がん2.9%、子宮頸がん6.5%と、少なくない2(図表1)。精密検査を受けた人の1.0~5.5%程度にがんが見つかっていることから、「要精密検査」のまま精密検査を受けないことで、がん検診を受けたにもかかわらず、早期発見の機会を逃しかねない。

そこで、本稿では、2021年にニッセイ基礎研究所が実施した「がんの備えに対する意識調査」から、精密検査未受診者の状況を紹介する。
 
1 村松容子「がん検診で「要精密検査」は何%?」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2025年2月12日)https://www.nli-research.co.jp/files/topics/81106_ext_18_0.pdf?site=nli
2 精検未受診者のほかに、それぞれの自治体が精密検査を受けたかどうか未把握である受診者がいる。

2――要精密検査受診状況

2――要精密検査受診状況

1|仮に「要精密検査」の判定が出た場合、速やかに精密検査を受けると思うか
まず、国が推奨する5つのがん検診のいずれか1つでも、最近2年以内に受けた人に対して、「仮に、「要精密検査」の判定が出た場合、速やかに精密検査を受けると思うか」を尋ねたところ、「速やかに受けると思う」が79.5%、「部位や結果の数値次第で考える」が14.0%、「2年連続など判定が続いたら受けると思う。」が2.2%、「自覚症状が出ない限りは受けないと思う」が0.9%、「わからない」が3.4%だった。「速やかに受けると思う」は、性別では、男性より女性、年齢群別では、65~74歳で高かった。
図表2 仮に「要精密検査」の判定が出た場合、速やかに精密検査を受けると思うか
「わからない」を除く「部位や結果の数値次第で考える」「2年連続など判定が続いたら受けると思う」「自覚症状が出ない限りは受けないと思う」と回答した人に、要精密検査判定時に速やかに精密検査を受けない理由を尋ねると、「とりあえず様子をみようと思うから」が42.5%でもっとも高く、次いで「一度数値に問題がでたからといって問題があるとは限らない(28.4%)」「費用がかかり経済的にも負担になる(19.8%)」「病院に行く時間がとれないから(17.5%)」が続いた(図表3)。
図表3 精密検査を速やかに受けない理由
一般に、がん検診を受けない理由として、「心配なときはいつでも医療機関を受診できるから」「費用がかかり経済的にも負担になるから」「受ける時間がないから」「健康状態に自信があり、必要性を感じないから」等があげられ、がん検診を重視していなかったり、時間や経済的な負担を避けていることが知られている3。それに対し、今回の分析対象者は、2年以内にがん検診を受けていることから、がん検診の必要性を一定程度認識していると思われるが、やはり費用や時間の負担を避けたり、健康状態に自信を持っていたり、がんが見つかる不安等から再検査を躊躇する様子がうかがえた。
 
3 内閣府「がん対策に関する世論調査(令和5年7月調査)」等。
https://survey.gov-online.go.jp/r05/r05-gantaisaku/2.html、2025年2月19日アクセス)
2|「要精密検査」の判定を受けた経験がある人は、判定後どの程度で精密検査を受けたか
続いて、これまでに「要精密検査」の判定を受けたことがある人に、精密検査受診経験を尋ねた。 その結果、「指摘されてすぐに検査をした」は、最も高い乳がんで80%、最も低い胃がんでは66%と部位によって差があったが、「3か月以内に検査をした」を合わせると85~90%程度が、「半年以内に検査した」も合わせると、95%程度が、検査をしていた。図表2と比べると、精密検査を受けた人は多くなっていた。

要精密検査の判定を受けた年齢は尋ねていないため不明であるが、比較的罹患年齢が高い肺がんと、乳がん、子宮頸がんで「指摘されてすぐに検査をした」と回答した割合は高くなっており、図表2の高年齢層や女性で「速やかに受けると思う」の割合の高さと整合的だった。子宮頸がんでは、「すぐには検査しなかった」が5つの部位でもっとも高く、精密検査をすぐに受けた人とすぐには受けなかった人とに分かれたようだ。また、胃がんは、5つの部位でもっとも「すぐに検査した」の割合が低かった。
図表4 「要精密検査」の判定後の検査受診状況

3――フォローアップのタイミングと方法

3――フォローアップのタイミングと方法

がん検診は国も推奨するところであるが、時間や経済的な負担を嫌がったり、がん検診の必要性を認識していないことから、受診率が伸び悩んでいることが知られている。しかし、今回見てきたとおり、がん検診を受けたとしても、精密検査を勧められた場合に、すぐに精密検査を受けるとは限らず、自分自身の健康状態に自信を持っていたり、がんが見つかる不安から躊躇する様子がうかがえた。一方、実際に、「要精密検査」の判定を受けた人においては、今回の調査で95%程度が精密検査を受けており、仮に要精密検査だった場合の精検受診意向と比べると、精検を受けている可能性があった。

現在、国が推奨するがん検診は、スクリーニング検査であり、無症状の人を対象に、がんの疑いがある人を発見するものである。すなわち、がん検診を受けるときは、多くの人が、自分ががんである可能性を意識せずに受けており、要精密検査の判定を受けた場合についてまで想像が及んでいないと考えられる。

がん検診を推奨するときには、検査結果がいつごろ返ってきて、要精密検査の判定が出る割合はどの程度で、その場合はいつ頃、どうしたらいいのかについても周知しておくことで、必要があればスムーズに精密検査に進めるよう環境を整えていくことが重要だろう。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年02月26日「基礎研レター」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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