2025年02月04日

良好な景況感が継続。先行きも楽観的な見方が強まる。~期待はホテルと産業関係施設(データセンターなど)が上位。リスク要因として、国内金利と米国政治・外交への警戒高まる~第21回不動産市況アンケート結果

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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アンケートの概要

株式会社ニッセイ基礎研究所では、不動産市況の現状および今後の方向性を把握すべく、2004年より不動産分野の実務家・専門家を対象に「不動産市況アンケート」を実施している。本アンケートは、今回で21回目となり117名から回答を得た。
 

- 調査対象;不動産・建設、商社、金融・保険、不動産仲介、不動産管理、不動産鑑定、
  不動産ファンド運用、不動産投資顧問・コンサルタント、不動産調査・研究・出版、
  不動産に関連する格付、などに携わる実務家および専門家。
- アンケート送付数;200名
- 回答者数;117名(回収率58.5%)
- 調査時期;2025年1月17日から1月27日
- 調査方法;Eメールによる調査票の送付・回収

アンケート回答者の属性(所属先内訳)は、「不動産仲介・管理・鑑定」(22%)と「その他不動産関連サービス(不動産調査・研究・出版、不動産に関する格付など)」(22%)が最も多く、次いで、「不動産・建設・商社」(21%)、「金融・保険」(19%)、「不動産ファンド運用・不動産投資顧問」(15%)、であった。回答者の属性に大きな偏りは見られず、本アンケートは不動産市況の実態に関して、属性による偏りを概ね排除していると考えられる。
[アンケート回答者の属性(所属先内訳)]

アンケートの結果

アンケートの結果

1.不動産投資市場の景況感
(1) 現在の景況感
「不動産投資市場全体(物件売買、新規開発、ファンド組成)の現在の景況感」について質問したところ、プラスの回答(「良い」と「やや良い」の合計)が約7割、「平常・普通」が2割強、マイナスの回答(「悪い」と「やや悪い」の合計)が1割弱となった(図表-1)。前回調査(2024年初)からプラスの回答が大きく増加し、5年ぶりに7割以上を占める結果となった。
図表-1 不動産投資市場全体の現在の景況感
(2) 6ヵ月後の景況見通し
「不動産投資市場全体の6ヵ月後の景況見通し」について質問したところ、「変わらない」との回答が7割弱、好転との回答(「良くなる」と「やや良くなる」の合計)が約2割、悪化との回答(「悪くなる」と「やや悪くなる」の合計)が1割半ばを占めた(図表-2)。
図表-2 不動産投資市場全体の6ヶ月後の景況見通し
前回調査では、「変わらない」との回答が約6割、「好転」との回答が約2割、「悪化」との回答が約2割を占めたが、今回は「変わらない」が増加し、「悪化」が減少した。

この結果、「景況見通しDI1」は、+4.3%と3年ぶりにプラスに転じ、楽観的な見方がやや強まった(図表-3)。
図表-3 「景況見通しDI」(6ヶ月後)
 
1 「景況見通しDI」の算出式;(「やや良くなる」+「良くなる」)-(「やや悪くなる」+「悪くなる」)[単位は回答割合(%)]
2.投資セクター選好
(1) 概況
「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(証券化商品含む)」について質問したところ、「ホテル」(73%)との回答が最も多く、次いで「産業関係施設(データセンターなど)」(61%)、「賃貸マンション」(35%)との回答が多かった(図表-4)。上位3セクターは順位を含めて前回調査から変化はなかった。

「ホテル」に関して、アフターコロナにおける行動制限解除などを受けて、宿泊需要が急速に回復している。日本政府観光局によると、2024年の訪日外客数は約3,700万人(2019年比+15.6%)と過去最高を更新し、ホテルへの関心が高まっている。

また、「産業関連施設」に含まれるデータセンターは、各種クラウドやAI、動画等のコンテンツ配信等を支える社会インフラとしての重要度が増している。IDC Japanの調査によれば2、国内データセンターサービスの市場規模(2023年)は約2.7兆円で、2028年には5兆円に達する見通しである。こうした需要拡大を背景に、デベロッパー等によるデータセンター開発が活発になっている3

一方、「アウトレットモール」(2%)、「郊外型ショッピングセンター」(1%)を期待する回答は、下位に留まった。
 図表-4 今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(上位3つまで回答)
 
2 IDC Japan 株式会社「国内データセンターサービス市場予測を発表~4年後に5兆円市場に拡大」(2024年10月28日)
3 日経クロステック「大林組・三井不動産・大和ハウスが大規模投資、データセンター開発動向10選」(2024年12月13日)
(2) 前回調査との比較 [期待が高まった(後退した)投資セクター]
前回調査から回答割合が10%以上増加した投資セクター(期待が高まった投資セクター)は、「オフィスビル」(14%→30%)であった(図表-5)。三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2024年第4四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は28,489 円(前期比+6.3%、前年同期比+12.9%)と5四半期連続で上昇し、空室率は5.7%(前期比▲0.7ppt、前年同期比▲1.2ppt)に低下した。東京のオフィス市況は、コロナ禍による落ち込みから順調に回復しており、投資家の期待が高まっていると考えられる。

一方、前回調査から回答割合が10%以上減少した投資セクター(期待が後退した投資セクター)は、「物流施設」(23%→12%)であった。CBREによれば、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2024年9月末)は、首都圏が10.1%(前期比+0.4ppt)となり、約14年ぶりに10%を超えた。EC事業者を中心にテナント需要は底堅いものの、高水準の新規供給が継続するなか新築物件のリーシングが鈍化しており、投資家の期待が後退する結果となった。
図表-5 今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(前回調査との比較)

(2025年02月04日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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