- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 保険会社経営 >
- 気候変動:死亡率シナリオの作成-気候変動の経路に応じて日本全体の将来死亡率を予測してみると…
気候変動:死亡率シナリオの作成-気候変動の経路に応じて日本全体の将来死亡率を予測してみると…

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
6――死亡率の予測結果
1|気候指数が死亡率に与える影響割合は2%弱
回帰式は、東日本大震災と、コロナ禍の影響を除いた直近の10年(2009-2019年(2011年を除く))の死亡率と気候指数から算定する。説明変数の係数は、前回のレポートのものと変わらない。2024年1月18日のレポートのものからは、(1)気候指数の作成にあたり父島・南鳥島の気象データを用いないことと、(2)回帰式の説明変数から海面水位指数を除去したことの、2つの点が異なっている。(各回帰式の係数等については、付録図表をご参照いただきたい。)
ここで、回帰式における気候指数の影響を見ておこう。まず、回帰式ごとに係数を標準化39して相互に比較可能とする。この標準化した後の変数は、「標準偏回帰係数」と呼ばれる。その上で、気候指数の標準偏回帰係数の和の絶対値を分子に、その数値と時間項の標準偏回帰係数の絶対値と各ダミー変数の標準偏回帰係数の絶対値の和を分母にとる。そして、その分数の値を、気候指数が死亡率に与える影響割合とみなすこととした。40
回帰式は全部で504本あり、この影響割合の値はその本数の数だけ得られる。そこで、2018~22年の死亡数の実績をもとに、加重平均して、影響割合の平均値を求めることとした。
その結果、気候指数の影響割合は、男性1.7%、女性1.8%、男女計1.7%となった。2%程度としていた2024年1月18日のレポートでの割合を、やや下回る水準となった。41,42

39 標準化は、係数に当該説明変数の標準偏差を掛け算し、目的変数の標準偏差で割り算して行う。
40 説明変数間の相関関係を考慮せずに簡易な計算を行った。
41 回帰式において海面水位の項を除去していることが、主な原因と考えられる。
42 気候変動が死亡数に与える影響については、次章を参照いただきたい。
2|2060年代以降、SSP5-8.5はSSP1-2.6を上回り、徐々にその差が拡大
気候指数と死亡率の関係式(回帰式)に各経路に応じた気候指数を代入して、死亡率の推移をグラフに表示した。各グラフは、日本全体の男性と女性の90-94歳の死亡率43を表している。
男女とも、死亡率は、冬季に上昇、夏季に低下して、細かい上下動を繰り返している。44
SSP1-1.9とSSP2-4.5は、SSP1-2.6の近辺で推移している。一方、SSP5-8.5は、2060年代以降、SSP1-2.6を上回り、徐々にその差が拡大している。特に、女性はその差の拡大が顕著となっている。

ここで、モデルの最大値と最小値を示す点線に注目してみよう。平均値を示す実線をはさんで、上下に大きく広がっている。今回の計算結果では、経路間の違いだけではなく、モデル間の違いが大きくあらわれていることになる。特に、SSP5-8.5でのモデル間の差異(紫色の点線の幅)は、SSP1-2.6での差異(緑色の点線の幅)よりも大きく広がっている。気候変動が進むと、死亡率の水準が上昇するだけではなく、モデル間の上昇の差異が広がっていく、との予測結果が得られたと言える。
43 今世紀中に平均寿命が延伸することを見越して、90-94歳の年齢群団を対象に、死亡率をグラフで表示していくこととした。
44 次節の死亡数の計算には、この死亡率を用いている。
3|死亡率は、2060年代以降、SSP5-8.5の経路がSSP1-1.9の経路を上回ることが多くなる
次に、気候変動の影響を見るために、気候変動がなかった場合の死亡率を計算してみた45。それとの比較をしたものが、次のグラフである。気候変動なしの場合を基準として、それとの差を表示している。実線のモデル平均値とともに、点線でモデル最大値やモデル最小値も示している。SSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP2-4.5は、気候変動なしから緩やかに上側に乖離している。SSP5-8.5も2050年代までは乖離が緩やかだが、2060年代以降は乖離が徐々に拡大している。特に、女性は顕著となっている。

以降の本章の図表では、経路間の死亡率の差異に焦点を当てるため、気候変動なしとの比較は行わない。(次章では、死亡数の比較において、気候変動なしの場合を基準として用いる。) また、モデル平均の実線のみを示し、最大値と最小値の点線は表示しない。なお、付録図表に、モデルの最大値と最小値の点線を示した比較グラフを男女別、年齢群団別に所収しているのでご参照いただきたい。
45 気候変動がなかった場合の死亡率は、現在(正確には、回帰式作成に用いた学習データの時期(2009~2019年(2011年を除く)))の気候の状態が2100年まで続くとした場合の死亡率を指す。具体的には、気候指数の項をすべてなくして、時間項、定数項、地域区分ダミー項、月ダミー項だけからなる回帰式を作成して、その回帰式に、時間項の変数、地域区分ダミー項と月ダミー項のダミー変数を代入して計算した。
(2024年12月24日「基礎研レポート」)
このレポートの関連カテゴリ

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/18 | 気候変動:アクチュアリースキルの活用-「プラネタリー・ソルベンシー」の枠組みに根差したリスク管理とは? | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
2025/03/11 | 国民負担率 24年度45.8%の見込み-高齢化を背景に、欧州諸国との差は徐々に縮小 | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/03/04 | サイバーリスクのモデリング-相互に接続されたシステミックリスクをどうモデリングする? | 篠原 拓也 | 保険・年金フォーカス |
2025/02/25 | 気候アパルトヘイトとNCQG-気候変動問題による格差の拡大は抑えられるか? | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
新着記事
-
2025年03月19日
日銀短観(3月調査)予測~大企業製造業の業況判断DIは2ポイント低下の12と予想、トランプ関税の影響度に注目 -
2025年03月19日
孤独・孤立対策の推進で必要な手立ては?-自治体は既存の資源や仕組みの活用を、多様な場づくりに向けて民間の役割も重要に -
2025年03月19日
マンションと大規模修繕(6)-中古マンション購入時には修繕・管理情報の確認・理解が大切に -
2025年03月19日
貿易統計25年2月-関税引き上げ前の駆け込みもあり、貿易収支(季節調整値)が黒字に -
2025年03月19日
米住宅着工・許可件数(25年2月)-着工件数(前月比)は悪天候から回復し、前月から大幅増加、市場予想も上回る
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【気候変動:死亡率シナリオの作成-気候変動の経路に応じて日本全体の将来死亡率を予測してみると…】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
気候変動:死亡率シナリオの作成-気候変動の経路に応じて日本全体の将来死亡率を予測してみると…のレポート Topへ