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働くうえで性別による不利益や得を経験したことがあるか~男性は若年ほど「不利益」を経験。中高年以上女性の「不利益」は解消されないままか

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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1――はじめに
近年、企業等では、雇用における男女の均等な機会と待遇の確保を図ることや、女性が妊娠中および出産後の健康を確保すること、子育てをしながらも就労できる環境の整備が進められてきた。しかし、男女の役割分担に対する考え方や、女性の就労継続に対する考え方は年齢や育った環境、職場によってかなり差があると考えられる。これまでの男女の役割分担を見直す議論が強まり、女性の就労継続を支援する中で、若い男性を中心として、必ずしも心地よく働けていない人もいる可能性が考えられた。
2024年に行った同調査では、働くうえでの不利益に加えて、性別を理由として得をしたことについても尋ねた。本稿では、その結果も踏まえて、どういった人が、男女の性別による不利益や得を感じているかを紹介する。
1 村松容子「性別を理由とする不利益~男性は低年齢ほど不利益を感じている」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2023年6月26日)https://www.nli-research.co.jp/files/topics/75224_ext_18_0.pdf?site=nli
2――不利益を被った・得したと感じた割合
本稿で使用するデータは、ニッセイ基礎研究所が2019年3月から毎年実施している「被用者の働き方と健康に関する調査」の2024年における調査結果である。調査はインターネットで2024年3月に実施した。対象は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女で、回収件数は5,725件だった。全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて回収した。
使用した質問は、現在の職場について「働くうえで、性別を理由として不利益を被ったと感じることがある」と「働くうえで、性別を理由として得をしたと感じることがある」に対する回答である。回答は「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらとも言えない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」で、「あてはまる」または「ややあてはまる」場合に、それぞれ「不利益があった」「得をした」とした。この2問の回答を組み合わせて「不利益だけ」「不利益も得も」「得だけ」「いずれもなし」に分類し、性別・年齢群別に図表1に示す。
図表1のとおり、男女とも、過半数が「いずれもなし」だった。また、男女とも、高年齢ほど「いずれもなし」の割合が高く、若年ほど「不利益だけ」「不利益も得も」「得だけ」の割合が高かった。ただし、その傾向は、男女で異なる。男性は、「不利益だけ」「不利益も得も」「得だけ」のいずれも若年ほど高い。しかし、女性は、「不利益も得も」と「得だけ」が若年ほど高い点は男性と同じであるが、「不利益だけ」は高年齢ほど高い。年齢が高い男性では、「不利益」を感じた割合が低いだけでなく、「得」と感じた割合も低く、仕事をする中で、性別に関する差異を意識する機会が少なかった可能性がある。「得だけ」と回答した割合が、今回の年齢群では最も若い34歳以下の女性で最も高い点は特徴的だ。
(1) 推計方法
つづいて、家族構成や子どもの状況、収入や評価についての考え方、職場の実態、仕事と家庭との両立についての考え方と不利益や得といった感じ方等との関係をみるために、被説明変数を、「不利益だけ」「不利益も得も」「得だけ」「いずれもなし」として、それぞれについて線形確率モデルで推計を行った。説明変数は年齢、配偶関係、子の有無のほか、ワークエンゲージメント、収入や評価についての考え方、職場の実態、両立についての考え方とした。また、職業、仕事内容、本人年収、2K6を調整した。
収入や評価についての考え方としては、「裕福な暮らしができるほど十分に稼ぎたい3」「人並みの生活ができるぐらいに収入を得たい3」の2つの質問を使い、「裕福な暮らしができるほど十分に稼ぎたい」にあてはまる場合を「裕福な暮らし」、「裕福な暮らしができるほど十分に稼ぎたい」にあてはまらないが「人並みの生活ができるぐらいに収入を得たい」にあてはまる場合を「人並みの生活」、いずれもあてはまらない場合を「いずれにもあてはまらない」とした。また、評価についての考え方として「能力や成果に応じて評価されるべきだ3」にあてはまるかどうかとした。
職場の実態としては、「職場では、(正規、非正規、アルバイトなど)いろいろな立場の人が職場の一員として尊重されている4」「職場で自分がいじめにあっている(セクハラ、パワハラを含む)4」「休暇を取得する人がいれば、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだ」「意欲を引き出したり、キャリアに役立つ教育が行われている4」「仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できる3」にあてはまるかどうかとした。「休暇を取得する人がいれば、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだ」は、「職場で急な欠勤があったとき、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだ3」と「職場で計画的な長期休暇があったとき、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだ3」の2つの質問を使い、この2つの回答の平均とした。
両立についての考え方としては、「家族との時間を多少犠牲にせざるをえなくても、仕事で成功したい3」「仕事をするなら、やりがいよりも家庭や日常生活との両立のしやすさを重視する3」「男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇を取るべきだ3」「女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましい3」「女性は、専業主婦として家庭に専念するより、少しでも働いているべきだ3」にあてはまるかどうかとした。
2 心理的ストレス反応を含む精神的な問題の程度を表す指標。6つの質問の合計点が高いほど、精神的な問題が重い可能性があるとされる。
3 「あてはまる」「ややあてはあまる」「どちらとも言えない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の5段階。また、「あてはまる」「ややあてはまる」を「あてはまる」、それ以外を「あてはまらない」と見なした。
4 「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」の4段階。
結果を図表2に示す。
まず、男性についてみると、「不利益だけ」と回答した人の特徴として、年齢が若いこと、配偶者あり(無職)や離死別者が独身者と比べて低いこと、人並みの生活や裕福な暮らしのための収入を得たいと思っていること、現在の職場で自分がいじめにあっていると感じていること、休暇を取得する人がいれば、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだと感じていること、家族との時間を多少犠牲にせざるを得なくても仕事で成功したいと思っていることがあげられた。「不利益も得も」と回答した人の特徴として、年齢が若いこと、配偶者あり(無職)で少なく離死別者で多いこと、26歳以上の子がいること、人並みの生活や裕福な暮らしのための収入を得たいと思っていること、能力や成果に応じて評価されるべきとは思っていないこと、職場ではいろいろな立場の人が職場の一員として尊重されていると感じていないこと、現在の職場で自分がいじめにあっていると感じていること、休暇を取得する人がいれば、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだと感じていること、仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できると感じていること、家族との時間を多少犠牲にせざるを得なくても仕事で成功したいと思っていること、仕事をするなら、やりがいよりも家庭や日常生活との両立のしやすさを重視すること、男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇をとるべきだと思うこと、女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましいと思うこと、女性は専業主婦として家庭に専念するより、少しでも働いているべきだと思うことがあげられた。「得だけ」と回答した人の特徴として、年齢が若いこと、26歳以上の子をもつ人が少ないこと、ワークエンゲージメントが高いこと、人並みの生活や裕福な暮らしのための収入を得たいと思っていること、仕事をするなら、やりがいよりも家庭や日常生活との両立のしやすさを重視していないことがあげられた。「いずれもなし」の人の特徴として、年齢が高いこと、配偶者あり(無職)が多いこと、人並みの生活や裕福な暮らしのための収入を得たいという考えがないこと、職場ではいろいろな立場の人が職場の一員として尊重されていると感じていること、現在の職場で自分がいじめにあっていると感じていないこと、休暇を取得する人がいれば、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちであると感じていないこと、仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できるわけではないこと、家族との時間をせざるを得なくても仕事で成功したいとは思っていないこと、男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇をとるべきだとは思っていないこと、女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましいとは思っていないこと、女性は専業主婦として家庭に専念するより、少しでも働いているべきだとは思っていないことがあげられた。
女性についてみると、「不利益だけ」と回答した人の特徴として、裕福な暮らしをするための収入を得たいと思っていること、能力や成果に応じて評価されるべきと思っていること、職場ではいろいろな立場の人が職場の一員として尊重されていると感じていないこと、現在の職場で自分がいじめにあっていると感じていること、休暇を取得する人がいれば、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだと感じていること、意欲を引き出したり、キャリアに役立つ教育が行われていると感じていないこと、男性も少なくとも数週間~数か月は育児休暇をとるべきだと思うこと、女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましいと思わないことがあげられた。「不利益も得も」と回答した人の特徴として、末子が16~25歳であること、人並みの生活や裕福な暮らしのための収入を得たいと思っていること、現在の職場で自分がいじめにあっていると感じていること、休暇を取得する人がいれば、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだと感じていること、仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できると感じていること、家族との時間をせざるを得なくても仕事で成功したいと思っていること、女性は子どもができたら、家庭を優先するのが望ましいと思っていることがあげられた。「得だけ」と回答した人の特徴として、年齢が若いこと、配偶者あり(無職)が少ないこと、末子が6歳以下である人が多く、26歳以上である人が少ないこと、ワークエンゲージメントが高いこと、裕福な暮らしのための収入を得たいと思っていること、能力や成果に応じて評価されるべきと思っていること、休暇を取得する人がいれば、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだと感じていないこと、家族との時間をせざるを得なくても仕事で成功したいとは思っていないことがあげられた。「いずれもなし」の人の特徴として、年齢が高いこと、配偶者あり(無職)が多いこと、末子が6歳以下である人が少ないこと、人並みの生活や裕福な暮らしのための収入を得たいという考えがないこと、能力や成果に応じて評価されるべきとは思っていないこと、休暇を取得する人がいれば、同じ職場の同僚がカバーするために負担が増しがちだと感じていないこと、仕事と育児や介護を両立するための制度があり、必要な人はおおむね利用できるわけではないこと、家族との時間をせざるを得なくても仕事で成功したいとは思っていないことがあげられた。
(2024年12月03日「基礎研レポート」)
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