2024年12月13日

欧州経済見通し-逆風のなか、回復は緩慢な足取りに

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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■要旨
 
  1. 欧州経済はロシア・ウクライナ戦争を機に発生したエネルギー価格の高騰とインフレ急進、金融引き締めの影響を受けた停滞から脱しつつあるが、その足取りは緩慢であり、競争力低下という構造的な課題に直面している。また、政治の不透明感も増している。
     
  2. 7-9月期の実質成長率は前期比0.4%(年率1.7%)となり、1-3月期(前期比0.3%)、4-6月期(同0.2%)から加速した。雇用や所得環境の改善を受け、今期の成長は個人消費が主導した。ただし、消費を除く需要項目は低迷し、消費の回復力も所得と比較すると弱い。また、成長率と比較して、家計や企業の景況感改善は遅れている。
     
  3. 総合インフレ率は2%目標前後で推移しているが、コアインフレはサービスインフレが高止まりしていることを反映して、やや高めの伸び率で横ばい圏の動きとなっている。
     
  4. ECBはインフレ圧力の緩和と2%目標達成の見通しが強まったことを背景に、利下げサイクルを開始した。足もとではインフレ下振れリスクにも配慮し、政策金利の引き下げペースをやや加速させ、12月までに4回、合計1.0%ポイントの利下げを実施した。
     
  5. 今後も消費を中心とした回復が見込まれるが、構造的・政治的な課題を抱えるなかで、成長ペースは緩慢なものになるだろう。成長率は24年0.8%、25年1.4%、26年1.4%、インフレ率は24年2.4%、25年2.1%、26年2.0%を予想している(図表1・2)。ECBは中立金利付近まで当面は毎会合の利下げを継続すると予想する。
     
  6. 予想に対するリスクは、成長率に対しては下方(域内、域外経済それぞれの減速リスク)に傾き、インフレに対しては上方(賃金上昇率の高止まりによる想定以上のインフレ圧力など)と下方(需要減速によるディスインフレ加速など)の双方に不確実性があると考える。また、トランプ氏の掲げる保護主義的な貿易政策は、成長率とインフレ率の双方に対して上方にも下方にも作用し得るリスクと言える。
(図表1)ユーロ圏の実質GDP/(図表2)ユーロ圏の物価・金利・失業率見通し
■目次

1.経済・金融環境の現状
  ・実体経済:ようやく個人消費が加速
  ・景況感は引き続き低迷
  ・労働市場は製造業中心に軟化しているものの、サービス業では依然ひっ迫 
  ・物価・賃金:コアインフレが粘着性の強い動き
  ・財政政策:独仏では政策の不透明感が増す
  ・金融政策・金利:利下げペースを加速
2.経済・金融環境の見通し
  ・見通し:消費主導の成長が継続
  ・リスク:成長率は下方、インフレは上下双方にリスク

(2024年12月13日「Weekly エコノミスト・レター」)

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