2024年11月29日

米国では、生保加入には「人によるコンサル」が不可欠だと考えられている-ニーズは高いが、実績はわずかなインターネット加入-インターネットを経由したダイレクト募集からは撤退の動き-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――なかなか普及しないインターネットでの生保加入(米国)

米国における生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるリムラによれば、インターネットによる生保加入を巡る消費者の意向と現実には断絶があり、インターネット加入意向は高まっているものの、実際の保険加入場面では大半が対人経由だという。
 
リムラでは、例年、生保に加入するとすれば「対人」と「インターネット」、どちらで加入したいか、についての調査を行っている(図表1)。これによれば、従来は、対人がインターネットを上回ってきたが、コロナ禍を契機に対人は大きく減少し、2023年は、インターネット(32%)が対面(29%)を逆転した(図表1)。
【図表1】「対人」と「インターネット」どちらで保険加入したいか(米国)
一方、2023年における保険加入実績を見ると、代理店(専属チャネル、独立チャネル)を通しての加入が大半を占めている。インターネット加入は、図表上は明示されていないが、「ダイレクトチャネル」に含まれている。「ダイレクトチャネル」には、インターネット加入の他、ダイレクトメール、電話での勧誘、銀行窓販等が含まれ、インターネット加入は、「ダイレクトチャネル」の一部、ということになり、占率は低いといえよう。
【図表2】チャネル別販売業績(米国)
リムラでは、「知識曲線と生保加入は一致する」(=生保に対して理解が深まらないと加入しない。)としたうえで、米国では「インターネットでの生保加入ニーズと加入実態には断絶があり、生保加入にあたっては、最低1回、多くは2回以上、専門家との対面でのミーティングを経て加入に至って」おり、「顧客の教育・啓蒙に最も成功し、保険加入まで至るのは、ほとんどの場合、代理店や金融の専門家である」としている4

また、デジタルを通じた生保直接販売は、成功しておらず、ここ数年で、多くの新興インシュアテックや保険会社が、デジタルを通じた生保直接販売から撤退している、という5

2023年4月17日のウォールストリートジャーナル「Life Insurance Is Profitable Again, but Too Late for Many Insurers」においても、「彼ら(=代理店)はキッチンで主婦たちと親しく話ができるため、消費者が信頼して保険を買うようになるのだ。(生命)保険という商品は、人から勧められなければ買わないものだ。」6とされており、米国では、生保は「対人」にて販売されることが広く認知されていることを示していると考えられる。
【リムラ(米国)の指摘】
 
4 LIMRA 「2024 Insurance Barometer Study Report 2: Reaching New Life Insurance Buyers 」。
5 LIMRA 「2024 Insurance Barometer Study Report 2: Reaching New Life Insurance Buyers 」。
6 日本語訳は、保険毎日新聞「海外トピックス ⽶国⾦利引上げで好機到来 ⽣命保険ビジネスはどうなるか 個⼈向け市場では相互保険会社が伸⻑」(2023年5月8日)より。( )内は、補足として筆者にて記入。

2――日本における状況

2――日本における状況

日本の状況はどうなのだろうか。生命保険文化センターが3年に一度、発行している「生命保険に関する全国実態調査」の最新版(令和3年度)には、「加入意向のあるチャネル」ならびに「直近加入契約の加入チャネル」についての調査結果が掲載されている。

それによれば、インターネット加入の意向は17.4%あるものの、実際のインターネット加入は4.0%となっており、傾向としては日本も米国同様の状況にあるといえよう。

なお、リムラの調査結果は、医療保険、個人年金は対象外とされているが、生命保険文化センターの同調査では、医療保険、個人年金も対象に入っている点については、留意が必要である。
【図表3】加入意向のあるチャネル /【図表4】直近加入契約の加入チャネル
インターネット加入ニーズと、実際の加入チャルとの間に、差があるのは、日米共通した事象であることがわかった。

では、デジタル化は、生保加入にとってプラスにならないかといえば、筆者はそうではないと考えている。詳細については、また近日中に別レポートにて紹介したいと考えているが、消費者にとって、「インターネットによる情報収集」の重要度は高まっており、デジタルを通じた顧客接点は、一層拡大していくであろう中、各社のデジタル化戦略は会社の将来を左右すると考える。

世界最大の生保マーケットを抱える米国での動きについては、引き続き、注視してまいりたい。

(2024年11月29日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

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