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気候変動:死亡率シナリオの作成-気候変動の経路に応じて日本全体の将来死亡率を予測してみると…

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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次に、将来(2024-2100年)の期間における、経路ごとの気候指数の推移を見ていく。ここでは、経路ごとの将来データの違いが、どのように気候指数の形で反映されているかを確認していくことが主な目的となる。
なお、過去の観測実績との接続(2024年)の前後で、気候指数の上昇や低下などの傾向がどのように変化しているかを見るために、2011-2023年の観測実績もあわせて表示する。
(1) 高温指数
高温指数は、過去の観測実績が上昇傾向を示している。SSP1-1.9の経路では、高温指数は上下の振動を繰り返しながら、概ね横這いで推移している。SSP1-2.6の経路も当面は横這いで推移するが、2080年代半ばより上昇し、2090年頃には3に達することもある。ただし、その後は低下している。SSP2-4.5の経路では、高温指数は2060年代後半以降、10年程度での長さで上下動を繰り返し、2080年代に5を超えている。SSP5-8.5の経路では、高温指数は一貫して上昇し、2090年代に9を超えている。
このように、高温指数は、経路ごとの違いが顕著と言える。なお、過去の観測実績との接続には、特に問題はないものとみられる。

(2) 低温指数
低温指数は、過去の観測実績が低下傾向を表している。SSP1-1.9とSSP1-2.6の経路では、この低下傾向が消失し、低温指数は概ね横這いで推移するものとなっている。SSP2-4.5の経路では、低下傾向は残るものの、なだらかな低下で推移するものとなっている。一方、SSP5-8.5の経路では、低下傾向が続き、低温指数は-1.5近辺にまで下がる。なお、過去の観測実績との接続には、特に問題はないものとみられる。

降水指数は、過去の観測実績ではゼロ近辺で推移してきた。SSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP5-8.5の4経路とも、一貫した上昇や低下の傾向は見られず、いずれも、数年ごとに上昇と低下を繰り返して推移する形となっている。なお、過去の観測実績との接続については、各経路で変動の幅がやや大きくなる形となっている。

(4) 乾燥指数
乾燥指数は、過去の観測実績ではゼロ近辺で推移してきた。SSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP5-8.5の4経路とも上昇して、2030年代には1~2程度の水準で推移するものとなっている。その後、2050年代後半から、各経路間の違いが表れ始める。SSP1-2.6の経路では乾燥指数は概ね2を下回る水準で推移する。一方、SSP5-8.5の経路では、乾燥指数は、2.5を超える水準にまで上昇する。
なお、過去の観測実績との接続については、各経路での2020年代の上昇(上昇幅 +2程度)が目立つものとなっている。これは、将来予測において、降水現象の有無に関する「現象なし情報」についてのみなし(観測地点を取り囲む4つの1km格子点の降水量がすべてゼロであった場合に、降水の「現象なし」とみなす)が、実態よりも乾燥の判定につながりやすいことによるものと見られる。

(5) 風指数
風指数は、観測実績では近年プラスの値で推移してきた。SSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP2-4.5の経路では、この水準が概ね横這いのまま、0~0.5程度で推移するものとなっている。SSP5-8.5の経路でも、指数は横這いが続くものの、2050年代以降緩やかに低下し、2080年代以降はゼロ近辺で推移するものとなっている。なお、過去の観測実績との接続には、特に問題はないものとみられる。

(6) 湿度指数
湿度指数は、過去の観測実績では、2010年頃までゼロ近辺で推移していた。2010年代半ばからは、一転して上昇している。SSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP5-8.5の4経路とも、湿度指数は低下して、ゼロ近辺のマイナスの値で推移するものとなっている。その後も、一貫した上昇や低下の傾向は見られない。いずれも、数年ごとに上昇と低下を繰り返して推移する形となっている。なお、過去の観測実績との接続については、各経路での2020年代の低下(低下幅 -1~-0.5程度)がやや目立っている。

以上をまとめると、高温、低温、乾燥の指数について、経路間の違いが鮮明となっている。特に、高温指数については、SSP1-1.9やSSP1-2.6の経路では概ね横這いで推移する一方、SSP2-4.5の経路では5、SSP5-8.5の経路では9を超えて10近くにまで上昇するなど、違いが顕著となっている。一方で、降水、風、湿度の指数については、経路間の違いはあまり見られない形となっている。
なお、過去の観測実績との接続については、乾燥については各経路での2020年代の上昇が目立ち、湿度については2020年代の低下がやや目立つものとなっている。高温、低温、降水、風は、特に問題はないものとみられる。
なお、実際の死亡率予測は、地域区分別に行う。付録図表に、地域区分別の気候指数の推移を示したグラフを所収しているので、ご参照いただきたい。
(2024年12月24日「基礎研レポート」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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