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- ECB政策理事会-3会合連続となる利下げを決定
2024年12月13日
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(インフレ)
(リスク評価)
(金融・通貨環境)
(結論)
(質疑応答(趣旨))
- インフレ率はユーロスタットの速報値によれば、前年比で10月の2.0%から11月には2.3%に上昇した
- この上昇は予想されていたもので、主に、エネルギー関連のベース効果による押し上げを反映している
- 食料インフレは2.8%にやや低下し、サービスインフレは3.9%となった
- 財インフレは0.7%に上昇した
- 域内インフレはサービスインフレと密接に連動しており、10月には少し鈍化した
- しかし、4.2%で引き続き高い。
- これは強い賃金上昇圧力と一部のサービスぐっかが過去のインフレ高騰の影響に遅れて調整を続けていることを反映している
- 基調的なインフレ率は、全体的にはインフレ目標の持続的な回帰に沿う形で進展している
- 1人あたり雇用者報酬は4-6月期の4.7%から4.4%に減速した
- 生産性が安定するなかで、単位労働コストの伸びがこれに貢献した
- スタッフは、労働コストが、賃金上昇率の低下と生産性の上昇によって見通し期間にわたってより低下すると予想している
- 加えて、利益も特に短期においては高い労働コストの物価への効果を一部相殺し続けている
- インフレ率は、依然のエネルギー価格の急落が前年比の影響から外れ、短期的には現在の水準前後で変動するだろう
- その後、インフレ率は中期的な2%目標付近で持続的に落ち着くだろう
- 労働コスト圧力の緩和と過去の金融引き締めの消費者物価への影響が続いていることが、この過程を助けている
- ほとんどの長期のインフレ期待は2%付近で推移しており、市場基準の中期から長期にかけてのブレイクイーブンインフレ率(inflation compensation)は全会10月会合後に大幅に低下している
(リスク評価)
- 成長率に対するリスクは引き続き下方に傾いている
- 世界貿易の摩擦が拡大するリスクはユーロ圏の輸出停滞や世界経済の弱さにより成長率の重しになる可能性がある
- 信頼感の低さによって、消費や投資が予想通りの速度で回復しない可能性がある
- これは地政学的リスク、例えばロシアの正当化されないウクライナとの戦争や、中東での悲劇的な紛争によって増幅される可能性があり、エネルギー供給者や世界貿易が混乱しうる
- 金融政策引き締めの効果がラグをもって予想以上に長く続けば成長率が低下する可能性がある
- 資金調達環境の緩和やインフレ率の低下が域内の消費や投資回復を加速させれば、成長率が高まる可能性がある
- インフレ率は賃金や利益が予想以上に上昇すれば、上振れする可能性がある
- インフレ率の上方リスクはまた、特に中東における地政学的緊張の高まりがエネルギー価格や運送費用を短期的に上昇させ、世界貿易を混乱させることが含まれる
- 加えて、異常気象や気候変動危機の展開が、食料品価格を予想以上に上昇させる可能性もある
- 対照的に、インフレ率は信頼感の低さや地政学的な事件によって消費や投資が予想通りの速さで回復しない、金融政策が予想以上に需要を低下させる、もしくは、予想外に世界経済が悪化することで低下する可能性がある
- 世界的な貿易摩擦の高まりはユーロ圏のインフレ見通しをより不透明にするだろう
(金融・通貨環境)
- ユーロ圏の市場金利は、経済見通しの悪化を反映して、前回10月会合以降にさらに低下した
- 資金調達環境は引き続き制限的だが、我々の利下げは企業や家計の借入コストを段階的に低下させている
- 10月の企業向け新規貸出平均金利は4.7%で1年前のピークからおよそ0.5%ポイント低下した
- 市場における負債発行コストはピークから1%ポイントほど低下した
- 10月の新規住宅ローンの平均金利は3.6%で23年のピークからおよそ0.5%ポイント低下したが、住宅ローン残高の平均金利は依然として上昇傾向にある
- 銀行の企業向け貸出は低水準から緩やかに上向き、10月には前年比1.2%まで上昇した
- 企業による債券発行は前年比3.1%上昇し、ここ数か月は同様の伸び率である
- 住宅ローン貸出は10月にも緩やかな上昇が続いており、前年比0.8%となった
- 我々の金融政策戦略に沿って、理事会は金融政策と金融安定の相互関係を包括的に評価した
- ユーロ圏の銀行は引き続き強靭であり、金融市場のストレス兆候はほとんどない
- しかしながら、金融安定へのリスクは引き続き高まっている
- マクロプルーデンス政策は、引き続き、積みあがる金融のぜい弱性に対応するための最善の手段であり、強靭性を強化し、マクロプルーデンスの余地を確保するものである
(結論)
- (声明文冒頭に記載の決定に再言及)
(質疑応答(趣旨))
- 本日の決定に至るまでに交わされた議論の一般的な雰囲気について。0.25%ポイントの利下げが賛成された議論の鍵は何だったか
- インフレに勝利し「任務完了」した訳ではないがインフレが中期的に2%の目標に到達する観点からは、本当に順調に進んでいると認識された
- 0.25%ポイントの利下げは理事会メンバー全員の合意を得た
- いくつかの議論があり、0.50%ポイントの可能性を検討する提案もあった
- しかし、全体的な合意として、全員が0.25%ポイントの利下げが正しいとする決定に至った
- これには3つの鍵となる要素があったと考える
- 1つ目は我々の予測が6回連続で2%に収れんしていること
- 2つ目は過去のショックが解消し、基調的なインフレ率を押し下げたこと
- 3つ目はインフレへのリスクが両面にあること
- 政策金利を制限的な水準に維持し、当面は十分に制限的にするとの文言が削除されたことについて。これは次回の会合でより大幅な利下げが行われる可能性を意味するのか、あるいは少なくとも議論はされるのか
- (直接的の回答なし)
- サービスインフレは依然として高い
- インフレ率について。インフレ目標に関するリスクをどうみるか。下振れリスクは上振れリスクよりも高いか。何のリスクがあるのかについて教えて欲しい
- インフレに関するリスクは声明文に明確に述べられている
- 以前よりもリスクは両面にあるというのが、我々の分析である
- 制限的な政策の必要性について変更した際、何か中立金利に関する議論をしたのではないか。その議論について少し教えて欲しい、また理事会は現在の政策がこの中立金利からどの程度離れていると考えているのか教えて欲しい
- 中立金利については、およそ1年前に公表した出版物を参照することをおすすめする
- ここ2日間は中立金利ついて議論していない
- これまでの市場の動きによれば、1月の利下げ幅が0.50%ポイントに拡大すると見られている。これに対する考えはあるか
- 何か考えている訳ではない
- 我々はこれからもデータ次第、会合毎に決定し、事前に確約された経路はない
- 米国が欧州に関税を課したら何が起きるか。ECBは反応するか
- 保護主義的な措置は成長には寄与せず、究極的にはインフレ率に及ぼす影響は不透明な部分が大きい
- インフレ率とコアインフレ率は責務である2%付近に落ち着くとみられる。米国経済が活発となるなかで、域内需要と成長の双方が低迷しているので、改善させることに集中する時と考えるか
- 我々の焦点は物価の安定である
- これが我々の責務であり、各経済主体が自身の決定のもと、成長や価値を創造することを支えるよう、我々ができる最善のことである
- 政策金利を十分に制限的に維持するとの言及が削除されたことについて。この文言は多くの人は引き締めと見ており、ECBもそうだと思うが、これが削除されたということは緩和に傾くことを意味するのか。それは行き過ぎなのか。これに対する意見に興味がある
- 声明の第4パラグラフに明確に述べられているが、我々は現在、制限的である
- すでに4回、1%ポイントの利下げを行い、完全に異なる環境にいる
- 目標に近づき、十分な期間制限的であること、目標に対して迅速であることへの言及を削除することは自然であった
- スタッフ見通しについて。9月の議事録によれば、9月見通しは、作成〆切(cutoff)と会合の間に発生した種々の出来事のため、作成された時点ですでに楽観的すぎるとの懸念があった。今回も同じ状況なのか。もし、見通しが楽観的すぎると判明したときに、どのように対応するのか議論したか
- スタッフは事実や疑いの余地のないことに対して、誠実・忠実であり、出来る限り最善の判断をしていると考えている
- 彼らの見通しを疑う理由はない
- 声明では下振れリスク、特に成長の下振れリスクについてより精緻な表現が使われており、不確実性の高さを前提にすれば、リスクの測定を強化することも正しいアプローチと考えられる
- PEPPとTPIについて。金融政策の波及へのリスクに対処するために利用されていた、PEPPの償還再投資による柔軟性がもはやなくなる。PEPPの償還再投資が終了し、金融政策の機能に介入する手段がTPIだけになる影響をどのように考えるか。現在、スプレッドはほとんど動いておらず、市場は驚いている。例えば、フランス国債の対独スプレッド(OAT-Bund spread)は大きな混乱にもかかわらず、ほとんど動いておらず、トレーダーの中にはTPIが使われていると疑う向きもある。我々はTPIが使われているか知ることができるのか。少なくともPEPPの償還再投資についてはその利用が知られていた
- 柔軟性が最後に使われたのは22年夏でそれ以来、まったく使われていない
- TPIについては議論していない
- もし条件、規約、公布、様式に興味があれば、すばらしい報道発表資料がある
- 6回連続での25年の2%目標を見ている見通しへの信頼度の高まりに関して、信頼度が高まれば、データ依存が続く中でも、データは反しない限り、見通しには市場の政策金利経路が前提とされているので、ECBが次回の会合で利下げすると推測することは正しいのか
- 我々はデータ依存であり、特定の時点で特定の何かを推測することは正しいアプローチではないと思う
- 我々は特定の経路は確約していない
- 見通しの成長率がすでにかなり低いということを考えると、米国の新政権から予想される成長の減速を織り込んでいるのか、
- 米国の時期政権が決定する可能性がある政策については、ベースラインに織り込まれていないが、私の記憶では減税の延長は例外であり、考慮されている
- 貿易の不確実性については、リスク評価の部分に含められている
- 特定の加盟国での政情不安は目標到達へのリスクとなるのか、ECBはそれにどのように対応するのか
- 特定の加盟国についてはコメントしない
- いくつかの加盟国が予算提出していないことに起因する不確実性がある
- 少なくとも4か国が古い予算で運営されているか、予算がない状態にある
- 予算が不透明であるため、財政見通しがやや複雑になっている
- 為替レートを目標にしていないことは承知しているが、インフレ率の点からユーロがパリティ(1ユーロ=1ドル)を下回ることは追加の懸念事項となるか
- 我々は為替レートを目標にしていないが、明らかにインフレ率に影響を及ぼすため、注視しており、今後の数週間、数か月は注意を払い続けるだろう
- 金融政策の制限度合いについて。引き続き制限的であるようだが、依然としてかなり制限的なのか、あるいはわずかに制限的なのか、異なるメンバーが異なる見解を述べているので、示して欲しい
- 月曜日に特にこの問題について講演を行うので、その講演を見ることを強くお勧めする
- 金融政策の方向性とは関係ないが、来年2月、ドイツで新たな総選挙が計画されており、右派政党のドイツのための選択肢(AfD)がEUやユーロからの離脱を訴えている。この主張は新しくはないが、今回の選挙ではこの政党への支持が強いと見られ、ECBが存在するなか、誰がユーロシステムの民主主義を守るのか、今、何が言えるか
- EUは設立加盟国によって設立され、そのひとつがドイツである
- 私は、設立の根底にある歴史が、すべての人の心にしっかりと刻まれていることを心から願っている
- 中立金利について。余地があるのか、まったくないのか、異なるメンバーが異なる見解を示している。あたなの見解はどうか
- 複数の理由から中立金利は以前より少し高いというのが共通見解であると思う
- 現時点では時期尚早だが、スタッフのレポートでは1.75%から2.5%の範囲が示されていたと記憶している
- そこに近づいた時、議論することになるだろう
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年12月13日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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