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女性管理職転職市場の活発化~「働きやすさ」を求めて流動化し始めたハイキャリア女性たち~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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通常の人材紹介とは異なり、転職潜在層からの移籍実績も有するヘッドハンティング大手の「株式会社プロフェッショナルバンク」(本社・東京都千代田区)では、ここ数年で、様々な業種の大手企業から、管理職や管理職予備軍の女性のヘッドハンティング依頼が増加し、2023年の成約件数は2021年の2.6倍になった。採用後に女性が成果を出していることから、依頼をリピートする企業も多い。女性の年代は30歳代半ばから40歳代半ばぐらいが多い。
ヘッドハンティングを依頼する企業側には、女性管理職を採用するために、福利厚生などを充実させてアピールするところが多く、女性側も、より柔軟に働くことができ、活躍しやすい職場を求めているという。企業の中には、育児中の女性が管理職として働きやすいように、入社後に補佐する人員を配置して迎えるケースや、入社後に女性の意見も聴きながら、マネージメントを見直していくケースがあるという。
同社で事業を担当する大泉留梨さんは「ここ1、2年で、メディアで女性活躍に関する情報発信が増えたことで、女性たちにも、より正当な評価を求める意識や、キャリアアップに対する意欲が強まっている」と話す。
女性に特化した人材紹介サービスを手掛ける「株式会社Waris」(本社・東京都千代田区)は、2021年から女性役員の紹介を手掛けていたが、役員より下の管理職層の登用に関しても企業から相談が寄せられていたことから、2024年度から、管理職や管理職候補の女性人材を紹介するサービス「リーダーズキャリア」を開始した。上場企業からの依頼が多い。成約件数などは未集計だが、開始直後から多くの管理職女性たちが登録している。30~40歳代中心で、子育て中の女性も多いという。
共同代表の田中美和さんは「登録している女性は、現在の職場では管理職の労働時間が長く、悲鳴を上げている。仕事は好きで、成長意欲も旺盛だが、現在の職場では管理職として働き続けることが困難で、もう少し、管理職業務と家庭の両立に理解がある職場で働きたい、という女性が多い」と話す。
3社へのヒアリング調査より、転職市場では、女性管理職を外部から採用して充当したいという企業側、より柔軟な働き方ができる職場に移りたいという女性側、双方の意識が強まっていることが確認できた。これは、3でみたように、統計上、管理職として転職する女性が増えている直近の傾向と合致する。合わせて、管理職手前の予備軍の女性の転職が増えている点も、統計上、「管理職以外」からの転職が増えているという事実と合致する。
しかし、そもそも現状で企業に女性管理職比率が少ない要因として、長時間労働や、在宅勤務ができないなど、働き方自体に課題があるなら、仮に外部から管理職のポジションに女性を採用できたとしても、すぐに離職してしまう可能性がある。従って、現状で女性管理職が少ない企業は、その要因を分析し、対策を考え、いずれは内部でも人材が育つようにしなければ、根本的には課題は解決しないであろう。
一方、繰り返し述べてきたように、現在、管理職として働く女性側には、「柔軟な働き方」への大きなニーズがあることが分かった。特に、コロナ禍を通じて、在宅勤務を利用できるようになった企業と、利用できない企業に分かれていることが、流動化を促している可能性があるだろう。
もう一つ、注目すべき点は、各社の担当者が指摘していた、女性側のキャリアへの意識の高まりである。「女性活躍」に関する情報が広まったことで、女性たちがより正当な評価を求めたり、キャリアアップへの意欲を高めたりしていることは、大きな前進と言える。特に、パソナへのヒアリング調査で確認した通り、旧来のように、子がいる女性たちが「育児があるからキャリアアップを諦める」のではなく、「育児しながらキャリアアップできる職場を探す」という意識に変化しつつあることは、当事者の昇進意欲の向上と、登用の増加につながる可能性がある。
5――現在の管理職の働き方に関する課題~定年後研究所・ニッセイ基礎研究所の共同研究より~
4のヒアリング調査では、求職側である現職の女性管理職には、柔軟な働き方に対する大きなニーズがあることが分かった。それでは、現状では、管理職の働き方にどのような課題があるのだろうか。
定年後研究所とニッセイ基礎研究所が2023年に行った共同研究で、現在、管理職を務めている中高年女性に「管理職として働く上での課題」を尋ねた結果(複数回答)が図表4である。これによると、約3割の管理職女性が「労働時間が長くなり、家庭との両立が困難」と回答し、働き方が大きな課題になっていることが分かる。
また、「これまでに会社に女性管理職がほとんどおらず、ロールモデルがいない」(21.8%)や「経営トップが、女性登用の意義や必要な体制について十分理解していない」(20.2%)など、組織運営や組織風土面で、管理職の女性が働きづらさを感じていることが伺える。これらの回答を含めて、管理職の働き方に何らかの課題を感じている女性(全体―「特に課題は感じていない」)は約8割に上った。
6――おわりに
本稿で紹介した女性管理職や予備軍の転職の増加は、こうした課題の裏返しと言える。近年、社会の潮流によって、女性が自身のキャリアについて見つめ直すようになり、キャリアへの意欲も強まってきたのに、現在の職場だと、働き方などの問題で管理職として働くことが難しいと映れば、社外に目を向ける女性が増えるのは当然だろう。
こうした課題を背景とした、管理職や予備軍の女性たちの転職市場の活発化は、新たに、「働きやすさ」などを基準とした女性人材の争奪戦を生じさせる可能性がある。企業が管理職の働き方に目を向け、対策を取らなければ、今後、管理職層の女性人材は、ダイバーシティ経営が浸透した企業に集中していくかもしれない。
近年は、若い男性にも、自ら育児をしたいという意識は強まっており3、長時間労働である管理職昇進を敬遠する傾向がある。従って、企業にとっては、女性管理職が働きやすい職場を整備することは、次の世代の男性管理職を確保することにもつながるだろう。
3 坊美生子(2024)「なぜ日本では「女性活躍」が進まないのか~“切り札”としての男性育休取得推進~」(基礎研レポート)
(2025年02月13日「基礎研レポート」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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